レポート
まちづくりセミナー2014
まちづくりセミナー2014 第一回講演録 講師 松本大地氏
2015/04/24
■ タイトル
「経済優先から、生活文化優先へ」。
皆さん、こんにちは。ご紹介頂きました「商い創造研究所」の松本でございます。富山にはもう30回ぐらいは来ています。今週の火曜も富山で、市会議員の方々、富山市、商店街代表の方々へのご講演をさせて頂きました。今日は新しい切り口で、「経済優先から、生活文化優先へ」という視点で中心市街地を捉えたらいいのではというご提案をさせていただきたいと思います。
■ 日本の小売業
平成13年から10年間の間で、小売店は延びていたのでしょうか。アベノミクスでの経済効果といいますが、実は百貨店は8兆6000億円から6兆2000億円まで減り、恐らく近いうちには6兆円を割るのではないかという声もあります。スーパーにおいても然り。しかし、コンビニやドラッグストア、イーコマースの通信販売はずっと伸びている。注目していただきたいのは、136兆円から134兆円と、小売業全体が全然成長していないこと。これが日本の現状です。
■日本のファッション市場
GMSを事例に挙げます。GMSとは、ゼネラルマーチャンダイズストア、いわゆる総合スーパーのことです。イトーヨーカ堂やイオンなど、食品だけでなく、衣料やインテリア、雑貨などを扱っているGMS業態は、'90・'91年がピークで、16兆5000億あったが2012年には12兆円まで落ち込んでいます。
どうでしょうか、皆さん、今イオンやイトーヨーカ堂で若い方が衣料品を買っている姿を見たことがあるでしょうか? 要するに今GMSを衰退させているのはファッションなんですね。衣料品業態の根治的な解決ができない限りは、GMSに明日がないと思います。
その分、低価格ファッションの専門店がどんどん伸びてきています。ダイエーがこの世の中からなくなってしまうなんて誰が予測できたでしょうか。今、衣料品だけ抜き取ってみると、GMSの衣料品売上構成比率は23%から、なんと15%落ちている。その分、専門店とインターネット販売が市場を席巻しています。その専門店でどこが伸びているのかというと、ユニクロとしまむらが27%、低価格のレディースのお店が23%。これを足すと、ちょうど5割です。それにプラス、恐らくHIMやフォーエバー21などの海外SPAが6%、コナカや青山、アオキなどのスーツ専門店が12%なんですね。ですから、みんな低価格のファッションしか着ないという、お洒落をして街を歩かない、貧しい日本になった背景はこういう部分もあるんです。
一方、134兆の中で何が伸びているのかというと、先ほどお話ししたコンビニエンスストア。9兆5,000億円にいくとは誰もが考えなかったことです。1974年年に東京都江東区の豊洲木に1件のコンビニエンスストア、セブンイレブンがオープンしました。その時に1番初めに売れた商品は、男性用のサングラスでした。今、日本はどこに行ってもコンビニばっかり。高校生は遊ぶところがなくて、コンビニの駐車場の縁石に座って缶ジュースを飲んでお喋りをしているという、大変貧しい日本になってしまったんじゃないかなと思います。それから、スマートフォンを持っている方が、気楽にインターネットでお買い物をするというような世界になってしまいました。
■ファストファッションは、ブーム
以前、フォーエバー21というファストファッションのお店が原宿にオープンし、530坪で100億円売りました。銀座4丁目にある銀座松坂屋は、あの一等地でその時の売上げは140億円しかなかったんです。なんと7,680坪の大きな館の百貨店が一等地で140億円です。方や、530坪で100億円の売上げ。松坂屋は、1階の旗艦店であるグッチからフォーエバー21に替えました。ところが、結果は140億円から100億にまで下がった。そして今、再開発では、松坂屋は銀座にお店を出さないという自体になりました。
では、ファストファッションは伸びているのでしょうか。私があるファストファッションの裏を歩いていたら、大切な商品がそのまま外に出しっぱなしです。ストックヤードが店内になくて、出しっぱなし。休憩室も当然ありません。ですから、販売の女の子は膝を抱えて車座になって煙草を吸っている。これでは商品に愛を込めて売るという売り場がなくなってしまう。
低価格ファッションは、まさにブームだと思うんです。ブームというのはその次のムーブメントがくると終わってしまうものなんですね。
■ 心の豊かさか、物の豊かさか
少し大きな視野で世の中を見ていただきたいと思います。人口の変化を2014年と1997年で比べてみると、生産年齢人口である15歳から64歳の方がガクッと減ってきていますが、65歳以上の高齢者の方々がたくさん増えています。これはこれからもっともっと急増していきます。その時にどういうふうにお店を作っていくのか、商店街を作っていくのか、街を作っていくのかという話になります。大きな数をシェアで見ていただく時、これを認識して頂きたいんですね。内閣府が行っている調査ですが、「これから皆さんはもっと心の豊かさを求めますか?」「モノの豊かさを求めますか?」というアンケートを長年とっています。人々が求めることが、大きくモノから心に変わった転機になったのは、1983年。東京ディズニーランドができた時に、「お金を使って、こんなに楽しいことがあるんだ」と皆さんが認識し始めたんですね。それまでは、カローラよりクラウンが欲しい、もっと速い車が欲しい、そういう時代がずっと続いていました。
■車は、エコカーが売れる時代
2013年の国内新車販売の売上げ台数ベスト10を挙げてみました。1位のトヨタのアクアから始まって、10位のスズキのスペーシアまで、どんな特徴があるのか。実はすべてハイブリッドの搭載車、もしくは軽自動車。アクアはリッター37km走るんですね。今、エコカーでなければ売れない時代です。10年前に1番売れていた車はカローラですが、もうベスト10にも入らなくなりました。環境にやさしいというものが当たり前になってしまった。これを10年前に誰がここまで予想できたでしょうか。こういう時代になってきました。
■ モノの先にある何か
私たちは、今、モノの先にある何かを考えなければいけないと思います。今、皆さんは地球温暖化を身近に感じ、その環境問題を考えることや実行することが楽しくなってきました。特に若い方は、かっこいいと思っています。生活者の思考が変わってくれば、今までのような「便利、早い、安い」という尺度だけでは売れない時代になっています。そうすると、何かを買う時には、その社会貢献度まで考えるようになるんですね。そして、自分たちのライフスタイル、生き方、暮らしぶりが良くなっていくモノを提案していく企業、街、商店街だけが生き残っていくと私は思っています。
●蔦屋書店に見る、日常の晴れ
特に重要なキーワードは、「日常のハレ」です。ディズニーランドは非日常かもしれません。でも、心が安らぐカフェなど、日常の中に晴れが必要なんです。
その分かりやすい事例が、「代官山T-SITE」。代官山の蔦屋書店は2011年にできました。代官山から歩いて5〜6分、一等地の目黒通り沿いに4,000坪です。蔦屋書店の社長・増田宗昭さんは私の鈴屋時代の先輩なのですが、鈴屋を辞めた後「何とか日本で映像の文化、音楽の文化を広めていきたい」と、大阪枚方市で小さな蔦屋書店を作りました。レンタルビデオと本です。蔦屋書店の原点は、浮世絵を売ったり、街の瓦版を作ったりしていた江戸時代の広告代理店でした。それが蔦屋という商号なんですね。それで蔦屋書店という名前でやって、カルチャー・コンビニエンス・クラブを作ったわけです。その業界では日本で一番の企業になったけれども、増田社長は「本当に音楽や本の文化を創ってきたのか」と自問自答し、代官山T-SITEをつくることを決断しました。一等地に低層の建物、多くのグリーンやパブリックスペースを配置しました。定価でしか売れない本やCDでは採算が合うかと社内でも論議がされました。しかし、タクシープールがあり、大きな犬を散歩したり、子供が遊んだり、本を探しに来たり、勉強したり、人と交わったりと、国内外から老若男女がたくさん集まってきます。本屋さんの過ごし方も変わってきました。ここで日常のハレ、ライフスタイルというものを具現化したわけですね。結果、どうだったでしょう。今、平均の滞留時間は3時間です。本屋やレンタルビデオ屋に3時間も滞留することはほぼないですよね。リピーターがすごいんです。
■画期的な図書館で、市民の価値を増やす
テレビ番組で代官山の蔦屋書店を見た佐賀県武雄市の前市長が、「これだ! 自分たちの武雄市の図書館をぜひお願いしよう」とひらめき、東京の会社を訪ねました。それでオープンしたのが、武雄図書館です。人口5万人の地方都市に、どんどん全国から人が集まってきます。泊まる場所も市内の飲食店も満杯になり、図書館利用者が3.6倍になりました。年中無休で9時から21時の4時間延長になりました。新書も買えます。
すごいのは、佐賀県に初めてのスタバを持ってきたことです。私が1ヶ月前に行ったときには、観光バスで来た高齢の女性たちがカフェラテを頼んでいました。スタバでカフェをする体験価値ですね。図書館は日常のものですが、新しく文化にして、市民のライフスタイル価値を増やしていったということなんです。
■生活提案から、生活創造の時代へ
私は、消費の対象が「安い、大きい、便利」といった経済優先から、「心地いい、美しい、社会に役立つ」といった生活文化優先の時代へと変わっていったと思います。モノのない時には、「こんなモノはどうですか?」という生活提案をしてきましたが、今はもっと豊かな暮らし、「ライフスタイルをこのような形で一緒に作りましょう、街も作りましょう、お店も作りましょう」というような生活創造の時代になってきたわけです。
■ 日常のハレは、あちこちにある
環水公園にスタバが出来た当時は世界で1番美しいスターバックスとして、みんなが見に行きました。今も金沢や新潟ナンバーがあるのを見ると、同じスタバなのに「ここで体験をしてみたいな」ということの表れでしょう。日常のハレは、本やCDやカフェだけじゃなく、インテリア、音楽、映画など色々なジャンルがチャンスなんですね。そこを経済優先から生活文化優先というキーワードで切り替えていけば、どんどん伸びしろがあるわけです。
●社会交流欲
私は、全国のいくつかの街づくり、地域再生を行っています。熊本の街を新しい生活文化の街にしていくプロジェクトも進めています。そんな地域ことをしながら、東京駅のグランスタなど様々な商業施設のプロデュースもしていますが、日本最大のショッピングセンター、埼玉県越谷にあるレイクタウンのプロデュースも担当しました。開業後、イオンマガジンという広報誌のトップページにどういうコンセプトを考えたのかを綴りました。
その時のキーワードは、「社会交流欲」です。アブラハム・マズローの考えた欲求の5段階説、もしマズローが今の時代を生きていれば、自己実現欲が最終段階ではなく、社会交流欲じゃないかと思いました。自分だけが幸せになるのではなくて、自分が住む街、自分の友人知人、一緒に仲間になって良かったねというようなコミュニティができて初めて自己実現ができるという考え方で、社会と交わる社会交流をどう具現化するかに力を入れました。
■ポートランドの始まりは、ナイキがきっかけ
今日、どうしてもお話ししたいのが、ポートランドのことです。1997年にタイガー・ウッズが初来日した時、お台場のダイバシティがまだ更地だった時にテーマパークを作ったんです。当時はナイキの靴が流行っていて、ナイキの靴が盗まれるような時代だったんですね。その時、アメリカのナイキ社からのプロデュース仕事で、タイガー・ウッズのための3日間だけのテーマパークを作りました。'98年の長野オリンピックの時にもナイキ社から依頼があり、長野オリンピックのナイキを含めたブース空間を作りました。その時に「契約は本社でお願いしたい」と言われました。ナイキの本社は、ポートランド近郊のビバートンというところにあり、そこから私のポートランドがスタートしました。
■ 1つのビルが、1つのカフェが、街を変える
今、ポートランドの影響を受けて、東京の中に多くのポートランドスタイルができてきています。蔵前の隅田川沿いに「MIRROR(ミラー)」というビルができました。隅田川は本当に汚くて人が寄らなかったのですが、今はけっこうキレイになってきたんです。川沿いにあった山野楽器の倉庫を買ったのがバルニバーニという会社で、1階から7階までお洒落な空間に変わりました。これはポートランドのウィラメット川の開発とよく似ているんですね。バルニバービ社長の佐藤さんと、先週まで一緒にポートランドに行っていたんです。やはり、彼はすごいプロデュース能力のある方で、彼のお店ができると周りにいいお店がたくさんでき、街が変わっていく。
佐藤さんのカフェは、神田錦町にもあります。デベロッパーの安田不動産は、そのビルにコンビニエンスストアが入っても街が変わらない。家賃は低くても佐藤さんのようなお店を入れたい」ということで、バルニバービのカフェを誘致したんです。すると、周りを歩く人たちのスタイルが変わってきて、オシャレになってきたんです。千駄ヶ谷でも大阪の中之島でも、街を1軒のカフェが変えているんですね。それから、天王洲アイルに、アクタスが2014年にスローハウスを造りました。これも本当に分からない場所なのですが、ポートランドのライフスタイル雑誌「キンフォーク」と組んで一緒にファッションブランド商品を開発をしました。
ポートランドの日常を豊かにするライフスタイルは、日本のファッションや雑貨、カフェ業態などに大きな影響を与えています。
■ ライフスタイル充足消費と社会交流消費
ライフスタイル、生活の質、特に日常の生活が豊かになるライフスタイルの充足消費、これは大きなビジネスチャンスです。もう一つは社会交流消費です。これからは街づくり、地域の共生を一緒にやっていかないとショッピングセンターは生き残っていけない時代なんですね。物の所有から変わってくると、選択肢はこの2つ、生活の質が向上する充実したライフスタイルづくりのサポートをしてくれる街や店を求めるライフスタイル充足消費と、地域への共生意識から愛着につながる社会交流消費しかないんじゃないかなと思います。
■経済と環境が持続可能な成長を続けるポートランド
富山県とオレゴン州は姉妹提携なんです。森市長も何度も行っていますし、ライトレールができたのもポートランドとのご縁ですし、環境未来都市もそこからなんですね。
ポートランドはオレゴン州。州都はセーラムです。人口は約60万人。今は優良企業が、環境のいいところに本社を移す時代です。まさに、それがポートランドです。シリコンバレーに対して、シリコンフォレストと呼ばれ、IT企業がどんどん集まってきました。今まではナイキやコロンビア、アディダスというようなアウトドアが集中していましたが、ここは経済と環境の両方が持続可能な成長を続けている、世界でも珍しい都市です。
■ポートランドはアメリカ人に大人気
アメリカ人の方に聞いた最近アンケートで、「どの都市が好きですか?」と聞くと、1番がポートランド、2番がシアトルと、ノースウエストのエリアが占めています。アンケートの52%がポートランドを挙げているんですね。今まで話した生活文化、のんびりしたライフスタイル、ライトレール・トランジットを含めた公共交通システム、人柄の良さが評価されています。また、全米で最も環境に優しい都市で、ハイブリッドカーの所有率も1位、自転車通勤する人の数も1位。さらに「知的労働者に最も人気のある都市」にも選ばれています。
もう一つ大きな特徴は、人口あたりのレストランの数がアメリカで1番になったんですね。いい水がある、いい素材があると、シェフがレストランを開きたくなるんですね。ですから、今までのアメリカの食事じゃないんです。去年、西町商店街の石井理事長にも行ってもらいましたが、本当に体にいい健康的な食事が食べられることを実感していただきました。
ポートランドは、立山連峰のようなマウントフッドという山があり、エココンパクトな街が素敵なライフスタイルを作り、人々が幸せになっていくということが、この街の特徴です。高速道路の下に勝手にスケボー場を造っても無闇に禁止するのではなく、使う代わりに飲酒と掃除だけをルール化して開放している、そんな街です。
■ 毎週500人が増える街
そして、驚くなかれ。ポートランドは今、毎週500人、人が増えています。それもクリエイティブクラスという知的労働者、優秀なクリエイターがどんどん増えています。 「なぜ、みんなこの街がいいのか」というアンケートをポートランドに住んでいる人にとってみると、「身近にアウトドアがあるのが1番いい」というのが52%。他には「リベラルな考え方がいい」「いい食がある」「賢い都市計画」など、普通の街のアンケート調査では出てこないことが、どんどん出てくるんですね。
■対極、対峙を両立させる新しい都市生活「DUAL
LIFE」
私は、ポートランド特有のライススタイルを「DUAL LIFE」という名前をつけました。これがどういうものかというと、例えば経済発展と環境保全、都市と自然、新しいものと古いものなど、対極にあるものや対比するものを両立させることをいいます。
分かりやすくいえば、郊外はショッピングセンターやロードサイドが栄えているから、中心市街地は寂れてもしょうがないというのはDUAL LIFEではないんです。これからは、郊外では郊外の楽しみ方、ダウンタウンはダウンタウンの楽しみ方を両立させるということをやっていかないとだめなんですね。それを実現している街がポートランドでして、対極、対峙することを両立させる新しい都市生活「NEW LIFESTYLE CREATION」が魅力で、毎週500人が増えています。「じゃあ、DUAL
LIFEって、どういうもの?」というと、例えば公園ですが、土木部や都市公園課が造った土木公園ではなく、公園でマーケットなどを開催して人が集うライフパークにすることで界隈性を生み出すなど、公園が休むだけの場所ではなく、多様に使うことができます。
■「DUAL LIFE」を支える、ポートランドの2つのポリシー
「DUAL LIFE」を支えているものには2つのポリシーがあります。1つはサスティナビリティという持続可能な、人と地球にやさしい暮らし方。もう1つは耳慣れない言葉だと思いますが、ウィーアードという言葉です。1973年に石油ショックがあり、'79年に第二次石油ショックがありました。その時にポートランドでは「資源の無駄遣いは終わった。このままでこの社会はいいんだろうか。ポートランドはこれから車社会ではなくて、人にやさしい街をつくろう。もう1回オレゴンの環境を守っていこうじゃないか」ということで、中心部は車より人に優しいにしよう、人が住んで楽しい街へと方向転換をしています。その時に周りの都市から「車社会のアメリカで車を排除するなんてウィーアードだね」と言われ続けてきたわけです。ウィーアードには、「変わり者」「へんてこりん」という意味があるんですね。それが今、この時代になって奏功しているんです。今、クリエイティブクラスといわれる方々は、アメリカの経済、街を引っ張っています。超高額所得者ではありませんが、普通より収入は高く、創造的で革新的な知識を持つ知的労働者です。彼らが集まる都市には、いい企業・産業ができていきます。また、彼らはアートや農業、デザイン、自転車、グリーンな環境などを好み、車はハイブリッドかエコカーに乗る傾向があり、いい自転車に乗っています。そして、家族を大切にし、DUAL LIFEを楽しむ。そして地球にやさしい永続的な商品を買うというエシカル消費をする志向があり、ワークライフバランスがとれています。
日本からポートランドに来て仕事をしている友人に、「何が1番良かったか」と聞くと、「上司にぺこぺこすることがなくなった。仕事が終われば、付き合い残業がなくて、上司も部下もみんな帰る。だから、有効的に時間を過ごせる」と言います。ワークライフバランスがしっかりしているんですね。そういう街を私たちも作らなければならないのではないでしょうか。ポートランドには、日常の豊かさを支えてくれるものがたくさんあります。
●ポートランド・ファーマーズ・マーケット
DUAL LIFEの代表的なものが、'92年にできた「ポートランド・ファーマーズ・マーケット」です。私は2009年の日経MJの連載で紹介しました。その後、日本の都市のマルシェが広がっていきました。実はこれに街を、ライフスタイルを変えていく大きな要素があるんです。街に健全なコミュニティーができ、自然環境を大切にし、何もいわなくても、みんな自分のバッグを持っています。
街中にあるポートランド州立大学では、毎週土曜日、ファーマーズ・マーケットを開催していて、スタイリッシュなライフスタイルを体験できます。スーパーより高くても、地元でとれた安心・安全なものだと、皆さんが応援するんですね。NPOが協力し、直売するすべてが農家の利益になるようにしました。ですから、農家はどんどん投資していいものをもっともっと作っていきます。日本の市と違って、農家の子供が売っていることも、実はサスティナビリティですね。農家の方々はただ物を作って出荷していればいいのではなく、ここに来ると色々な人と出会えるし、お話ができるんです。農家の方が、美味しい食べ方をお話してくれる。それが、ポートランドのマルシェなんです。マルシェには必ずレストランのパティシエやシェフが参加していて、子供たちの料理教室を開いています。子供たちが生地の上にマルシェで買ってきた果物をのせてデコレーションをしたりすると、子供たちは「将来、私もパティシエになりたいわ」ということにもなるわけです。また、子供でも分かるような分別ゴミが置かれています。ですから、ゴミの捨て方もマルシェで学べるんです。こういうものを日本にもいっぱい作っていきたいですね。
ポートランドの人たちが輪島の朝市に行ったのですが、早々に帰りたいと言いました。それは、自分のお母さんみたいな人が座って、いつ売れるか分からない、音楽も何もない、こんな寂しいことはない。こういうのはマルシェとは言わないとのことでした。ですから、もし、富山でやる場合は、ポートランド・ファーマーズ・マーケットのようなコンセプトでやれば、どれだけ生活空間が豊かになるかが分かると思います。
■ ニューシーズンズ・マーケット
ニューシーズンズ・マーケットという、ユニークなスーパーマーケットがあります。このスーパーマーケットができると、周りの住宅価格が17.5%上がってしまうという、ニューシーズンズ・マーケット現象が起きています。2000年に創業したスーパーなのですが、1年に大体1店舗ずつ作っていて、今13店舗になりました。ここは地産地消で、オレゴン州を中心にノースカリフォルニアと一部ワシントンのものを中心に売っています。
お魚売り場には、大きなボードがあって、サスティナブル・シーフードと書かれています。「世界の65%の漁場で魚の獲りすぎが起こっています。持続可能な漁業で、あなたの買い物で意思を表してください。グリーンのものは最も良い漁場です。イエローは養殖された魚なので、健康に害があるかも知れません。赤は持続可能な方法で収穫されたものじゃない」と、お魚売り場で絶滅危惧種保護や生態系保全が学べます。
そして、驚くことに、ファーマーズマーケットにに1番金銭的な支援をしているのが、この会社なんです。普通だったら「自分のお店の近くでファーマーズマーケットを開催したら、うちの売上げが落ちちゃうじゃないか」と言いますよね。実は農家の方々がファーマーズマーケットで売れるのは全体の生産量のわずかですが、いつでもニューシーズンズマーケットが購入してくれるという関係になることで、農家の方が安心して生産ができるようになっています。一方、ニューシーズンズマーケットは、全米一の1番いい有機野菜や果物が集まったスーパーマーケットとして成り立っていけるのです。
■住民主体の街づくりで、地域満足を高める
人口60万人の街に市会議員は何人いるとお思いでしょうか。たった4人なんです。4人でもできるのは、95あるネバーフットという自治会みたいな組織積極的に自分事として街づくりに参加しているからです。そして街づくりにかかわるプランをつくり、予算申請をするわけです。住民主体なんです。それをやるから、4人でできるんです。「じゃあ、うちの町もすぐ減らそうよ」と言っても、日本は住民がそういうことをやっていない。それを代わりにやっているのがお役所なんですね。また、ニューシーズンズマーケットは、95あるネバーフットの方に、いつでも皆さんが集まってミーティングができるコミュニティルームを開いています。そういう地域貢献をたくさんしているわけです。それで、地域にどれだけ経済効果が出たか、地域の人をどれだけ雇ったか、どれだけ寄付をしていたのか、色々なことを毎年CSRのレポートに出しているんです。その中の一つに、スクールフルーツと書かれているものは、「このリンゴや梨を買ってくれたら、収益金は地域の学校の何々に使います」と書いてあるんです。ですから、ユニセフや赤十字に寄付をされるのも大変よろしいかと思いますが、これからは地域のために見える化をして、何のために使うかというのを明示したほうが地域のためにはいいんです。私はそれを推奨しています。結果、どうなったかというと、従業員もお客様も満足している。
なおかつ地域満足です。これからのキーワードは「地域満足」。昔は、いい百貨店はさん付けで呼ばれていましたよね。そういうような地域満足を得られるかということが大事です。
■ アップスケールに出会えるサタデー・マーケット
サタデー・マーケットというマーケットは、3月から12月24日までの毎週土・日に開催しています。どういうマーケットかというと、全米で1番の青空マーケット、クラフトのマーケットになります。ここに出店できるのは、他と被っていない、ここだけのオリジナルのモノだけです。例えば、猫専用の枕は、中にマタタビが入っていて、猫がぐっすり眠れるそうです。ここしかないモノがたくさんあって楽しいんです。ですから、全米から皆さんが来られるわけです。古いタイヤをベルトにしたものもありました。リサイクルには二通りあり、ダウンスケールというのは、もう着られなくなった洋服を雑巾にすると、洋服の価値を下げますが、アップスケールは、廃棄されるタイヤを再利用し、かっこいいベルトを作っている。要するに新しい価値を生むリサイクルにはデザインや思想が必要なんですね。
●職住遊各機能が融合した街区「Peral
District」
「Peral District」という再開発は、全米で1番成功したといわれている再開発エリアです。貨物の操車場の跡で麻薬の取引が行われたり、売春婦がいたりと、ポートランドでも1番治安の悪いところでしたが、非常にヒューマンスケールの街路に変わっていきました。倉庫には貨物列車が荷捌きする段があり、その段を残したレストランを作ったりしています。ここには働く場所、住む場所、そして商いの場所という3つのミックスドユースをしたわけです。
「Peral District」にはエースホテルというホテルがあり、スタイリッシュなデザイナーズホテルとして人気が高く今はなかなか予約がとれません。ホテル自体も社会的な価値が変わってきていますね。
「Peral District」では第1木曜日、ファースト・サーズデイに、27あるギャラリーが一斉に展示のテーマを変えます。また道路を全部ブロックして車を遮断し、道に若いアーティストのための場を作ります。そこで若いアーティストが作品を発表し販売し、そこにバイヤーが訪れ、「いいクリエイターはいないか」と探しに来ます。こういうことをアートに力を入れている富山でもやってみるとすごく面白いと思うんですね。
今年のファーストサーズデーで驚いたのは、画廊やショップの中で誰でも参加できるパーティーやコンサートで迎い入れますが、銀行のUS BANKも開けていたんですね。「お客さん誰でもいいです。どうぞ、一緒にワインを飲んでください。ピザを食べて楽しんでください」と、銀行も閉めずに一緒に参加してやっているので、街にはどんどん界隈性が生まれてくるんですね。
■ 界隈性を創出したユニオンウェイ
ユニオンウェイというのもまたユニークで、中心地のビルの真ん中をくり抜いて、雑貨や飲食店の小さなお店を集めた街なかのモールです。界隈性がつくられ、かつ、小さなお店でも賃料がかなり取れるんですね。パリのパサージュみたいに道と道を繋ぐことで人の流れが良くなってきました。富山の場合でも商店街を利活用してできるかもしれません。
■ 安くて、かっこよくて、エシカルなスタンプタウンコーヒー
サードウェーブコーヒーの流れをつくった「スタンプタウンコーヒー」がカフェ文化を変えました。日経トレンディに書いたのですが、日本のサードウェーブコーヒーは方法が間違っています。あれだと昔の喫茶店に戻ってしまうんですね。コーヒーは毎日の飲むものだから、「ハンドドリップで高く」じゃなくて、「安くて、かっこよくて、エシカル」。この3つが重要ですから。バリスタが皆さんの好みを知っているので、朝コーヒーを買っていく方が多いですね。私は、スタンプタウンコーヒーの本社にも行ってきました。その時ロビーに木造の自転車があったんです。グアテマラでは、結構いい豆を作っていても、色々なところで買い叩かれて暮らしは一向に良くならず、当時は木製の自転車を乗ってました。スタンプタウンコーヒーは「商社を通さずに直接取引し、トレードフェアをきちんとやる、買い方を全部公表する」と。「その間に焙煎まで覚えると付加価値が上がって地元の人たちのプラスになる」ということも同時進行させたので、今木造の自転車に乗っている人は誰もいないんですね。これが持続可能な社会づくりです。買い叩いて安い物を買っていくという時代ではなくなったんです。朝は皆さん早く出勤します。カフェのピークは朝7時から8時です。なぜかというと、皆さんフレックスなんです。いい会社ほどフレックスタイムで、クリエイティブクラスほど朝早く行くんです。そして馴染みのところで朝食を食べるか、カフェでTO GOかして、オフィスで早くから仕事をして、3時か4時からハッピーアワーだったり、遊びに行ったり、アウトドアをしたりというような暮らし方ですね。朝食専門レストランの営業時間は朝7時から14時までです。色々なカフェやベーカリーが朝早くからオープンしています。
■ 地ビールの飲める自転車屋
ベルカルト・バイシクルショップという自転車屋さんも面白かったですね。オーナーのスカイさんはサンディエゴから、「自転車のことを1番理解している街、ポートランドでどうしても自転車ショップをやりたい」と。地ビールが飲める自転車屋さんなのですが、会員制の地下に映画館やバーを造って、みんなが集まる自転車好きのコミュニティを創出したんです。
■ エコなコインランドリー
今年行った中で1番衝撃的だったのが、「Spin
Laundry Lounge」。27歳の大学院生が修士論文でエコなコインランドリーを作ってみたいと企画書をつくり、投資家を集めてオープンしたものなんですね。
機械がスエーデン製なのですが、かなりの省エネになり、使っている洗剤も環境にやさしい。なおかつカフェが併設されています。そこで地元の皆さんがバスケットチームを応援したり、夜食事をしたり、待っている間苦痛だったコインランドリーが楽しいコミュニティの時間になっていったわけです。おたたみも染み抜きも特別料金ですが可能です。彼女は地元のメアリーハースト大学を卒業しましたが、「もう傍観者じゃいけない、自分がやらなきゃ誰がやるんだ」ということで、インタビューした時は「16時間働いている。ほとんど寝る時間がないけど、こういうことが実現できて楽しいと」といっていました。先週行ってきたときは、すごいお客さんでした。どうですか、誰か富山でやりませんか? 富山は絶対こういうのが似合うはずなんですよ。コインランドリーというと昔はちょっと犯罪が多かったのですが、彼女のような志でやれば新しい世界とビジネスができる。
●歩いて楽しい、ウォーカブル・シティ
ウォーカブル・シティは、歩いて楽しい街を戦略的に作っていったところです。これが今、富山に1番必要なことじゃないかなと思いますね。今、西町にお願いしているのは、パーク&ウォーク。クルマを置いて歩く。トランジェットゾーンを造るのは難しいので、パーク&ウォークを造る。これを実現するために中心市街地が一体となって歩いて楽しい街づくりになればなと思っております。
実はポートランドにはデザイン規約があるんです。ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト、BIDのエリアの範囲で、表道路に面する部分は商業、もしくはショーウインドゥというルールがあるんです。ですから、1階がティファニーで上は駐車場ビルという建物があり、お客さんの目線はずっと界隈性が途切れないままです。そして、1ブロックの長さは、普通ですと120mですが、あえて60mにしています。信号がたくさんできるので、車は飛ばして走れません。なおかつ角がたくさんできるので、不動産価格が上がります。そこにはいいカフェやレストランが入って界隈性が出ます。オフィスであっても戦略的に造っていきます。
なおかつ、消費税が0%です。消費税が0でも人口が増え会社が増え住民税も事業税も固定資産税も入ってくる。そういう経済循環を私たちはなぜ考えないのかということなんですね。
パブリックアートがたくさん街にあります。ポートランドでは、道路工事や公共建物の建設・改修をする場合は、「プロジェクトの予算の2%はアートにまわしなさい」という条例があります。ですから、街の中に自然にアートが増えていくということになるわけです。こんな街ですから、大変色々なことが起きています。日本人だけでなく、全米の人々が「ポートランドへ行きたい」ということで、ポートランドの旅行消費額は年々上がっていっています。ホテルは満杯でとれないぐらいなんです。北欧から旅行でポーランドから来た女性は、「憧れの街に来てみたかった」と言ってました。
■売り場から共感の場へ
街づくりとライフスタイルを融合させると、日常のワクワク感ができて生活文化が創造されるわけです。これからは、中心市街地や商店街がそういう共感できる場になっていくことが必要かと思うんですね。再開発できれいにしていくだけではなくて、共感する場になる。今まで売り場だったところを、共感の場にしましょう、交わる場にしましょう。そのために生活文化価値を生んでいきましょう。地域オリジナリティのあるものを作っていきましょう。中心街で色々なボランティア活動をしましょう。そして、仲間。GPネットワークのような緩やかな組織体をいい形でたくさん作っていったらいいんじゃないかなと思いました。
私は今週火曜日、市会議員さんと集まってお話をしました。私の親しい友人の一人、深谷さんという方が、函館で「バスク」というレストランを経営してます。ラジオ番組で深谷さんにインタビューしました。今、バルは全国でも100箇所を超えましたが、そのスタートは深谷さんです。東京理科大を出て、スペインのバスク地方に行った時に、バスク料理に魅了されて函館で本格的なスペイン料理を作り始めました。それまでは、なんちゃってスペイン料理ばかりだったんです。それを見た料理研究家の方々が、「なんで、この函館に本当のスペイン料理があるの?」ということで、彼のお店がだんだん注目されるようになりました。しかし、自分のお店が良くなっても、なかなか函館の街が良くならず、元町は特に明かりがだんだん小さくなっている。
そこで、スタートしたのが、2004年のバルです。バルは、バスク地方で深谷さん自身が経験しました。みんなそれぞれが自分の好きなピンチョス、つまみを食べながら歩く。そこには音楽があって、色々な文化と触れ合えたり、好みのお店も見つけられるというものです。今年もやりますが、本当に当日券が手に入りません。そして、それを見た函館市、北海道、経済産業省が「ぜひ補助金を使ってください」と助言をしてくれましたが、深谷さんはそれを全部断ったんです。「補助金をもらったらおしまい。なんのためにやっているのか」。深谷さんの周りには函館だけでなく、料理人やみんなが応援してくれていたんです。みんな一緒にそれをやるのが楽しいんです。それで私は毎年カレンダーを買っています。カレンダーは1,100円で売っていますが、その売上げで例えば1部200円や250円の利益を、当日の運営費に使うということをやっているんですよ。これから、こういうやり方がかっこいいんじゃないんでしょうか。役所や議員さんがお金をこれだけ取ってきましたという時代は、私はもう終わったような気がします。市会議員や行政の方々は、これから違うところに社会価値をどうやって作っていくかということに注力すべきじゃないかなと思います。
●商店街や再開発に必要なこと
最後に、商店街、再開発に必要なことを書かせていただきました。ちょっと読ませて頂きます。
大型店は時代の利便性や豊かさを作ってきましたが、中心市街地の疲弊は続いています。郊外やロードサイドが栄えるならば、中心市街地は滅びても時代の流れでは持続可能な社会とはいえないと思っています。大型店も全国で同質化した施設づくりが進み、生活者の多様化に対応できない施設も今は目立ってきました。利便性だけならネットやコンビニで事足りますが、多くの生活者は何か足りなさを感じつつ、新しい社会的価値を消費活動に見いだす動きが出てきています。商店街や再開発事業はお客の立場・目線で見ることが私は大切だと思います。これまでの再開発事業の延長線では、感性豊かな方々には応えられることがないんです。私は店舗の力を発揮して、街づくりのエンジンとなることが、商店街や再開発事業の役割だと思います。ぜひ、日常のワクワク感が生まれる街づくりをしていただきたい。そうすることで中心市街地が買い物の場だけでなく、ショッピングセンターではできない交わりの場となっていって、そこに新しい生活文化というものが絶対生まれてくると私は確信しております。
富山とは深い縁で結ばれておりますので、また皆さんとディスカッションできる機会があればと思います。ちょうど時間となりましたので、私の講演とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。
[質疑応答]
−こんにちは。富山市役所の政策課の上田と申します。すごくいいお話を聞けて、富山市にはポートランドのポテンシャルがあるなと希望がもてたので、これからの人が求める幸せや豊かさに応えていけるような街にできたらと思いました。質問ですが、一つ目は、私、デザインやクリエイティブなライフスタイルに興味があって大学でデザインの勉強をしているのですが、来年5月に初めてポートランドに行こうと思っています。そこで、絶対にここだけ行っておけみたいなところを先ほどご紹介いただいた中、もしくは他に隠されているところがあれば、ぜひ教えて頂きたいと思っています。二つ目は、先ほど自転車とビールをというお話がありましたが、私はすごいお酒が好きでポートランドで色々飲むのを楽しみにしていて、自転車にも乗りたいなと思っているのですが、ポートランドでは自転車に乗っている人が飲酒している状態で逮捕されるということはないのか、懲戒になったら困るのでお聞きしたいと思っています。よろしくお願いいたします。
いい質問ありがとうございます。まず、今日ご紹介していなかったところで、デザインをやっている方にぜひ見ていただきたいのが、ADXですね。これはデザイナーと作る人とマーケティングが一緒になった工房です。その中には色々なものづくりをする設備があります。要するに何かを売るのではなくて、そこで自分の腕を磨きたい、そしてゆくゆくは起業したいという人の学校でもあります。
また、カフェだけでなく、ホテルを毎日変えた方がいいです。例えば、エースホテルに行ったら、その次はホテルモデラという具合に。ホテルモデラは街の中にありますが、デイズインという廉価なホテルをデザインの力でブティックホテルにしたんですね。建築デザイナーのジェフさんが手がけたのですが、地元のアート作品500点を部屋から何かから散りばめて、ロビーを人が集まる空間にして、エントランスはグリーンウォールが連なってます。もう一つのホテルが、ジュピターホテル。モーテルをデザインで人気のブティックホテルにしました。そこにはライブハウスやバーが入っていて、客室もすべてデザインの力でよみがえっている。それから、飲酒運転の取り締まりをやったことがないんですよ。みんなにも「大人なんだから任せるよ」というのが、ポートランド流なんですね。ライトレールも、1回乗ると2ドル50セントだったのですが、たまにしか検札なんて来ない大人のルールに任せるということになっています。よほど酔っぱらわない限りは新聞沙汰にはならないと思いますので、ぜひ楽しんでください。以上です。
—GPネットワークの土田と言います。このテーブルのGPネットワークのメンバー3人で話し合ったのですが、ポートランドはすごく素敵な街なので、憧れが市民の意識を強くしているというのが感じられるのですが、そんなふうにポートランドがなっていった最初のきっかけというのは、優れた都市政策なのか、優れたリーダーなのか、どういうことがきっかけでポートランドがポートランドになっていったのか教えていただきたいです。
すごくいい質問をしていただいてありがとうございます。石油ショックの後というのは事実です。ですから、60年代、70年代は荒廃をして、街の中が駐車場だらけ。そして、高速道路を拡張し、スプロール化をしていったんですね。’73年の石油ショックの後に、ゴールドシュミットという人が31歳で市長選挙に立候補しました。その時に、環境を守りながら経済発展する、ダウンタウンを安心して歩ける街にするということをスローガンに掲げました。市民と一緒にビジョンを作っていったというのがきっかけです。高速道路を造ってマウントフッドまでつなげようという計画も住民が対しました。その連邦政府の補助金に使い、ライトレールの建設資金に利用しました。ちょうど市民の気持ちが石油ショックの現実を経験し、持続可能な社会へと向かっていった。政治のリーダーが、うまく補助金を使ってライトレールに着手したというのが、ポートランドがいい街になったということですね。
—今日はありがとうございました。GPネットワークのメンバーの久留と申します。今日はとても興味深いお話で意識を刺激させられたなと思います。土田さんからのご質問とちょっと被るところがあるのですが、今日のお話を伺ってポートランドと富山と素材は似ているんじゃないかなと。でも、どうしてこんなに全然違うのかなと。富山がポートランドになっていく想像すら、今の時点では僕にはできないなと思っていた次第で。土田さんはポートランドがどうしてそうなったのかという質問だったのですが、僕の方からは富山が今後長い年月をかけてポートランドのような何か特徴のある都市になっていくためには、今の時点で何がきっかけでなり得ると松本さんはご覧になられているのか、それを僕たちが知るためにヒントをいただけたらと思います。
2つあります。1つはぜひ、皆さんに飲んだつもりで貯金をして1度ポートランドに行っていただきたいですね。そうすると答えは1番早いと思うのですが。私は、富山が今1番チャンスなのは、環境未来都市を徹底的にやって、これを1番の売り物にすべきだと思うんです。環境未来都市を本当にやるんです。ライトレールだけでなくて、皆さんの暮らしぶりからゴミのことから、コミュニティづくりから、それらを徹底的にやるんです。そうすると、日本のモデルになって、全国からこれを見に来ます。コンパクトシティで都市の中心に人を集めるだけでなくて、暮らしを変えていくんです。そしてカフェを作ったり、マーケットをしたり、デザインの力やサスティナビリティなどのキーワードを盛り込んでいけばできます。それが環境未来都市という、どこが手をあげたくてもできない選ばれた地であるわけですから、これを真剣に使わない手はないだろうと。やればできると思います。
−青山と申します。本日はありがとうございました。たまたまなのですが、ポートランドの下のアシュカという田舎町にしばらくおりまして、富山とすごく似ているなと思いました。今日のお話を聴いて富山がすごくいい街になるんじゃないかなというエネルギーを頂きました。ありがとうございました。先ほど先生の方から「傍観者になるな」というお話がありましたが、住民一人ひとりの意識みたいなものがポートランドの人たちと自分を比較すると違うのかなと思ったのですが、最初にどんなことから取り組んでいったらいいのかアドバイスをいただけたらなと思います。
僕もずっと長く富山に通わせていただいて、本音を言っちゃうと、やっぱり上の人の声が大きすぎるかなと思うんですよ。今のGPネットワークのような若い人たちの活動をどんどん増やしていくことが、富山が良くなることじゃないかなと。誰が変えてくれるか。もうイノベーションの時期に来ているんじゃないかなと思うんですね。それは若い人が街づくりに参加する、パブリックミーティングに参加するというのが1番だと思います。
−今日は大変貴重なお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。GPネットワークの皆さんにこういう機会を設けていただきまして、本当にありがとうございました。私たちのテーブルで話し合ったことは、消費行動の変更から現状の消費者のスタイルはこういうふうになっているよと。そこからポートランドのお話を頂きまして、消費者の流れを追いかけるのではなくて、地域の価値観をこちらから提案していって、人と地域の価値観を共有させていくことが重要じゃないかなということを学んだのではないかなと思いますけれど、その方向でよろしかったでしょうか。
その方向でよろしいかと思います。ご理解いただき、ありがとうございました。
−千石町通りの重田と申します。実際にポートランドは再開発ができて、さらに進んでいるという状況だと思いますが、そこでの若年層の方々や中年層の方々、高年層の方々、それぞれが共有・共存が元々できていたのか、実際にできているのかをお聞きしたいなと思います。
非常にいい形で共存・共栄ができていると思います。それで、やさしすぎるという傾向があるとは思いますね。実際、毎週500人の人口が増えていると、実はホームレスも増えているんですね。ホームレスに対してもきちんと施しをしている 実は共存の1番いい事例が、パール地区。この地区に大きなマンションがありますが、高額所得者たちだけで住むのではなく、ミクスドユースといって、その中に分からないように低所得者の方も入れなきゃいけない。すごく難しいかもしれないです。そして、一緒に暮らすことが街には必要なんです。ゴミ掃除をする人や工事現場で働く方、色々な方がいなければ街はできないんです。その方々だけが集まる街を作ると、貧困の人たちだけが集まるスラム化することがあります。多様な人が共存しているというのは本当に珍しい街じゃないかなと思います。
—今日はどうもお話ありがとうございました。中央通りの武内と申します。一連の話をお伺いしまして、私どもも商店街というもののあり方が随分価値観が変わってきていると思いますので、交流の場という場の力を発揮していくことが大事だと感じております。ポートランドは、街の商店主の方々と一般の人たちとのコミュニケーションのどういうところが進んでいて、どういうところが参考にしていけばいいのかということを教えていただきたいと思います。
大変いい質問でありがとうございます。やはり、それぞれの通りに個性があるんですよ。人に人格があるように、お店にも商店街にも人格があるんですね。ですから、高級品を集めたノブストリートがある一方、中古衣料やリサイクル品を集めたセルウッドストリート、飲食でもかなりヒップなところが集まったストリート、ライブハウスの多いストリートなど、通りごとの色々な特徴があるんですね。通りに必要なのは、何を目指したいのか、どういう方向にいきたいか、ターゲットはどうするのか、どういうような経験をしてほしいのか、そういったテーマやビジョンを軸に、通りのアイデンティティというものをどうやって作っていくか突き詰めていくことが重要じゃないかなと思います。
—ありがとうございました。西町の石井と言います。以前、西町は松本先生にコーディネーターとして街づくりの方向性をしていただいていまして、ぜひ若い皆さんに先生のお話を聞いてもらいたいなと以前から思っておりましたが、五艘さんが推薦されて今日実現しました。大変嬉しいなと思っております。私も何年も前に先生のお話を聞いて、昨年の5月にポートランドに行ってきました。行ってきたらいいというお話がありましたが、本当にショックでしたね。コンビニがないんですよ。よく若い人はコンビニがあれば後は何も要らないと仰るけど、視察に行くとおにぎり1個で充分というタイプなのですが、ホテルの近くにコンビニがないと。こんなにないところあるのかなと思ったのですが、よく考えてみたら朝食をとるときは皆さんちゃんとカフェへ行くんですね。日本みたいにコンビニのカウンターに行って100円出してエスプレッソを飲まないんですよ。だから、それは富山県人が、昼休みでも店舗の駐車場に車を止めてお弁当を食べながら温かいお茶だけ買うと。実に堅実で節約で立派だなと思うんですよ。だけど、1つ価値観が違うなというのもあって、ポートランドのライフスタイルへの憧れだけではなかなか実現しないかもしれない。ただ、考え方が変われば違った風景も見えてくるということがあると思います。もう1つ、今日はポートランドが変わったことの仕掛けの部分はあまりお話しされませんでしたが、ポートランドの開発局PDCは先生がさっき仰ったように、1958年にできています。私の年とあまり変わりませんから、50年以上経っていると。それからバルができて30年です。それだけ時間をかけているということが1つで、やはり一つひとつ質の高い仕事を積み上げていかないと、どれだけ時間をかけてもポートランドみたいにならないと思います。本当のプロフェッショナルが関わらないと、うまくいかないんじゃないかなという気もしています。一般の人たちの意識、我々の意識も変わらなければいけませんが、そこにプロの仕事が関わらないといけないのではと思っています。ポートランドの話は私も興奮して色々なことをいいたくなるのですが、とりあえずは1度1回見に行っていただけたらなと。ショッピングセンターで1日中ショッピングをしているよりも、ちょっと先ですがポートランドには成田からデルタで1本で行けますから、ぜひ若い方は行ってきていただけたらいいなと思います。