レポート

まちづくりセミナー2013

まちづくりセミナー 第六回講演録 講師 迫一成氏

2014/05/09 

■タイトル

「上古町商店街で日常を楽しむ。シビックプライドの視点」

 

 皆さん、こんにちは。新潟の上古町商店街で商店街の活動や、お店を構えてデザイン活動などをしております迫と申します。今日は、ぼくがゆる〜くやっている仕事をお話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。

 

 タイトルは「上古町商店街で日常を楽しむ。シビックプライドの視点」としましたが、私たちヒッコリースリートラベラーズは"日常を楽しもう"をコンセプトに、2001年から始めた集団で今は7人のメンバーでやっています。僕は35歳ですが、1番下から23歳、24歳、24歳、25歳、27歳、37歳のメンバーとなっています。

 

 

店舗で扱っている商品

 

 お店で扱っている商品の一部を紹介しますと、僕たちが最初に取り組んだオリジナルデザインのTシャツ、新潟の老舗の手ぬぐい屋さんに染めてもらっているオリジナルデザインの手ぬぐい、ジャム、おむすび(コシヒカリ3合を手ぬぐいで包んでいる)、新潟の城下町で作っている畳の縁でできた名刺入れと小銭入れ、ノート、新潟の民芸品、メモ帳などがあります。今、商品数は2010年ぐらいから23倍増え、色々なものを扱っています。

 

 

■商品1「笑顔饅頭」

 

 僕たちが作っている「笑顔饅頭」は、徒歩2分ぐらいの老舗の和菓子屋さんにお願いして作っているお饅頭です。お饅頭に顔や「ありがとう」の文字が書いてあるだけのものですが、ブライダルギフトやちょっとした記念品としてすごく人気のある商品です。価格は210円とすごく高いのですが、和菓子屋さんならではの美味しさと見た目の可愛さで人気があります。洋菓子屋さんは結構柔軟に作ってくださるらしいのですが、和菓子屋さんはプライドが高く、こだわりが強いので、笑顔饅頭のようなゆるいものをなかなか作ってくれません。なので、そういうところがすごく珍しいといわれます。

 

 

■商品2「新潟のおむすび」

 

 このおむすびは、3合のコシヒカリを三角にして手ぬぐいで巻いて、おむすびの形にしたものです。これはお米屋さんと手ぬぐい屋さんから、ちょうど同じぐらいのタイミングで「何かいい商品ないかな」というお話があったので、その2つを組み合わせて何ができるかをみんなで考えてスタッフの一人が出してきたものが、お米を手ぬぐいで巻いたものでした。最初は1合のものや5合のものなど色々なものを作っていましたが、お土産に使われる場所や重さを考えて、3合にしました。最初はお米を手ぬぐいで巻いたものを販売していましたが、「箱はないのか」ということで、新潟の箱屋さんにお願いして箱を作ってもらい、お土産品として形になりました。「新潟土産品コンクール工芸部門」の金賞をいただいた優れものです。

 このおむすびは、商品として売れるだけでなく、「こういうものを作る人と会ってみたい」「お仕事やデザインをお願いしたい」ということで、人と人をつないで色々なものを運んできてくれる、僕たちにとってとても大事なもの。コンセプト商品かなと思っています。

 

 

その他の色々な商品

 

 子供用のTシャツやスエットも扱っています。細長いタイプのお茶缶があり、新潟の佐渡をモチーフにしたものなど色々な柄にして販売しています。缶だけで販売するほか、新潟の「ゆかり」という金平糖みたいなお菓子を中に入れたり、コーヒーや紅茶などとセットにしてお土産にしたりと、色々な形で販売しています。選べる新潟のモノということで販売しています。他には、新潟のルームソックスですね。この商品ができたきっかけは、67年前、新潟に嫁がれた女性が、おばあちゃんが作ってくれたという温かい靴下を見せてくれたのがきっかけでした。その後、私たちがデザインを起こして、毎年作らせていただいています。

 

あえて古さを残した店舗と、その活用方法

 

 僕たちのお店は、上古町商店街の通りの角にあります。お店が閉まっている時は、シャッターの代わりに引き戸の格子みたいなものにすることで、商店街の雰囲気が寂しくならないようにしています。この店舗はもともと渡道酒屋という酒屋さんでした。その歴史を伝えたいという思いと大家さんの気持ちを考えて、酒屋さんの看板を外観の側面に残しています。そうすることで、ここを通る方や大家さんが渡道さんのことを思い出したり、嬉しかったり、誇りに思ってもらえることが、すごく嬉しいなと思っています。最近は県外の方も上古町にお越しいただいているので、古い建物や酒屋だったというルーツは、コミュニケーションのツールとしては非常に役立っています。

 店内の壁面には、時期によりますが、夏だとTシャツがたくさん飾られています。また、新潟土産というコーナーも用意して、新潟で作っているコーヒーやキッチンツール、手ぬぐい、野鳥こけしという鳥の置物、サイダーなど様々なものを扱っています。レジには、その後ろに打合せスペースがあり、脇にはブライダルギフトコーナーがあります。全国からご注文いただいて販売していますので、その商品を紹介するような場所であります。そして、急な階段を上がると、2階の空間があります。ここでは、古い建物であることを伝えるために、懐かしい空気感を残してレイアウトを組んでいますが、商店街の方々がくださった桐タンスや布団を入れるようなもの、イスなどがあります。僕たちのことを「古いものが好きそうだ」ということで、どんどん集まっているというような状況です。

 毎年、集合写真を撮って、あれこれ言い合うのですが、写真に写っている神主さんはパーソナルストレッチやスポーツも得意な方でして、2階の4畳半ぐらいのところで足つぼ屋さんをやってくださっています。また、2階では、陶器の展覧会や作品展など、使い方によって空間の雰囲気を変えるようにしています。ライブやパフォーマンス、商品の展示販売、沖縄の琉球張り子の作家さんによる紙芝居など、色々な方に関わってもらって開催しています。その他にも、僕らが得意とするTシャツ作りのワークショップもやっています。シルクスクリーンを使って子どもから大人まで楽しめるようにしていますね。このワークショップは、商店街の通りで行うこともあります。

 

 

■商品3「白根の中山さんの作るジャム」

 

 新潟の白根というところで作っている中山さんのジャムです。僕たちはジャムの瓶にラベルを貼っただけなのですが、こういう活動が僕たちのミソかなと思っています。というのも、農家さんが作るジャムのラベルは、変な書体で「ジャム」「おいしいジャム」「てづくりジャム」と書かれていたり、生産者の写真が粗い画像で貼られていたりすることが多いんです。それだとせっかくこだわって美味しいものを作られているのにも関わらず、最後の見せるところでちょっともったいないなと思い、僕たちの方でお土産にもしたくなるようなラベルを作って貼っています。ラベルに関しては、中山さんにデザイン代やラベル代を負担してもらわずに、「僕たちはこういう形で売りたいので、こういう形に変えてもいいですか?」と自分たちから提案して自分たちで貼るというスタイルでやっています。そうすることで、おいしいものが、僕たちらしいものに形が変わります。ブランディングのようなことができます。和紙ラベルでプリンターで出力するくらいのものなので、費用もかからず、可愛いものができる。僕たちらしいものかなと思っています。

 

 

■商品4「熊と森の水 天然アロマミスト」

 

 「熊と森の水 天然アロマミスト」は、新潟の障害者施設で作っているアロマミストですね。お洋服やお部屋の中などの臭いをとる防臭・防虫スプレーなのですが、福祉作業所で杉のおが屑を蒸留して水と油に分けた、その水の方を活用して作っています。施設の賃金を上げることを目的に、大阪のコスメメーカーさんと施設と私たちと共同でデザインをして形にしています。福祉作業所はもともと鶏卵を作っている施設だったので、形状もロゴマークも卵をモチーフにして作っています。さらに、白い容器のままだと、いかにも商品(プロダクト)という感じになるので、紐を巻いています。これは、別の施設で作っている余った糸をよって太めの糸にしたもの。この紐を首の部分に巻いて、コンセプトを伝えるような紙をつけることで、柔らかい雰囲気や商品の思いが伝わるようなものにしています。

 

 

■商品5「わかば石鹸」

 

 「わかば石鹸」は、新潟の障害者施設で作っている廃油石鹸ですね。この石鹸はちょっと堅めなので、消しゴム状の可愛らしい形にしています。また、もともと形が整わないものなので、それが良さに見えるようにパッケージングしています。台紙には金色やチェック柄の可愛くて上品に見える紙を使っていますが、これは「新潟のおむすび」を作っているメーカーの箱屋さんからもらったものを活用しています。

 

 

■商品6「なないろストール」

 

 なないろストールは、紙ゴムや和紙で作っているもので最新作です。他にも、和紙を活用したご祝儀袋や、ご祝儀袋の水引なしバージョン、ポチ袋、絵馬のような形をした袋などを展開しています。これも障害者施設の商品ですね。

 

 

●新潟市美術館ミュージアムショップルルル

 

 昨年から、新潟市美術館ミュージアムショップの企画運営をさせてもらっていますが、そこでは雑貨も販売しています。前から、美術館のガラス面に貼られている追突防止のためのマークを可愛いなと思っていたので、ショップの運営を機に、このマークを活用してTシャツや飴玉、ノート、袋、甚兵衛などを作っています。こうして形にすることで、館内全体がブランドのように見えるというか、一体感が出てくるようなものになります。

 ここでの雑貨販売では、ゆるいものも売っています。「にいがたの変なバッジ」という名前の商品で、新潟の朱鷺や柿の種、市長などをゆるめのイラストで展開しています。これは、ゆるいイラストを描く仲間にお願いして描いてもらっていますが、大事なことは描いている人の思いを書いたカードをつけて販売することで、新潟でこういう活動をしている人がいるということを知ってもらうためのものとしてバッジを作っています。

 バッジにしても雑貨にしても、利益を出していくことは大事なのですが、「私たちが伝えたいメッセージを載せる」ということを大事にしています。

 

 

■水と土の芸術祭2012の時のショップ

 

 水と土の芸術祭2012では、ショップをしました。ここでも同じような手法を使っていて、桝に新潟のお米や花火などをシルクスクリーンで印刷したり、米袋にデザイナーさんの袋を使わせていただいて田んぼの田や北前船を展開して紹介しています。また、新潟のルレッチェという洋梨を活用したサイダーや、トートバックを手ぬぐいで作ってもらいしました。

 この芸術祭のメイン会場は、もともと漁業組合があった建物でして、「何か面白いものないかな」と探していたところ、粗品として使われていた手ぬぐいが600枚ぐらい段ボールに入っていました。とうに忘れ去られていたようなものを洗い直して汚れを取って活用してできたのが、先ほどのトートバック、パスポートケース、ヘアゴム、うちわ、バッグ。これらからお客さんに新潟の"港町感"を気付いてもらったり、可愛いということで身につけてもらったりしています。

 

 

■春山登山展

 

 春山登山展は、自分たちのやりたいことをするために、2009年ぐらいから始めた展覧会です。春に開催するので「春山登山」といいますが、地域にある古い建物や面白い場所を繋いで、その中で作品を紹介していく展覧会になっています。

 この展覧会の面白いのは、20代前半の人たちと、304050代の人を繋ぐために、私たちのお店のお客様と若いクリエーターの両方に知ってもらうことを目的として行っているところです。一つの空間に色々な人の作品があると誰が何を作ったのか興味が湧きにくいので、一人の人に一つの部屋を構成してもらうことで、その人らしい空間を作ってもらうようにしています。ギャラリースペースや展示場を借りると、すごくお金がかかってしまいますが、まちなかの空間をうまく使えると、お金をあまりかけずに、その場所らしさを生かして展示ができる。そのスキルアップも目的の一つとして開催しています。

 春山登山展では、古い町家を活用したギャラリーの喫茶室や中庭、元病院など、色々な空間を活用して作品を展示をしてもらいました。また、北越製紙の紙だけで作った空間など、色々な空間を展開してもらいました。一人の人が一つの空間を構成するというルールを決めているので、一人ひとりの強みを出せるし、空間の良さも残せます。普段はなかなか入れない建物だけれども、作品があることで入ってみようかなという気になれるようなことをやらせてもらっています。しかも、大きい活動体ではなく、小さいお店を運営しているところが主体となっている。これが、非常に重要なところかなと思っています。補助金をもらって行うのではなく、お客さんから共通パスという形で300円から500円ずつぐらいのお金をいただいて運営しています。皆さんがお金をくださることで、空間やお店をまわってしっかり見ようという方が増えていて、すごくいいイベントになっています。毎年800人ぐらいの方にお越しいただいているので、スタンプラリーやパフォーマンスをすることで、回遊する際に楽しんでいただいています。

 

 

■上古町商店街での活動の始まり

 

 上古町商店街は、古町の1番町から4番町が、2003年に一緒になって新しくできた商店街で、新潟の旧市街地で昔すごく栄えたエリアの端にあります。

 その2003年に、何かした方がいいよねという動きがちょっと出てきました。アーケードが老朽化してきたので、アーケードを造り直すには法人や組合員になることで、補助金が出るかもしれないというところから話が始まったようなのですが、僕も町内の方にお世話になっていたので、その会合に出させていただきました。そこでは古いアーケードを造り直す話や、街を盛り上げようという話が出ていましたが、6080歳代の方が中心となってお話をされていたので、そのアイデア自体が「お祭をやって焼きそばを作ろう」「ヨーヨー釣りをやろう」「出店があれば」というもので、若者にしてみれば面白味がないなと思ったんです。そういう方たちに任せっぱなしにしているから、商店街というところはダメになっているんだろうなとも思いました。じゃあ、僕たちが何かをした方がいいよなということで、勝手に色々なことが始まることになります。

 

 

■地図新聞「カミフルチャンネル」

 

 まずは、上古町商店街のPRから始めようと思い、商店街のロゴマークを作りました。「かみふるまち」の「上」という字を活用して帽子みたいにして、その下に「ふ」をつけて、4つの街を表す4つの丸と白山神社をイメージした鳥居をデザインして作りました。ロゴマークとして洗練されているわけではありませんが、インパクトを持たせたいなと、軽い気持ちで作らせてもらいました。おじさんたちに反対されるかなと思いましたが、すんなりロゴマークとして決まりました。

 それから、勝手に「カミフルチャンネル」という地図新聞を作ることにります。この新聞を作ったきっかけは、上古町商店街のことを情報発信するために街の特徴を考えた時、街の記録がほとんどないことに気付いたからです。「昔はあそこにあの人が居て、こういうお店があったんだよ」という話は色々な人から聞くのですが、時間軸がバラバラだったり、思い込みも結構あったりしたので、今の記録を残すことを目的にしつつ、場所を知りたい方、遠くからいらっしゃる方のためにマップを作らせてもらいました。

 このマップの特徴は、全店舗を掲載していることです。できるだけ順番にお店を紹介しているのですが、新しく入ったお店を大きく掲載しました。いいところをすすめたいという思いもありますが、新しく来た方を歓迎するという意味でも新しいお店を紹介しています。外への発信でもありますが、中の記録を留めるものとして、またコミュニケーションツールとして作っています。サイズは、持ちやすくて折りたためるようにしました。

 そして、そのマップなどが置いてあるボックスを作りました。このボックスは、上古町商店街の400mの通りに全部で1516個ぐらい設置しています。地図は通りで迷った時に欲しいよなと思ったりすることと、案内所もなく、そういう人件費も出ないので、こういうボックスで補おうと。透明の蓋をつけることで、開けたくなるようにしているので、皆さん蓋を開けてマップを手にとって街を歩いてくださっています。こういうふうに、いつ、どういう時に必要とされやすいかということを意識してものづくりをしています。

 

■その他の紙媒体でも情報発信

 

 たまに、チラシも作ります。よく分からない絵が描いてあるので、商店街に置いておくと「なんだ、あれは」といわれるのが目に見えているので、ホテルなど商店街の人が気付かないようなところに置いて、「こういうものがあるところだよ」ということを見てもらっています。このチラシは、限ったお店を載せて、「上古町は、古くて新しくて、楽しい商店街です!!」というコピーと合わせて展開しています。

 また、近くには「りゅーとぴあ」という立派な文化施設があるのですが、その掲載誌にも上古町のことを書かせてもらうなど、そうした文化施設とも友好関係を持ちつつ、色々展開しています。

 

 

上古町、新潟県をモチーフにした手ぬぐい

 

 上古町をモチーフにした手ぬぐいは、勝手に作って商品として販売しているものです。これを販売していると、「新潟市にちなんだものはないんですか」といわれて、白鳥やお酒など新潟県をモチーフにしたロゴマークを色々入れた手ぬぐいを作りました。基本的に、最初は勝手に僕たちでやることが多いのですが、やっているとリクエストがどんどん出てくるので、言われたとおりにものができていくという展開になっています。皆さんが新しい人を紹介してくださったり、ニーズを教えてくださったりするので、どんどん商品ができていくという感じです。

 

 

■チョークで落書きコンテスト

 

 34年前、「明味義人祭」という昔の市民運動をされた方たちを祀るイベントができて、近くの神社が中心となって開催しています。これは夜に行われるイベントなので、日中は空くということで、「チョークで落書きコンテスト」をしています。困ったら大体これをやるのですが、非常にお勧めです。チョークで地面に落書きができることは、子供にとっても嬉しい機会ですし、キャンバスが広いこともあって、みんな自由に色々なことを書いてくれます。さらに、チョークは雨が降ったらすぐに消えて流れていくので、掃除も簡単ということで、よくやらせてもらっています。

 子供たちがたくさん絵を書いた後、あらかじめ用意しておいた名前とタイトルを書いた紙を貼ってもらいます。終了後、僕やデザイナーなど審査員何人かが気に入った絵を選んで、後ほど発表するというコンテストを行います。表彰される人はすごく嬉しいですし、優秀賞や審査員賞になると商店街で使える金券がもらえます。子供たちが大好きな上古町名物ハンバーガー屋さんがあるのですが、そのハンバーガーが食べられる券をあげたりしています。賞状も一緒にあげるのですが、賞状はお金もあまりかからず、でももらえると誇らしい気持ちになれるものなので、そういうものも一緒に作っています。

 

 

■誰でも参加できる、赤いリボンのテープカット

 

 上古町商店街のアーケードを造り直して5周年の時に、400mあるアーケードの柱と柱を赤いリボンで結び、みんなでテープカットをするというイベントをします。事前に折込広告をして「ハサミを持ってきてください」と伝えているので、開会時にみんなでテープの前に並んで、「さぁ、どうぞ」の声で切るわけです。5年前も赤いリボンでテープカットをしましたが、今回の5周年では上古町商店街のロゴマークを散りばめたリボンを作りました。これを使うことで、テープカットもいつもと違う意識になりますし、切った後のテープを持ち帰ったり、何かに巻いたりして、誰かに見せるという行為が行われるので、そこから会話が発展していきます。

 テープカット作業は、どこの商店街や地域でもできますが、テープカットを行ったことがある人はほとんどいないと思います。だから、子供から大人まで誰でも参加できるテープカットは、商店街や地域という場所にはすごく向いているんじゃないかなと思います。ちょっとデザインを添えることで、何かを伝えることができるものになると思うので、機会があればぜひ!と思います。

 

 

ワタミチ誕生のきっかけ

 

 今のお店の向かいには、旧店舗がありました。ガラス張りのお店で、2003年から2010年まで7年間ぐらいやっていました。その向かいで、元酒屋を使った「ワタミチ」は、2006年頃から5年間ぐらい、中を少しだけ改装して空間を活用させてもらいました。酒瓶のあった棚などは残しつつ、自分たちでペンキを塗ったり、黒板を入れたりして、新しい空間を造りました。

 なぜ、こういうことをしたのかというと、旧店舗を営んでいた時に、商店街の古い建物がどんどん壊されていくことに対して、「それが新潟の街の中の弱みだな」とか、「もっと古いものが残っていたらいいのにな」と強く思っていたんです。そんな時、店の目の前にある酒屋さんが店を閉めるというのを聞いて、「ここも壊されたり、シャッターが閉まったままになるんだろうな。寂しいな」と思って、大家さんに今後のことを聞いたら、「何も決まっていないよ」といわれて、中を見てもらったんです。築80年ぐらいの古い建物で、「この懐かしい空間を残したいし、人に見せたいな」と思ったので、貸してもらえないかとお願いしたら、貸してもらえることになりました。この時も新潟市の家賃補助をもらって運営できたらいいなと思っていましたが、いざ蓋を開けてみると、そんな補助はできないといわれ、大家さんも安く貸してくれるのかなと思っていたら、月々14万もするということで、「払えるわけがない」と思いましたが、もう貸してほしいと言ってしまっていたので、借りることになってしまいました。

 

 

ワタミチでの気づきが、今のお店に

 

 「ワタミチ」でやりたかったことは、人が繋がっていく場所を作ること、ものづくりの教室をやること、古本を売ること。また、ちょうどその時、僕は新潟市でたくさん野菜が作られているということに感動していた時期だったので、野菜を売りたいという思いもありました。実際には、草木染めの教室やデッサン教室、チョークで地面に絵を描くイベント、中学生の勉強会、日本酒教室、展示、生け花の先生によるワークショップなど、商店街の人が来て楽しむような場所作りをしていましたが、家賃がすごくかかります。

 そこで、どうしたかというと、2006年に商店街が組合化した際、その事務局として一室を借りてもらったり、デザイン事務所をやっている友達に2階のスペースを貸して家賃をもらったりして計8万円をもらい、残りの6万はワークショップの教室を毎回やりたい先生から月1万円をもらったり、自分たちで企画するイベントの参加費をもらったりして、トントンだったり、ギリギリ赤字だったりを繰り返していました。空間としては、それほど経営は良くなかったのですが、ここに来られた方たちが向かいの僕たちの店で買い物をしてくださったり、デザインの仕事をくださったりして、ややプラスかな。広報誌として考えれば、いいんじゃないかなということになりました。

 この空間、イベントの時は人が来て賑わい創出みたいになりますが、何もやっていない時は寂しさや虚しさがあるなと思っていました。でも、ちょっと考えが変わって、知り合いに市のチャレンジショップ事業で小さい古本屋をやっている若い人がいて、そのセレクトがすごくいいなと思ったので、「ここで古本屋をやってみない?」と相談しました。自分が古本を扱っていた時は、自分のものやもらった古本を適当に並べて貸したり、売ったりしているぐらいでしたが、その人はセレクトもいいし、価格帯も安い。その人に古本屋をしてもらうことで、買いやすくてほしいものがある場所になりました。あとは、おむすびやさんをやりたいという友達がいたので、店内の一角でおむすびを売ってもらうというようなことをしました。

 その向かいのお店からワタミチを見ていると、どんどん人が入っていくんです。その理由は、古本でした。古本は、普通の人にとって、ほしいものなんですね。その時、フリースペース・ワタミチだった時にやっていたイベントや教室には、ほしいものがなかったんだなということに気付きました。やっぱり、人が求めるようなものがないと人は来ないし、買うという行為を通して、喜んだり楽しかったりするんだなと体感しまして。商店街でいいものを作ったり、考えたり、選んだりして提供することが非常に大事なのではと思い、今のお店をやろうということになったんですね。

 

 

■大きな買い物と決断

 

 ワタミチを56年やった後、大家さんが建物を買わないかと言い出しました。買うには相当な金額が要りますが、その建物には裏側の4店舗がくっついていて、その一つの総菜屋さんから「迫さんが買わないと、私たちが出ていかなくちゃいけないから買ってよ」と言われて。総菜屋の方は70歳ぐらいの人生経験が豊富な方なので、「今、不動産を持っていると、今後役立つから絶対買った方がいい」って。でも、金額も金額で自分の家を買うのとはまた違うので、どうしようかなと思い、みんなに相談すると「買った方がいい」とみんなが言うので、余計買いたくなくなってきて、商工会議所の方に相談したら、「絶対買わない方がいい。商売なんてうまくいくわけがないし、不動産なんて持つべきじゃない」と言われて、商工会議所の方が反対してくださるのなら買おうかなと思って、買うことにしたんです。僕の場合は、商工会議所の方が押すことと反対のことをすると、逆にうまくいくことの方が多いんですよ。このお店を商店街に出すという時も反対されましたが、結果的に良かったので、いつも反対してくださる方に感謝しています。

 

 

リニューアル成功の理由

 

 これまでに商店街のことやお店づくりなど色々なことを学んでいたので、それらのノウハウを元酒屋さんの建物に入れ込むことができたことが、リニューアル成功の理由だと思います。店の外観は街のことを意識した門の造りにしたり、脇を残したり、商品もお土産になるようなものやほしいものを作ったりしました。もう1つ思っているのは、商店街のことを2003年頃からの7年ぐらい色々頑張ってきたので、応援してくれる方が多いのですが、それらの方にはあまり商品を買っていただけていないという状況だったんです。それが、リニューアル後は応援してくださっているおじさまやおばさまにも喜んでもらえるような陶器を扱うことで、そういった方々が買ってくださるようになりました。それをきっかけに、自分のほしいものが僕たちのお店にもあることに気付いてもらうことができ、お子さん用やお孫さん用にTシャツを買ったり、お土産やプレゼントを買ったりという流れができてきたなと思っています。皆さんが僕たちを応援してくださる気持ちを還元するためのものを用意することが大事だったんだなと感じています。

 

 

仕事の依頼は、開かれた店舗から

 

 僕たちは、商店街の人たちに助けられつつ、色々な展開をしています。その一方、商店街の中で色々な活動をしているということで、色々なところからお呼びいただいて、デザインや商品開発、店舗運営のお仕事をいただいたりしています。僕たちに合った仕事を皆さんが持ってきてくださることが有り難いし、やりやすいところかなと思っています。

 なぜ、そうなっているのかというと、店舗という常に開かれた場所を持ったことが重要なんじゃないかと。自分たちらしいことや、こうありたいということを常にプレゼンテーションできる場所を持つことで、僕たちの得意なことやできることを伝えることができているからこそ、面白いことが起こっているんじゃないかなと思っています。商店街には難しい人や興味がない人など色々な方がいますが、皆さん基本的にお任せなので、好きにやらせてもらえることはすごく嬉しいことですね。僕たちがうまくいっている原因のひとつに、60代半ばの専務理事の存在があります。その方は非常に柔軟で、僕たちがやりたいことを「やろう、やろう」って言ってくださったり、デザインや変なものに対しても「面白そうだね」と敏感に反応してくださったりするので、そういうことがすごく重要だなと思っています。その方は音楽や文化芸術が好きで、色々なアイデアをどんどん持ってきてくださいますが、その中で僕が形にできそうなことは形にし、できなさそうなものは断っても受け入れてもらえます。こういうタフな方が近くにいることも強みかなと思っています。

 

 

新規出店者が増加、空き店舗が減少

 

 専務理事と僕が中心となって2004年ぐらいから商店街の活動をしてきましたが、そうなると数人だけでやっているように認識されたり、任せっぱなしにされやすかったり、僕たちの活動に疑問を持たれる方もいたと思いますが、ここ34年の間に新規出店者がどんどん増えてきたんです。2030店舗ほどあった空き店舗があっという間に残り23店舗になるぐらいの状況になりました。今の上古町にはいい結果を出している事例がたくさんあるので、新規出店者にとって「チャレンジすれば何か面白いことが起こるんじゃないか」「うまくいくような気がする」と、いいイメージを持っていただける。僕たちが出店した後の出店者になるので、僕たちに期待をしたり、相談をしてきたり、逆に「何でも力になりますから」という方が増えてきて、最近はそういう方たちが頑張ってくれていることが頼もしいですね。特に頼もしいのは、3040代の女性です。社会経験があって自分がやりたいことをお店でやろうとされている女性の方々は、女性ならではの細やかさがあったり、気が利いたり、けど割り切るところは割り切ったり、コミュニケーション能力が高かったりします。専務理事や僕の大雑把な部分を丁寧に補ってくださっているので、どんどん仲間が増えていったり、イベントがやりやすくなっています。さらに、商店街の勉強会に参加したり、青年部会を作ったりと、主体的な活動をしてくださる方が増えているので、最初は数人で始めて勝手にやっていたことも、どんどんたくさんの人に伝わるようないいものになっていったり、スムーズなものになっていっているような気がしています。

 失敗例もあります。2004年ぐらいから僕たちが上古町をPRし出した後、感度のいい若者たちがどんどん新規出店をしてくれました。ファッション、雑貨、古着のお店などで、空き店舗が一時期結構埋まりましたが、そういう方たちは「家賃も安いし、何となく良さそう」というノリでやっているところがあるので、1〜2年ぐらいでお店を失敗してしまいます。でも、さっき言ったような社会経験が豊富で、この場所の雰囲気やあり方に賛同してくださる方々は、お店への思いや地域の人たちとの関わり方など価値観のベクトルが違います。旦那さんがしっかり稼いでいて子育てもある程度落ち着いていて好きなことをやれるという状況の方もいるので、自分のこだわりのお店をやりつつ、地域の人たちに楽しんでもらおうとしているところがすごく重要かなと思っています。

 

 

寛容性の高い上古町商店街

 

 1年に1度の総会の時だけ大暴れする人たちが何人かいますが、普段は端っこの方でちょこちょこ文句を言っているだけなので、放っておけばいい。すごい地主やお寺など、そういう圧力がないところもやりやすいところかなと思っています。また、商店街活動を始めた頃、おじいさん達だらけだったのが良かった、というのは街の中に50代ぐらいのパワフルな経営者がいなかったことで、のびのびとゆるいことをやれたんじゃないかなと。経営者が普段の会社の仕組みを街の中に落とし込もうとすると、難しいことだらけなんです。正論が通じないことが商店街の中にはすごく多いので、そういう方が振るわなかったのはすごく助かっているなと思います。隣の商店街にはそういう方たちがすごく多いので、何かやるにしても二番煎じっぽかったり、作る紙物も大人の付き合いの中で頼まないといけないような印刷屋さんやデザイナーさんにお願いするので面白くないチラシができてきたりすることがあります。僕たちは多数派じゃないというか、たくさんの方がいいと思うものではないのかもしれませんが、そういうものにチャレンジしたり、形にしていくことに寛容性の高い地域であり、そういう人がいたということで、僕たちは活かされているなという気がしています。

 

 

■スタンプラリーから生まれた笑顔饅頭

 

 僕たちの活動の中で面白いことや変わっているところをお話しできればと思います。先ほどの寛容性の話と繋がるエピソードがありまして、これも先ほどお話しした「笑顔饅頭」ですね。このお饅頭が生まれたきっかけも、商店街の活動の中にあります。草月流の作家さんにお願いして店内外にお花を飾るイベントをした時に、スタンプラリーを初めてやりました。そのスタンプラリーの景品として考えたのが、チューリップの形が書いてあるお饅頭でした。近くの老舗のお饅頭屋さんにお願いしに行った時、焼き印や費用の問題で断られるかなと思っていましたが、「いいよ」と軽く引き受けてくださいました。その作り方は、厚めの紙みたいなものをカッターで切って版みたいな物を作り、それに餡をのせてするというもの。技術は要りますが、シンプルな作業で作れることが分かったので、それを機にチューリップの柄を作ってもらいました。それから、「顔とかできるんですか」とか、ちょっとした時に遊びで作ってもらっていた時に考えたのが、笑顔饅頭ですね。顔を考えて、すごい可愛いなと思って。お饅頭屋さんが「ピンクもできるよ」「黒糖もできるよ」と色々言ってくださったり、お客さんから「睫毛はつけられますか」という要望があったり、ちょっとしたことを変えることで、商品はどんどん形になっていきます。ある日、ブログに「饅頭を作りました」と書いたら、お客さんから「結婚式のプチギフトに使いたい」と言われて、そういうのもあるんだなと思って作らせてもらったのが最終的な形になりました。日々ブラッシュアップですね、よく言えば。

 この笑顔饅頭、次がまた大事です。「笑顔饅頭を作りました。美味しいですよ」と言っても、私たちの店頭に置いておくと34日で腐るんですね。そうした物を売っても利益にはならないので、基本的に店頭販売はしていません。全部予約注文となっています。納品日の注文をメールや電話で受けて、お饅頭屋さんに発注して、できたものを受け取って品質を確認して、発送・配達をしています。そうすることでロスはなく、全国のお客さんからたくさんのご注文をいただいています。僕たちは結婚式のギフトとして提案していましたが、子供が生まれた内祝いやお見舞いのお礼など、色々な形で活用していただいています。今では月に2,000個ぐらいご注文をいただいているヒット商品になり、有り難く思っています。

 1個売りだけでなく、2個入り、5個入りの箱を用意するなどパッケージングをすることで、商品の売れる数が増えたり、贈る用途や金額が変わってくることがあります。デザインと言うほどのことでもないですが、用途に合った見せ方をすることも非常に重要なことかなと思っています。また、「新潟のおむすび」もそうですね。お土産として箱に入れる状態で販売すると1週間で20個ぐらいしか売れません。しかし、海苔の部分を水引のデザインにして、下に名前を入れられるように変えることで、一気にブライダルのギフトに変身します。全国からご注文をいただいたり、新潟の方がお祝いに使ってくださったりすることで、売れる数も変わります。お米がとれる時期や結婚式が良くある1012月になると、月に600個以上出るような人気のものになります。シーンに合わせて物を作っていくことが非常に重要かなと思っています。

 

 

■どこで誰に何を作ってもらうか

 

 近くにある老舗の判子屋さんは、結婚式の記念品として新婚さんの顔のゴム印を作っていますが、そのデザインは僕たちのオリジナルです。僕たちがデザインしたものをその判子屋さんに入稿して作ってもらっています。ネットで売っているような簡単に作れる判子とは違って、赤いゴム印と木の台の間に入っている緑のクッションの厚さなどにすごくこだわられているので、押した時に気持ちがいいのですが、判子が2個ぐらいで1万円ぐらいもするんですよ。ゴム印とは思えない価格帯のものなのですが、押しやすさや記念品、大事なもの、老舗で作るという縁起の良さなどから、たくさんのご依頼を受けています。どこで誰に何を作ってもらうかを非常に重視されている方が多く、ものづくりをしている僕たち以上に、そういう部分を意識される方が多いんだなと感じています。

 

 

変わる面白さ

 

 商店街も一緒ですね。自分たちが生まれたり、働いたり、住んでいる地域に対して、「もっと良くなったらいいのに」「もうちょっとこうだったらいいのに」と思ってはいるけれど体は動かさないという方が多いと思いますが、皆さんは動くきっかけを求めているので、その入り口として僕たちがお店や場所を提供することで、色々な方とお話をしたり、アイデアをいただける場となっているのかなと思っています。また、そういう環境・立場・場所にいるから、僕たちは色々なことを形にすることができるとも思っています。

 店内の造りもそうですが、僕たちは"変わる"ことを意識しているので、ディスプレイやテーブル、2階の空間も簡単に動かせるような造りにしています。常に変化しているので、お客さんには来る度に新鮮に思っていただけたり、次への期待をしていただいたりしています。あまり変わりすぎると困るという方もいると思いますが、変わる面白さを皆さんに見てもらっているという感じがします。

 

 

■デザインを通した、色々な交流

 

 僕たちの特徴は、最初は自分たちで好きなものを作ってTシャツのお店をするところから始まって、商店街活動をするようになり、その次は障害者施設の制作物のデザインをしたりと展開していく中で、全国から商品開発のお仕事をいただいたり、美術館のショップ運営を任されたりしていることです。人からは「何屋さんなんですか?」「何をやっている人たちなんですか?」と言われることは多いですし、僕のこともショップ店員、商店街のことを色々やっている人、デザイナー、障害者施設の制作物デザインや経営のアドバイザーなど色々なふうに思われています。そういう多面性を持って変わりつつ取り組んでいくことで、「次は何をするんだろう」「次は何を持ってくるんだろう」というふうに僕たちの活動を興味深く見てくださっている人もいらっしゃるなという印象です。また、色々なシーンの方が上古町を訪れるきっかけにもなっています。毎週、障害者施設の方が納品に来られるのですが、そういう中でコミュニケーションが生まれて、施設で作っているこんにゃくのデザインを依頼されたり、愛媛の農家さんからパッケージを依頼されたりと、色々なことがつながってきています。デザインを通して、色々な交流が生まれているなと思っています。

 

 

身の丈に合ったデザイン

 

 僕たちは、デザイナーというほどの経歴ではなく、学校で学んだわけでもないのですが、自分たちが「楽しいな」「やってみたい」「こうだったらいいのにな」ということを大切にして、一歩踏み出すということを大事にしています。ジャムのラベルのように、そんなにお金をかけずに、できることはやればいいかなと思いますし、お金があればそれに合わせたデザインをしていくこともできます。「デザイン代がこのくらいかかる」とか、「こんなデザインだからこれはできる」というのは、ちょっとおかしな話かなと思っているので、「商店街なら商店街らしい」「商品なら商品らしい」「コスメならコスメらしい」という感じで、地域と僕たちの身の丈に合ったデザインをさせてもらっていることが、僕たちの強みかなと思っています。

 若いスタッフはデザインや制作の仕事をしているので、最初は人と話すのが苦手だったようですが、お店番などで人と関わっていくうちに話すことが楽しくなり、作っているものを褒められたり、有り難うといわれる機会が生まれることで、やり甲斐に繋がっています。僕も含めスタッフとしては、日々褒められながらお仕事をさせてもらったり、スキルアップさせてもらっていることが、いい環境かなと思います。なので、新しく何かを始めようという人たちには、場所を考えてあげたり、褒めてあげたりすることが継続できれば、その人たちもこの場所が好きになったり、続けていこうかなというふうに思えるんじゃないかなと思っています。

 

 

■あるものに光をあてる、シビックプライド

 

 僕は、シビックプライドという言葉を34年前に知ったばかりなのですが、「僕たちに合っているな」と思っています。何が合っているかというと、シビックプライドは何でもありなんですよね。そこがすごく良くて。シビックプライドとは何なのか、僕が理解しているのは、その場所に好きになってもらうためのモノやコトを作ることかなと思っていて、何もしなかったらなくなってしまうものや、みんなが気付いていないものに、デザインや活動を通して光をあてることで、みんなが大切に思ってもらえたり、気付いてもらえたりして、「あれ、いいよね」「好きだよね」というふうなものになっていく。それが多数派ではなく、1%や2%の人でもいいので、そういう人たちにとって「いいな」と思えるものを、みんなで「いいね」といって残していくことが、シビックプライドの考え方に近いんじゃないかなと思います。

 その光のあて方として、僕たちはデザインを使ったり、プロジェクトで分かりやすくしています。作り手のこだわりが大きすぎて分かりにくくなることもありますが、シビックプライドが重視する分かりやすさには、「楽しい」「可愛い」というものを肯定する、学術的でなくてもいいんだよという意味合いがあって、それがすごくいいなと思っています。

 シビックプライドで気付いたことは、なくなりそうなものなどに光を当てることで知った面白さですね。きっかけは、先ほどの芸術祭の時にやったショップでした。僕たちは、あるものをどうやって生かすことができるかということを非常に大事にします。なので、普段からそこにしかないものを探すなど、そういう視点でものを見ているのですが、トートバッグは手ぬぐいが見つかった時点でやった〜!という感じでしたね。新潟のように「新しい」という文字が入っている地名はなかなかないので、それを赤で入れてくれているのが有り難いなと思いました。港や海があることを伝えられるツールを見つけられたことは、とても嬉しかったです。美術館もアイコンがあることで、グッズを展開することができたと思っています。街に古くからあるモノを生かしていくことが大事です。人も一緒で、人にはダメなところもあると思いますが、その人が光っている部分に目をつけて、それがどうやったら輝くのかを考えるのが楽しいかなと思っています。

 

 

買いやすい価格帯

 

 「にいがたの変なバッジ」も、最初はふざけた気分で作っていましたが、すごく売れるんです。さすがに市長は、あまり売れませんが、朱鷺や柿ピーが売れていますね。ゆるいものが好きな人が増えているような気もしますし、バッジというものとゆるさというものが合っているんじゃないかなと思っています。高価なものがゆるいと、お金は出せないという気持ちになりますが、バッジですからね。でも、これは500円ぐらいするので、バッジにしては高いのですが、500円ぐらいなら買ってもいいというようなポジション。さっきの「どういうところで何を売るか」に近くのですが、買いやすい価格帯のものを作っていくことは非常に大事かなと思っています。また、このバッジがきっかけで、このゆるい絵を描く人に新しい仕事や取材が来たりしています。

 

 

■できることを通して、誰かを笑顔に

 

 新商品が生まれていくきっかけは、僕たちが街中で面白いものを見かけた時に積極的に動くこともありますが、基本的には作っている人が物を持って来て「売ってもらえますか」と言われることが多いですね。ただ、実際にすぐ商品として扱いたいなと思えるものは、ほとんどないというのが正直なところではあります。しかし、形状や色合いなどに少し手を加えることで、新しい商品が生まれ、その人にとっても気づきが生まれるというのは、僕らにとっても嬉しいなと思います。

 新商品が生まれると、ネタを探されているメディアの方のアンテナにひっかかることもあるので、メディアに出る機会もあります。また、最近は三越や伊勢丹などが地域のものを大事にされているので、「新潟のものはないかな」とよくチェックにいらっしゃるんですよ。「デパートで催事のきっかけになった」と多くの方が言ってくださっているのも、すごく嬉しいなと思います。

 商品を置く過程の中で、ものづくりをされている方は価格設定に不慣れというか、バザーのように自分で作って自分で売るということが多いと思うんです。卸すとなると67割の金額、例えば100円のものだと6070円でお店に出さないといけないことが多いのですが、ものづくりをされている方は価格設定が分からない方が多いので、その仕組みをお伝えすることで、「この販売価格は安すぎるんだ」と色々気付いていただいて学びになっています。そういう関係性を作っていくことで、商店街の門前市などをやる時にそういう人たちを呼ぶと、ちゃんと出店してくださいます。自分たちの持っている関係性や機会を生かして、それを商店街の中に落とすことで、お互いに与え合っていくことは、すごくいいことだなと感じています。

 僕たちがやっていることは小さなことですが、それが社会や地域にとって可能性になったらいいなと思って取り組んでいます。何かをやって社会が大きく変わることは難しいですし、自分たちがお金持ちになってスタッフが喜ぶような未来が約束されることもなかなかないと思いますが、誰かが何か変わるきっかけを作れたらいいなと思っていますし、自分たちができることを通して、自分たちらしくやることで、誰かに笑顔になってもらえたら幸せだなと思っています。

 

 

■自己肯定が、活性化の一歩

 

 最後に言いたかったことですが、商店街の活性化とは、売上げが上がる、人が来る、幸せになるなど、色々なことが挙げられると思いますが、僕が思う商店街の活性化というのは、商店街でお店を営んでいる人たちが普段から笑顔でいることや、「この商店街はいいよね」ということを口にできるような状況になることだと思っています。自分の街が好きじゃなくて不満や愚痴ばかり言っていると、その街には誰も行きたくないですし、「どこかいいところないですか?」と聞かれた時にもお勧めすることができないかなと思っています。なので、まずは自己肯定ですね。自分たちのことを好きになったり、大事にしたりすることができる人が増えると、地域が良くなるんじゃないかなと思っています。それはシビックプライドにも通じる部分で、僕たちがお店を通して、商店街や新潟という地に貢献できているところじゃないかなと思っています。ざっくりですが、私のお話をさせていただきました。有り難うございました。

 

■ディスカッションーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

参加者 ヒッコリースリートラベラーズという名の由来を教えてください。

 

迫さん 最初は3人で始めました。大学は新潟大学なのですが、私は福岡県出身で、あとの2人は静岡出身と福井出身と、新潟じゃない者で始めたんです。ヒッコリーを始めたのは、大学生の時は社会学を勉強していたので、デザインの勉強はしていなかったのですが、大学ってつまんないなと思っていて、社会学やメディアのことも勉強していましたが、メディアって窮屈なものなんだなと感じていて、間接的に伝えることよりも、自分で何かを伝えたいなと思い、絵本の学校に通い始めたのがきっかけです。その学校で出会ったのが、遠藤という静岡出身の男で、「何かやらないか」と、男2人で始めたのがヒッコリーのもとになります。ただ、男2人で何かやろうとしてもなかなか難しいなと言っていた時に、大学の先輩で卒業後に洋服の勉強をしている福井出身の女の子がいたので、その人を呼んで何かをしようと。僕と遠藤で「名前は響きがいいのがいいよね」ということでカタカナ語辞典を見ていくと、ヒッコリーという木の名前があって、響きがいいからこれにしたんです。それから、女の子に「ヒッコリーというところまで出来たんだけど、続きは何がいいだろう」といったら、その子が「3人だし、スリートラベラーズでいいんじゃない」と電話越しで言って、「じゃあ、それにしましょう」ということで決まったようなものです。ヒッコリーは海外の公園によくある木らしいのですが、公園にあるようなヒッコリーというものとトラベルという移動していくものが重なることで、僕らの"日常を楽しもう"というコンセプトに近いような気がしましたし、僕たちもバックパックの旅などをしていたので、「色々なところを動いていくような気分でものづくりができたらいいね」という意味ではすごくいい名前だったかなと思っていましたが、活動していくと非常に長い名前で面倒なので、その後につける名前は「ワタミチ」や「ルルル」など短いのにするようにしています。

 

参加者 街にとっての商店街や「街の場」というのは、いつも活動していて悩むんです。どうなっていったら面白いですかね?

 

迫さん 僕は最近、「寛容性」というのが大好きで、受け入れてくれる人や気運がないと、やりやすくないんですよね。日本海側なのでお分かりかもしれませんが、新潟もネガティブな人が多いというか、危険予測が非常に得意なので、負の方を意識されて新しい動きがしにくいということが多いので、ポジティブに考えて、なりたい自分になる、なりたい未来になるための考えを継続していくことが非常に大事だと思います。おかしいなと思うことは途中でバサッとやめるべきだと思いますが、信念のあることやるべきことは続けていくことが大事かなと思います。継続することで、スキルアップや関係性が広がっていくので。僕たちはお店を10数年やっていることで、どんどんステップアップさせてもらっているのかなという気がしています。

 あとは、お金も大事なので、自由度の高い活動をするには、どこからどういうお金を生んで、どんな人がいれば、その活動がしやすいのかというところを見て進めていくことが大事かなと思います。そのメンバーや環境に合わせて、できる最大のことをやることが重要かもしれないです。プログラムをやるために無理矢理何かをやっていくというよりも、身の丈に合ったものをやることで等身大のものができるんじゃないかなという気がします。

 

参加者 お話を聞いていて、自分たちだけでやるのではなくて、周りを巻き込んで新しいことをされているなと感じたのですが、周りの巻き込み方というか、こういうことをしたら巻き込みやすい、面白くなっていくということがあったら教えてください。

 

迫さん 多分、笑顔と挨拶かな。技術よりもニコニコする、話を聞くということが非常に大事かなという気がします。笑顔がよかったり、話を聞いてくれる人には何度も会いたいなと思われると思うので、そこが1番かなという気がしています。それこそ、面倒くさい人には積極的に笑顔で声をかけるようになると、直接悪くは言われなくなっていきますし、人は鏡だとよく言いますが、こっちがいい雰囲気を出していれば、あっちも良くなっていきます。こっちが何か困った時にお願いすると、応えてくれやすくなるという環境もできますし。僕たちは隙だらけで完璧じゃないことが多いので、足りないことに対してアドバイスしてくれるおばさんやおじさんがいて、そのアドバイスですんなり変えることが多いので、こだわりがそんなにないことも良さかもしれません。

 また、気軽にお願いをするのも大事かなと思っています。僕はまだ理解できていませんが、スタッフの子は「忙しそうだから悪いですよ」「さっきお願いしたばかりなのに、またお願いするのは」と言うんです。それはそうなのですが、長い目で見て今こういうことをやれた方がきっといいと思うから、お願いだけをしてみるんです。断られたら謝ればいいだけだと思うので、とりあえずお願いをする。お願いをするということは、その人に期待するということなので、その人だからやってくれそう、いいものができそうということですね。期待をかける。やってもらったら感謝をして、その人にいいことが起こりそうだなという時にはどんどん紹介していくというか、普段から自分たちと関係のないことでも繋ぐということをしているので、よくしてくださる方が増えているのかなという気がしています。

 あとは、放り投げるということもよくやります。おじさんの場合は僕が担当することが多いのですが、若い子たちにどんどん任せるようにしています。若い子たちが困ったり、怒られたりした時は、僕がお尻を拭くので、そういう場を与えることで、可愛がってもらえるようになります。僕より丁寧にコミュニケーションをとるので、かえって喜ばれることが多いです。最近、僕は商店街の集まりに行けないことが増えてきたので、お店のスタッフが行くのですが、飲み会にもよく行くようになり仲良くなって、うちの男の子も女の子もみんな商店街の皆さんに可愛がってもらっています。ちょっと矛盾するかもしれませんが、"らしく"あろうとは思いますが、自分じゃないとできないとは思わないので、"誰でもできるから"という気持ちで関わるようにしていることが僕たちの特徴かなという気がします。

 

参加者 先ほど行政とあまり関わりすぎずということを言われていましたが、どんなことが?

 

迫さん 新潟市役所の方は上古町びいきになってくださっているので、補助金などがどんどん来るような状況になっています。あとは、さっきの専務理事の方は、補助金使ってやったらダメだろうというようなことも結構ありにしてくれます。例えば、封筒に34枚の食券が入った「食の福袋」というものがあります。上古町だと全部で飲食店が30店舗ぐらいあるので、フランス料理のランチ券、団子の券、中華料理屋さんのラーメン券、ハンバーガーの券など、どのお店の券が入っているのかは分かりませんが、1,5003,000円相当の食券が入っています。そういう袋を作って、補助金を半分いただいて実施できたのですが、よくよく考えると補助金でみんなの飯代を出しているようなものなので、「いいのかな」という思いはあったのですが、食を知ってもらう体験型の企画ということでやれば大丈夫だということで実現できました。市の方が、どうやったらできるかということを見つけてくださって、僕たちのプロジェクトをほぐしてくださるので、できているということが多いです。

 最近したプロジェクトは、全国商店街連盟さんから補助をいただいてやらせてもらいましたが、さっきのテープカットに使っていた模様などを各店舗に形を変えて配置するような、シャッターや看板、お店のガラスの上にカッティングシートを入れて統一マーク、プラス店名を入れるような企画をして、スタンプラリーで回遊してもらうというものを考えました。これは形が残るようなものなので難しいのですが、イベントを盛り上げるための装飾ということで、シャッターに置くことはOKなど、そういう読み解き方を教えてくださるというか、助成金の使い方をいいふうに考えてくださいました。すごく助かりますね。実際に県や国や団体から使える制度というのがあると思うので、それの上手な使い方をしている人を呼んで説明会をすると面白いと思います。商店街は、文章が下手だったり、読み解けなかったり、プロデュースすることが弱いので、そういった力をつけていけば、もっと面白いことができるのかなと思います。スキルを伝える場があったらいいんじゃないかなと思います。

 

司会者 その他、商品のことや取り組みのことなど、些細なことでも結構です。せっかくの機会ですので、よろしければどうですか。

 

迫さん この中で商店街のことをされている方はいらっしゃいますか?

 

司会者 商店街でお店を持たれているとか、組合に入られている方はいらっしゃいますか?

 

迫さん いらっしゃらないですね。どういう方が多いのですか? 

 

司会者 市役所職員とか。

 

迫さん その職員の方はどのぐらいいらっしゃいますか? 半分近くですね。商店街って、難しいものなんですかね。その辺を聞けたらいいなって。

 

司会者 私もその辺の話をやり取りできたらいいなと思っているのですが、商店街に精通している方で問題提起があれば。無茶ぶりですけど。

 

迫さん 僕たちが最初にやったチャレンジショップでは、大学卒業後に3人で2坪ほどのお店を1年半ほどやらせてもらいました。それをやらせてもらったことで、上古町商店街になる前にお店を出した時にも地域の方や商工会議所の方にお世話になったので、恩返しをしなきゃいけないなという気持ちで色々なことをさせてもらっています。チャレンジショップは行政が運営されていたので、そこに1年半ぐらいいたことで、行政とのあり方を学ぶことができました。なので、そういうことを若者にするといいと思いますね。若者はどんどん成長していくので、恩返しをしてくれるんじゃないかなという気がします。チャレンジショップには、ケーキやチョコを販売するポワルさんという店があって、今では独立されて人気店になられました。商店街ではないところで商売をされていますが、新潟県のいいお店ということで最優秀賞を受賞されています。そういうふうにうまくいったのは少しの店舗だと思いますが、良い結果が出てきて、それを色々な人に伝えられていることはすごくいい制度だなと思っています。

 

司会者 新潟市の地下街のチャレンジショップからスタートされて、上古町に移られてお店を営んでいるということですね。チャレンジショップは富山市の中央通りが先駆けで、それが全国に広まって、その取り組みを新潟市で取り入れて。

 

迫さん 真似してね。あの時は、富山のチャレンジショップにたくさんお店が入っていて、街中にもたくさんお店ができて、すごくうまくいっていると聞きましたが、今はどうなんだろうって。

 

司会者 今は、その取り組みはないのですが。

 

迫さん それも長くやればいいというものじゃないというさっきの話と一緒で、最初はいい人が集まりやすいので、3年ぐらいで終わっていいような企画という気がします。形を変えてまた違うことをすればいいと思いますが、うまくいったからといってずっと続けていると、どんどん変なお金がかかっていくところが難しいのかなという気がします。

 最近の新潟市で面白いなと思うのは、市民プロジェクトですね。芸術祭の時に生まれた補助制度なのですが、アーティストや市民活動、商店街の活動などで面白い、人を呼び込むようなことやセミナーやワークショップをやりたい人が申請できるようなもので、助成金の上限が50万円ぐらいかな。その補助金を使う幅は人によってまちまちですが、それをたくさんの人が使えるような形でやっていて、芸術祭の時には市民プロジェクトを100個ぐらいやったように思います。文化活動はお金がかかって継続できないものですが、市民プロジェクトをきっかけに市民が自主的に面白いことをしたり、大きな繋がりができたりしています。単年度で効果が出るものではありませんが、繋がりがあるプロジェクトなので、僕はすごくいいなと思っています。

 その市民プロジェクトを活用して、全国から面白い方をお呼びしたり、県内の面白い活動をしている方を交えたトークセッションをしたりと、シビックプライドの会議みたいなプロジェクトをしています。シビックプライドのことや、自分たちの地域をどうやってよく見せることができるかという学びにだけでなく、東京や北海道の人に新潟市の面白さを知ってもらって、その人たちがまた色々なところに発信してくれるという良さもあります。新潟の人たちの自信にも繋がっているので、そういうのを市民プロジェクトの補助金を使って実現できているのはすごくいいことだなと思っていますね。

 メディアを繋ぐことも重要なことです。市の方が面白い動きを見つけてメディアに紹介してくださることがわりとあって、それがやり甲斐や次へのステップになると思うので、そういうのも有り難いなと思っています。また、市報や新潟の新聞社とも関係を持たれているので、商店街の活動をたくさん載せてくれることで、商店街のある地域の方が僕たちの活動を評価してくださいます。人は、現場だけ見てもその凄さや背景を理解できないことが多いのですが、全国誌や全国ニュースに載ることで凄いんだなと思われることが多いので、メディアを使って外から自分たちを理解してもらうことは、自己プロデュースのようなことですが、重要なことかなと思います。行政ができることは、そのつなぎ役だと思うので、ぜひやってもらえたらいいなと思います。

 

司会者 私から一つ。今日はまちづくりセミナーということで、まちづくりと広いテーマではありますが、まちづくりというと凄いことをしなきゃいけないというイメージが一方であると思いますが、何かしたいけど何をしていいのか分からないという方が結構いると思うんですね。迫さんはデザインやお店があって、結果的にまちづくりにつながっていると思いますが、これから何か始めたいという方にアドバイスや、地域に関わっていく上での秘訣などがあれば教えていただけたらと思います。

 

迫さん 自分で発信することが非常に重要かなと思っていて、2人いれば複数形になるので、若者であれば若者たちになるんですよね。聞いた人は10人ぐらいいるように思うトリックもありますが、複数で同じことをやっていると活気や動きの雰囲気が出てくるので、そういうことをやりたいと思っています。みんなが勝手に好きなところのマップを作ってきて、お店や駅に配置すれば、時間つぶしに読む人が出てきて、おすすめの場所がたくさんある場所には愛着を持ってもらえると思います。

 うちにデザインも何もできないのに、「入りたい」といって入ってきた子がいるのですが、最初に「ルルル通信」という学級新聞みたいなものを作ってもらいました。毎回やると、どんどん上手になっていって、それを楽しみにする人が増えてきました。その子はパソコンを上手に使えないので、手書きで書いて修正液で消して、というのを繰り返すのですが、どんどん絵がうまくなっていって、まだ入って1年ぐらいですが、雑誌社からイラストの依頼が来ています。

 今までのコミュニティは中で完結していたものでしたが、外から見られているという意識で活動をしていくと、外からは楽しそうな人たちがいる平和な場所に見えてくるので、そういう意識を持ってコミュニティを大切にしていくことができれば面白いし、簡単にできることかなと思っています。あとは、ツイッターやフェイスブック、ブログなどにちょっとしたことでいいので、人をほめるような写真と文章を投稿することを定期的にやることも簡単かもしれないですね。紹介してもらった人は嬉しいし、人の心は分からないものなので、誰が何に引っかかるかは分からないのでね。あと、美術館では、主婦の方やフリーターなど3人ほどバイトを雇っていますが、みんなが長々と書いた「ルルル」のブログも評判がよくて、色々な人がブログを楽しみにしていてくれるので、等身大を見せることは重要なことかなと思っています。

 

参加者 先ほどチャレンジショップの話がありましたが、平成9年、最初は商店街の昆布屋さんの姉妹が雑居ビルでやりたいということで、人を呼んでやり始めました。最初はすごく大成功して、12年後に出て自分の店を持って、テナントでお店を持った人がその建物を買ったり、金沢に2店舗目を出したりという人も何人かいて、卒業生で100人以上、そのうち独立してお店を構えたのは半分ぐらい。まだお店を出している人もその半分ぐらいいて、そういう意味ではすごくよかったのですが、評判になってしまって全国から視察が来て、経済産業省の大臣まで来たことで、高校生たちが来なくなり、5年ぐらいで錆びていった。そういう意味では、行政が近づきすぎないことも大事だと思います。

 

迫さん ネクタイの人たちがたくさん来たことで、若い人たちが来なくなったのですか?

 

参加者 それだけではないと思いますが、年間に100200件だったので、原因の一つだと思っています。

 

司会者 新潟と富山が一緒にやれることがあったら、ぜひ今後もよろしくお願いします。

 

迫さん はい。ぜひ。フェアとかやれたらいいですよね。今度開通する北陸新幹線の試乗を募集していたので、応募しましたが外れちゃいまして、乗れたらよかったなと。今度は乗って来たいなと思います。

 

参加者 私はお店をやってもらっているんですけど。

 

迫さん 大家さんなんですか?

 

参加者 そうです。商店街で潰れていきそうなところがあるので、町おこしをしています。今はやってくださっているのが大学生で、街のいいことを探していて、夢が膨らんで楽しいのですが、現実には民間でちゃんとやっていける事業じゃないといけないと思うんです。ずばり、売上げ、人件費を具体的に教えていただけると有り難いです。

 

迫さん 僕たちの年間の売上げは8,000万円ぐらいですね。去年から始まった美術館も含めて。1個言うのを忘れていました。昨年ぐらいに、コンサルの方に商店街の幾つかのお店を半年ぐらいかけてみてもらうという輪転研修をしたんです。そこで、毎月の売上げについてアドバイスをもらって、みんなで「何%伸びました」と発表するのですが、うちの店は10月から始まって最初は10%、次は20%とちょっとずつ伸びていって、90%伸びる月も出てきました。うちの売上げはブライダル事業、デザイン事業、オリジナルグッズ、ショップに分かれていて、年によってあり方も変化しますが、お店は月に100万ぐらい。最近は100万を切る月が多く、でもお店があることが大事かなと思っている時期もありましたが、コンサルの方に入ってもらうことで、月の売上げが平均で1.5倍ぐらいになりました。富山もそうかなと思いますが、新しくお店を始める方は基本を知らないと思うんですよね。見せ方や売れやすい形、ポップの出し方、季節のイベントの必要性など、基本的なことを知ることで売上げを作れるので、そういう輪転を具体的に見ることができたらいいなと思いました。

 今、従業員は7人ぐらいで、アルバイトの人もいますが、月で変わったりします。月の給料で130万ぐらいかな。それが年間という感じになります。去年は売上げとトントンという感じでしたね。3年前までは個人事業という形でやっていたので、利益も出ていたし、人も今より少なかったんです。人が増えることで利幅は減りますが、次の可能性のあるプロジェクトを最近組んでいるので、楽しみだなと。活動の幅がどんどん出てきて、明るい未来が期待できるような活動だなと思っています。でも、しっかり利益を生んで儲かっていくことで、より楽しいことができるということは確信しているので、売上げを作ろうと。先週、商店街のトークセッションに行き、クエスチョンが付いたまま帰ってきました。「儲けることよりも大事なものがある」と皆さん言われたんです。それはそうだと思いますが、お金はしっかり検討して逃げないように考えていくべきだと思うので、そこの仕組みや勉強会をしてスキルアップをしていくことは大事だなと思っています。

ページの先頭へ