レポート

まちづくりセミナー2018

まちづくりセミナー2018 第4回講演録 講師:内田友紀

2019/08/12 

まちづくりセミナー2018 第4回講演録

 

日程:平成30年2月27日14:00〜16:00

会場:富山市民プラザ AVスタジオ

主催:NPO法人GPネットワーク


 

地域を超えた人の流れをつくる

〜中規模都市で取り組む、地域産業とクリエイティブの挑戦〜

 

                株式会社リ·パブリック共同代表 内田友紀氏

 

 

●富山についての印象について

 数年前に福井でULALAというタウン情報誌で、まちづくりのはじめ方という連載を持っていた。そこで富山を取材したことが富山発上陸であった。その際の取材で富山のまちづくりに関する取り組みが広がっていて、とても面白かった印象がある。

 

●自己紹介

<故郷の話>

 出身は福井県福井市。福井市は人口30万人弱の都市で富山よりも人口が少ない地方都市。高校までは福井で育ち(高校2年から1年間、学校を休んで、国内外よく旅をした。その経験が今の自分に強く影響していると思う)東京の大学に進学。一度就職したのち、退職し大学院に進学。現在は、創業に携わったRe:publicの共同代表として活動。

 

<現在勤めている会社の話>

 今勤めている会社のお話を少ししたいと思います。Re:publicは東京の湯島にある会社で、メンバーは10名ほど。それぞれの背景が異なり、自分は建築や都市計画を専門にした取り組みを行なっているが、他はデザインリサーチやコンピューターサイエンス、文化人類学など異なる専門分野を背景にもつ人が集まっています。市民や企業や行政、ちょっと前まではバラバラに動いていた人たちを繋ぎながらイノベーションを起こしていく、新しい変化を起こしていく、環境変化を後押しすることを根底に考えている会社です。我々のような会社、組織はまだ日本では馴染みはないが、世界では特にヨーロッパを中心に広がってきています。

 Re:publicには大きく3つの領域の仕事があります。一つ目は、都市・地域デザイン。二つ目は、企業や組織の組織変革、プロジェクトや事業を作るお手伝い。三つ目は、科学技術の分野で色々な研究者のプロジェクトを立ち上げに伴走するなど。(2018年当時)

 

●本日の話

 自分が特に取り組んでいる分野である都市デザインの一環で、福井市と取り組んでいる「make.fukui 未来につなぐ ふくい魅える化プロジェクト」の一つである「小さなデザインの教室:XSCHOOL 」を中心に、本日のテーマである「中規模都市で取り組む、地域産業とクリエイティブの挑戦」についてお話をしていこうとおもいますが、その前にこのような活動を行なっている背景について、説明していきます。

 

<都市・地域デザインの重要なポイントを学んだ学生時代>

 大学では建築を学んでいましたが、その過程で特にまちに魅かれていきました。まちには3つの要素があると考えています。まずは「風土や気候」、その上に建物などの「創造物」があり、そこで暮らしながら営まれる「コミュニティ」の3つ要素が絶妙に混ざり合って、様々なまちが存在しているということ自体がとても面白いと感じたからです。その3つをどのように混ぜ合わせるか、という都市デザインをもっと学びたいと学生時代強く感じていました。

 最初はメディア企業に就職し、週末に各地のまちづくりに関わりつつも、当時の「行政のトップダウン式の都市計画」には違和感があり、一方で「市民のボトムアップ式のまちづくり」と称したイベント企画運営をする方々の疲弊感も感じられ、より持続可能なまちづくりがあるのではと思い、国外の現場を見に行こうと、就職して貯めた資金でイタリアのサステナブルシティデザインを学ぶ大学院に進学しました。イタリアは、経済が停滞していつつも、各地の地域の輝きが失われていない国です。成熟国の今後に大きな学びがあるのではと思い、イタリアを選びました。また大学院ではイタリアだけではなく、世界各国をフィールドリサーチやプロジェクト実践のために周りました。建築的アプローチや、コミュニティづくりなど色々な役割を担うことで多角的なまちづくりに関する学びを実践してきました。

 特に印象に残っているのが、ブラジルのアントニーナというまちでの出来事でした。この街には、2つの立場で関わりました。一つは、ブラジル州政府のインターンとして。国連のサスティナブルシティアライアンスのプログラムで、この街を持続可能な街に育てるサポートをするために派遣されました。そのプログラムの導入では住民の方たちに一方的にプロジェクト内容を伝えるものでしたが、説明を行った途端、猛烈な反対にあい、紛糾するというシーンがありました。

一方で、同じ街で、(大学院の学生という立場で)街の人たちや行政の方と、街の課題や価値についてリサーチやディスカッションを1ヶ月に渡りおこなったプロジェクトは、自分たちがいなくなった後も、街の住民や行政の方達が主体的に継続的に取り組むプロジェクトに育ちました。この同じ街に起こった2つの出来事は今後の自分の活動指針に大きく影響を与えるものとなりました。

 ブラジルの出来事も含め、まちづくりに重要なことは、そこにいる人が中心となって、それぞれの創造性を発揮しながら自分たちで動かしていくこと(自走)がとても重要だということを知りました。その環境を作ることこそが、都市デザインに重要なことなのではないかと気づきました。

 

都市・地域デザイン→その地に関わる「人」が自らまちを動かしてゆくこと

 地域・都市デザインは以下のように移り変わってきていると言われています。

プランニング→マネジメント→アノニマスネットワーク 計画方法の観点でいうと、地域計画、長期計画→地域経営、中期計画→試行的実践。フィールドの観点でいうと、空間の構築→仕組みの構築→Well-beingの構築(仮説)住民の関わりの観点で言うと、利害調整→参加→主体

 

<人を中心にしたまちづくりの実践で見えてきたこと>

 重要なことは、実験・失敗できること。寛容性を持つことです。一気にまちの何かを変えることが難しいならば、少しずつ実験をしながら、関係者を増やしていく。うまくいった/行かなかったを互いに学びながら、変化を作ることが大切だと思います。

 もう一つ重要なことは、異文化との行き来があることです。さらに、ルーツを起点にした変化を作るということが重要だと考えています。例えばその土地の歴史・産業などを読み解いたうえで、新たな考え方をそこに持ち込んだ時に、まちが育んできた文化がアップデートされます。

 そして、面白い変化が起こったことを可視化することも重要です。せっかく起こった面白い変化は可視化されないと、周囲に伝播されません。コミュニケーションによって、インパクトを大きくしていきたいですね。

 

まちづくりで重要なこと

ポイント:都市のデザイン「人」の変化に対し寛容性、実験性をもたす

ポイント:異文化との行き来を生みだす

ポイント:地域も組織も「ルーツ」を起点にする

ポイント:新しい価値を可視化して、周囲へ届ける

 これらを大学院での学びを活かしながら実践していくうちに気づいたわけですが、それらをどう活かしているのかについて、次のお話で詳しく説明いたします。

 

<make.f XSCHOOLプロジェクトの話>

 日本の中規模都市には、長く培われた産業や文化がある。一方で、大都市や、尖ったビジョンを出せる小規模の街に比べて、ひとりでに人が集まる引力は強くなく、ビジョンを描きづらい現状がある。その豊かなルーツを起点に、中小規模の街が魅力を放っていったら、日本の都市構造はどのように変わるだろうか?ここに、地域を超えた人の流れをうむことから始めよう ということが、関心の起点でした。

中規模の街の可能性を感じ始め、どこでその実践を行うか考えた際に、自分の故郷である福井市がまさにその都市に該当していることに気づきました。そこで動き出したのが、「未来につなぐ ふくい魅える化プロジェクト make.f PROJECT」でした。「地域を超えた人の流れと仕事をつくる」をテーマに、この事業は、Re:publicと福井新聞で共同事業体として取り組んでいます。その中で一番力を入れて取り組んだのが、XSCHOOLという広義のデザイナーを育てる、小さな小さなデザインの教室です。次代のデザイナーが試行錯誤できる場所を、福井を舞台につくりました。

 XSHOOLには3つ登場人物がいます。登場人物①は、関東・関西・福井から集まる、バックグラウンドのことなる受講生です。「デザイナーとしての役割を、もっと広げたい」「現在の所属組織やいま暮らす街だけでなく、たくさんの人たちと切磋琢磨したい」「都市で生きるだけではもの足りない、いつか地域や地域の産業とともに暮らしながら働きたい」というような人が集まる仕組みをつくりました。登場人物②は福井の地域をささえる3つの地域産業です。実際に企業の方にプロジェクトに関わっていただきました。3社とも、福井らしい、長く粘り強いものづくりに取り組まれると同時に、経営に携わるみなさまは、「時代の変化に対応していくためには、新たな発想を持つ外部の方のインスピレーションに触れることが必要だ」とおっしゃいます。受講生一同、大変な刺激と学びをいただきながら、ともに奔走していただきました。そして、登場人物③は、さまざまなデザイン領域を横断する講師陣です。講師陣には、受講生とパートナー企業を様々な角度から支えていただいています。お一人目は、原田祐馬さん。大阪を拠点に、UMA/design farmを主宰し、デザイナーという立場から、文化や福祉、地域に関わるプロジェクトに携わり、「ともに考え、ともにつくる」を実践。グッドデザイン賞はじめ、数々の審査委員、京都造形芸術大学空間演出デザイン学科客員教授も兼任されています。続いて、ウェブデザイナーの萩原俊矢さん。東京を拠点に、大企業のグローバルメディア構築から、障害のある人たちの創作活動を支援するWEBサイト、インターネット闇市はじめアンダーグラウンドなメディアアートなどの自主的なプロジェクトと幅広くご活躍で、多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師も兼任されています。お三方目は、プロダクトデザイナーの高橋孝治さん。無印良品にて生活雑貨の企画デザイン、防災プロジェクト「いつものもしも」のディレクションなどを行うのち、約2年前に愛知県常滑市に移住。地元企業や常滑市とのプロジェクト、常滑焼ブランディングディレクター、六古窯クリエイティブディレクターを務めておられます。講師3名も大阪・東京・愛知とそれぞれの拠点から福井に通ってきていました。最後に事務局として、都市デザイナーのRe:public 内田、編集者のMUESUMの多田さん、前述の原田さんがプログラムディレクターとして伴走しています。

 XSCHOOLは、全国各地から集まったメンバーが初めましてと挨拶してから120日間で形あるプロジェクト、プロダクトの種を生みだします。福井のこと、メンバーのことを学びながら短期間で試行錯誤しながら学ぶ場となります。東京と福井で最後に発表会をおこなうが、福井では二百人以上の人が4ヶ月間の様子を知る機会もあります。昨年のものですが、XSCHOOLの様子がわかる映像があるのでご覧ください。

 今年で2年目になるXSCHOOLですが、去年は24人8チームで行いましたが、そこから出てきたプロダクトをいくつか紹介します。一つ目は、子どもの毎日を探検に変える、日めくりカレンダー「こよみッション」です。昨年のパートナー企業・カレンダーのにしばたさんが語る、「暦」の過去・いまの変遷、福井の教育のあり方から着想を得て、立ち上がったプロジェクトです。クラウドファンディングで目標金額を上回るたくさんの支援を受け、夏休み篇が実現。大好評につき、1期生の加藤洋・中川奈保を中心に第二弾も計画進行中です。二つ目は、食のバリアフリーを実現する、Foodist Information。1型糖尿病のメンバーが抱える「食のマイノリティとしての問題意識」を起点に、新しい「食の情報開示」をテーマにした活動です。こちらは、昨年のパートナー企業・駅弁の番匠本店さんとのコラボレーションにより、食材の情報を英語で表記したパッケージのお弁当を開発。昨年12月1日から福井駅と金沢駅にて販売をスタートしています。最後にご紹介するのが、福井で活動するさまざまなゲストを迎えた10名限定の濃密なイベント「おふくわけ」です。この「おふくわけ」なんと1年の間で、早くも7回開催、お二人を中心に、運営する仲間も増え、輪が広がっています。そのほかのプロジェクトも、福井に通いながら、実現に向けて準備が進んでいます。結果的にXSCOOLで生まれたプロジェクトやプロダクトだけではなく、関わった受講者がその後も福井との関わりを続けていて、新しい仕事を見つけたり、移住したりと色々なご縁を継続しています。パートナー企業の方にとっても、新しい学びを大いにもらえたと評価してもらいました。このような、福井のルーツを起点にした異文化の行き来を促すしくみがXSCOOLという機会で作られているのです。

 

<これからの話>

 一つは、XSCOOLのような人の温度が変わった行ける場がどのようなものが良いのかをさらに実践・研究し、つくり続けられたらいいなと考えている。二つ目は、繋ぐという意味で、国内外関係なくいろんな街と街を、XSCOOLのような仕組みをつくることで繋げて行けるような取り組みを行なっていきたいです。

 最後にみなさんに伝えたいことは、建築家のルイス・カーンの言葉であらわすこういう場を作り上げていきたいです。ご静聴ありがとうございました。

 

建築家 ルイス・カーンの言葉

A city should be a place 

where a little boy walking trough its streets 

can sense what he some day would like to be. 

都市とは、小さな子どもが歩いていくと、

将来一生をかけてやろうとするものを教えてくれる何かに出会う、

そんなところだ。

 

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