レポート

まちづくりセミナー2018

まちづくりセミナー2018 第1回講演録 講師:森口将之氏

2019/08/12 

まちづくりセミナー2018 第1回講演録

 

日程:平成3012014:0016:00

会場:富山市民プラザ AVスタジオ

主催:NPO法人GPネットワーク


 

モビリティデザイン先進都市TOYAMA

 

        モビリティジャーナリスト/株式会社モビリシティ代表

森口将之氏

 

 

自己紹介

1962年東京生まれ

1993年〜 モータージャーナリスト

2004年〜 モビリティジャーナリスト

2011年〜 株式会社モビリシティ代表

21世紀に入って自動車を取り巻く環境の変化を感じ、2004年からモビリティジャーナリストとしても活動を開始。自動車の記事も公共交通の記事も執筆。国内外の現地に足を運び、交通事情を取材。アナリストとして現場で感じ考え執筆する活動が特徴。

 

自著紹介

「パリ流 環境社会への挑戦」

「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」

これまで8冊の書籍(うち2冊共著、1冊電子版)を出版。

 

ブログ紹介

THINK MOBILITY = http://mobility.blog.jp/ 5年前から毎週末に更新

 

富山とのかかわり

21世紀(20065月)になってから初めて富山を訪問。ライトレール開業直後に、福井取材の際に立ち寄る。その後、震災で仕事が減った時期に、時間があるからこそできることはなにかと考え富山の本の出版を決意。2011年、新書を書くために富山を取材。それからは、富山をとても気に入り、毎年のように富山を訪問。

 

本日の内容

モビリティとは?

海外モビリティ最新情報

なぜデザインが大事なのか

富山の素晴らしさ

明日のモビリティデザイン

 

モビリティとは?

モビリティは「乗り物」ではない。

辞書で、モビリティをひくと「動きやすさ」「移動性」「機動性」と

書かれている。

 

モビリティとは・・・

Mobility =(人間の)移動性。移動のしやすさ。

クルマが主役ではない。公共交通が主役でもない。

人間を主役として交通を考えること。

すべての人にとって快適な移動を提供すること。

地球や地域に負荷を掛けないように。

 

モビリティ視点で道路を考えると

人間を主役として道路交通を考える。

つまり、すべての人が環境や社会を考えつつ、

自分の移動に最適な乗り物を選択し、

他の乗り物と競争せず、共存して移動していく。

 ▽

多様な交通が移動をシェアできることが大切

 

多様な交通が移動をシェアできる環境が大事なため、モータージャーナリストでありつつ、モビリティジャーナリストとして活動。自動車と公共交通は

敵対せず共存すべきである。

 

戦後社会は過度なクルマ優先社会

2次世界大戦後の高度経済成長

持ち家指向→居住地の郊外拡散

自動車の大衆化→マイカー時代

 

クルマ優先社会が生んだ弊害

郊外では広い家、車があれば不便じゃない

ペダル踏み間違い暴走事故の多くは高齢者の運転。

逆走運転の多くは認知症が原因と言われる。

まちなか居住と歩いて暮らせるまちづくりを推進し、

周囲がケアすることで安全な移動を提供。

 

海外モビリティ最新情報

なぜ欧州の公共交通は元気なのか?

2次世界大戦後の高度経済成長(仏:栄光の30年)

持ち家指向、一軒家指向→居住地の郊外拡散

所得増加と自動車の大衆化→マイカー時代

交通渋滞、大気汚染、オイルショック

欧州→公共交通への転換/日米→排出ガス規制

 

公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり

グラーツ市(オーストリア/25万人)と宇都宮市(日本/51万人)の

商店街比較

 

GVGF(ドイツ/1971

1960年代から鉱油税の一部を公共交通に充当

その後国から州への補助も開始

GVGFはこれらの動きを立法化

公共交通を自動車より優先する思想

苦境に立っていた公共交通が復興する契機に

 

LOTI(フランス/1982

世界で初めて「交通権」を定義

万人が自由に快適に移動できると規定

環境負荷を最小限に留めることも明記

自動車優先社会からの脱却を図る

        ↓

廃止が続いた公共交通が再整備される契機に

 

欧州の公共交通は税金で支えられている

公立学校や図書館などと同じ考え方

都市計画の一環として交通計画を進める

フランスでは沿線事業者から交通税を徴収

ドイツはエネルギー税(旧鉱油税)が原資

路線の新設や車両の更新などを積極的に実施

 

パリは、世界有数の交通改革都市

自転車シェアの代表格ヴェリブ

ヴェリブは最初から何千台単位で自転車を導入

 

LRT(トラム)は現在8路線

トラムは1990年代にパリで走り始め、現在は8路線

一部路線はレール1本でゴムの車輪なので坂道も走行可能

自転車レーンは臨機応変

歩道も中央分離帯も橋の下も活用

全長約400km(一部はバスレーンと共有)

自家用車に乗らない者同士で共有するという考え方

2040年までにエンジン付き自動車は廃止すると発表

Bus2025=バスの電動化推進(小型のバスから電動化を推進)

多様な交通が移動をシェア→移動の選択肢を増やす

 

ポートランド=全米でもっとも住みたい街

アメリカでいち早く公共交通を推進し、コンパクトシティを目指す

乗り換えが楽なトランジットセンター

公共交通は乗り換えを不便に思う人が多い

よって路線敷設時に乗り換えをセットで考える

 

公共交通と自転車の共存

人と自転車とLRTだけが渡れる橋を新規に整備

道が狭かったため上下の線路・道路を分ける

両方の道に歩行者が増え、多くの賑わいを生み出す

公共交通と自転車の共存(自転車ごとバスに乗車可能)

バスは車体前方に自転車を置き、電車は車内に吊るす → よって人は座れる

シェアサイクルはナイキがスポンサード、太陽光発電で稼働

歩行者のためのベンチも充実(500mおきにベンチ設置、歩く人のための

細やかな配慮)

 

リヨン(フランス・49万人)

坂が多いためトロリーバス多用、排出ガス減少に貢献

平地ではパリに先駆けて自転車シェアリングを導入

 

ルーアン(フランス・11万人)

都心は地下鉄としてLRT運行

中心市街地は歩行者優先空間

バスは停留所の白線をセンサーで読み取り自動運転を実施

停留所に隙間なく停車するためノンステップバスの価値がある

 

グルノーブル(フランス・16万人)

LRT5系統、シェアサイクルも整備

トヨタの超小型車をカーシェアリングとして提供

乗換を検索・提案するアプリで大気汚染状況も把握可能

 

ル・マン(フランス・14万人)

高速鉄道駅とLRT停留場が並列で乗り換えしやすい

レース会場までLRTで移動可能(24時間レースにも対応)

LRTステーションをレースの演出空間として活用

 

チューリッヒ(スイス・40万人)

市内を網羅している古い路面電車を活用したLRT

国鉄は時間に正確で乗り換えは対面が多いなど便利

自転車レーンも整備されており利用者多い

 

アムステルダム(オランダ・85万人)

自転車王国と呼ばれるだけあり専用レーン完備

中央駅にLRT電停、乗船場、自転車駐輪場を整備

狭い道ではLRTは単線としてネットワーク拡充

 

ヨーテボリ(スウェーデン・57万人)

LRT線路上をバスも走行(共用利用)、乗り換えが楽

自転車専用道も整備

STS(スペシャル・トランスポート・サービス)高齢者向け移動サービス充実

(有償)※バスやタクシー等の従来の公共交通機関を利用できない移動制約者に個別的な輸送を提供する交通サービス

 

アジアでもモビリティ改革(バンコク)

往路20分、帰路2時間かかるような渋滞多発

バスはエアコンなしもあり、トラックを活用した乗り合いタクシー

地下鉄や高架鉄道のほかBRTを整備

 

アジアでもモビリティ改革(上海)

人口は東京の2

磁気浮上式高速鉄道が空港と市街地を結ぶ(ホームドアも完備)

ドックレス式シェアサイクル。アプリとクレジットカードで利用

高齢者はバイク、若者は自転車の利用が活発

 

なぜデザインが大事なのか

デザイン=もののかたち、だけではない

 

よいデザインとは?

カッコいい→乗りたくなる

車はデザインで買っている

鉄道やバスもデザインで乗りたくなる

乗るかどうかはデザインで決めている部分もあるのでは?

 

トータルデザイン

停留所・架線の柱・インフラを含めたトータルでデザイン

いち早くトータルデザインを導入したアストラムライン(広島高速交通株式会社)

アストラムラインはオレンジ色でデザインを統一

パリでは車道を狭くしLRTを運行、街灯の電柱を架線柱に活用

富山のポートラムは乗るのが気持ち良いトータルデザイン

 

自然を生かしたターミナル

ローザンヌ(スイス)

川が流れていた場所をターミナルの広場として整備

川を渡る橋はそのまま残すことでランドマークとする

 

景観のために架線をなくす

ニース(フランス)

景観のために架線をなくす。そのために車両に電池を搭載

広場の空間の広がりをそのままにLRTを通す

 

乗り換えしやすさが利用を促進

LRTとバスを同一の場所で発着

乗り換え通路を段差なくまっすぐに整備

 

ユニバーサルデザイン

LRTは段差が少ないからお年寄りも障害者も乗りやすい

公共交通利用が難しい人のためにSTSなど専用手段を用意

 

五輪パランピックを機に都市改革

バルセロナ(スペイン)

国家的イベントを機に公共交通改革

LRTを開通させるとともに道路を再配分

中央が広い歩道、脇に自転車レーン、LRT、車道という順で配置

 

IT活用で利便性向上

アプリのデザインも使いやすさ、センスが重要

車両にとどまらないトータルデザインが大事

 

富山の素晴らしさ

世界に誇れるモビリティデザイン

公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり

新規の乗り物を入れるだけではなく富山港線・高山線の駅を新設

 

1970年から1999年までの人口増減分布

かつては典型的なドーナツ化

富山市地域別人口をもとに近年の増減を調査

人口増のエリアは公共交通が便利な地域

高齢者より高齢者予備軍の移住が増えている

1970-1999年と2010-2013年を比較

長い目で眺めれば高齢者のまちなか居住は進行していると言える

 

富山のモビリティの素晴らしさ

カッコいい乗りたくなる。自慢していい

トータルデザイン。富山駅は上から見ても美しい

ユニバーサルデザイン

LRTと自転車など乗り換えのしやすさ

交通改革だけでなく商業施設・集合住宅も同時に整備

これもトータルデザイン

欧州の先進事例と同じ内容を実施している

 

福井=もうひとつの北陸交通改革

選択と集中の鉄道整備。結節点から手を入れた

廃線せずリニューアルし低床電車の運行を開始

LRTを福井駅前に乗り入れアクセス改善

福井駅も富山駅同様円形ターミナル

福井鉄道とえちぜん鉄道の結節点も整備し相互乗り入れ開始

パーク&ライド駐車場を整備しマイカーとの連携を促す

 

宇都宮LRT=日本初の「ゼロからLRT

東西の交通軸としてLRTを計画。2022年開業予定

計画は富山市よりも早かったが政変もあり2018年着工

当初の通勤路線から市民路線に方針転換し理解求める

トランジットセンターを整備してバスとの連携を強化

沿線住民以外にもトランジットセンターによりメリットをアピール

 

明日のモビリティデザイン

自動運転時代を目前に

スイスの小都市シオンを走る完全自動運転の電気バス

輪島の市内移動用電動カートも一部自動運転走行中

人や自動車が少ない地方のほうが導入しやすい

地方から交通を改革していくきっかけになり得る

 

2種類の自動運転

自動車会社=ハイウェイ型・所有型をめざす

IT企業(無人運転)=シティ型・共有型をめざす

 

自動運転ですべて解決、ではない

自転車は1人、軽自動車は4人、自動運転車は12人、ポートラムは80人乗り

自動運転車で公共交通を置き換えると大渋滞発生の懸念

鉄道やバスなどの大量輸送可能な公共交通を軸とすることが重要

 

ウィーン(オーストリア)のカーシェアリング

独ダイムラーの超小型車スマートをシェア。世界20都市以上に展開

車両台数を減らし都市空間を再配分。環境対策にもなる

 

歩行者重視は不変かつ普遍

欧州では生活道路はゾーン30(30km制限)が一般的

横断歩道手前にハンプ(盛り上がり)設置し減速促す

住民専有区画は入り口に自動で伸縮するボラードを活用

 

トランジットモールでにぎわいを

歩行者と公共交通だけの道。歩く人が増え、にぎわいが生まれる

日本ではバスは認められているがLRTはなぜか認可されず

 

運転手不足は貸客混載バスで解決

人と荷物を一緒に乗せて運ぶ手法は地方で広がりつつある

 

公共交通を税金で支える仕組みを

欧米では公共交通は半分程度税金や補助金で運営

新型車両やハイテクを導入できるのも財源があるから

JR北海道をはじめ日本でも税金で支える仕組みを早急に!

 

質疑応答でのコメントから

電気自動車は静かだが、歩行者が気づかない場合はどうするのか?

自動運転のバスは中央司令室で遠隔監視

車載センサーにより飛び出し時の停止、駐車車両の追い抜きは楽にできる

実証実験中ということもあり運賃は無料が多い

自動運転を実験中のSBドライブは単純計算では運賃1/3以下にできるという

廃止された路線を復活できるかもしれない

自動運転はクラクションを鳴らさない。まずは止まる

クラクションの音が違う、欧州では鐘の音で優しい

クラクションの音色もモビリティデザイン

日本のクラクションの音色は法律上1種類に決まっているのが残念

 

自動運転やシェアリングが発達すると駅前や街中の駐車場は不要になる

空いた空間は公園に転用するのが理想。転用のセンスが重要

 

欧州では都市部の駐車場は地下に整備することで景観に配慮

自動運転車両では立体駐車などスペース節約が可能になる

 

・公共交通が十分な場所に住んでいるが使っていない一人暮らしのお年寄りに

公共交通の利用を促進してもらうためには?

お年寄りの自動車事故が問題になっているのは先進国共通

欧州では自己責任の原則があり他人に迷惑をかけないかを自己判断する文化

欧州はひとつの街から次の街まで家がないことが多く人が歩く道は

まちなか限定

都市内は歩道中心、都市間は車道中心と分かれているので安全

パリは若い人にとって家賃が高くお年寄りと若者のシェアハウスという

取り組みあり

若者がお年寄りの移動をサポート

 

・トランジットモールの街は日常的に賑わっているのか?

欧州では日曜日に休みの店が多いため平日に買物

商店は表通りに集中していることもあり賑わいが集中

駅中心・教会中心にまちがコンパクトにまとまっていることが多い

米国では郊外化が進んだ都市が多くまちなかは怖くて歩けない

公共交通は低所得者が利用するというイメージ

代表格はデトロイトだったが2017LRTが開業しまちなかが

変わりはじめている

やはりドーナツ化の歴史があった欧州の事例を参考に公共交通を軸に

再生図っている

 

・人口の少ないところ、過疎まではいかない地域での事例について

輪島の規模ではLRTは無理、電動カートの自動運転が適当

金沢から特急バス、能登空港から乗り合いタクシーがある

鉄道は廃止されたが駅は残っており駅前広場が交通ターミナルになっている

輪島の商工会議所会頭が交通に明るいので電動カートが実現した

富山市にも、交通に明るい市長がいた

まちづくりの一環としての交通改革が富山市はできている

鉄道の時間に正確、大量輸送可能。環境に優しいという利点は生かしたい

すべての人が等しく便利に快適に移動できるまちづくりが理想

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