レポート

まちづくりセミナー2017

第三回まちづくりセミナー講演録 講師:千葉 昭人氏

2017/04/02 

なぜ、あのテレビ番組は魅力的なのか。観光動画における富山の新戦略。 

 

 千葉と申します。テレビマンユニオンという会社でコンテンツ制作のプロデューサーをやっています。普段は、番組の制作や映画、1番近いところだと「二重生活」「葛城事件」というのを作りました。

略歴は、大学を卒業してから少しモラトリアムというか、余計に2年間マスコミ論を学んでいたのですが、全然勉強していても分からなくて、2000年にこの業界に飛び込みまして、ADからたたき上げでずっとやってきました。「世界ふしぎ発見!」という番組を作っていました。「世界ふしぎ発見!」には約5年関わりまして、ディレクターをしたり、ADをしたり、偉そうにいろいろな国に会社のお金で行かせていただきました。皆さんがあまり行かれないところとしては、古代エジプトよりも古い遺跡があるマルタ島。アイルランドにも行かせていただいたりして、今に至っております。ドキュメンタリードラマなどアマゾンで売っていますので、買っていただけると幸いです。

 それら以外にこんなイベントをやっていました。渋谷の109Y字の道路を全部せき止めて、パラリンピックの選手に実際に街頭で本物の技を見せてもらうというもので、走り幅跳びを飛んでいるのはメダリストの山本選手です。もし、こういうことがありましたら、ご相談に乗らせていただこうと思いますので。これも宣伝です。

 富山に関わらせていただいた最大の理由が、メディア芸術祭という文化庁がやっているメディアアート、僕もまだ理解できていませんが、いろいろな新しいテクノロジーを使ってアートを生み出そうというものですが、そのイベントをやらせていただいた時に富山の皆さんに大変お世話になりました。グランドプラザのモニターに映像を映しながら、メディアアートの新作といわれるものを一堂に会するというイベントをやらせていただきました。虚構新聞さん、シャープのプの字を売りましたで盛り上がったので、皆さんご存知かと思いますが、その虚構新聞さんもいらっしゃって。それ以外にもいろいろな方たちが集まって、いろいろな展示をなさいました。グランドプラザにすごく活気があったことを覚えています。それが、2015年の体育の日でした。

 今日もグランドプラザを少し見てきましたが、非常に設備も整っていますし、スタッフの段取りが良くて、非常に立地もいいので、ぜひもっと活用していったらいいんじゃないかなと思っています。その時オイコノミアという番組をやっていて、公開収録をグランドプラザでできたら面白いなというのも何となく考えていましたが、又吉さんが受賞して忙しくなって全然できなくなってしまいました。

 なかでも、このおじさんです。仕込みiPhoneという、手からiPhoneが出てくるという、それがメディアアートだということで賞をいただいたのですが、富山でダンスのレッスンを受けていた方たちにご協力をいただいて、須藤元気さんがやっていたワールドオーダーさんがメディアアートの賞を受賞されていたので、曲に合わせてダンスとコラボするというのをやりました。これが、非常にいろいろな方にご迷惑をお掛けしまして。ご出演のご快諾をいただけたのは確か本番の5日前。今までいろいろなことをしてきましたが、ここまで決まらなかったことはないというぐらい一緒に踊ってくれる方がいらっしゃらず、まちづくり富山の大久保さんのご尽力で、カターレ富山の応援団をされているところでダンスを教えている加藤先生の教え子の方たちが快くご協力してくれて、本番の1日前に1日合わせただけでここまでのことをやってくれました。本当に頭が上がりません。そのつながりで推薦人の長沖くんとも知り合いまして、今日ここに来ることになりました。

 

 テーマは、これですね。「なぜ、あの番組は魅力的なのか。観光動画における富山の新戦略」。これも決めたのは彼なので、新戦略というのも僕が話すことじゃないだろうと、ちょっとおこがましいのですが、皆さんのお役に立てないと意味がないと思っていますので、ここの場で僕は僕なりにお話をして、やり方や考え方はお伝えしようと思いますが、皆さんも富山のPRをするとしたらどんなふうになるだろうと、そんなことを考えてもらいたいなと思っております。質問にはお答えして、皆さんと一緒にやっていく感じにしたいなと思っております。よろしくお願いいたします。

 

 大きく3つに分けてみました。

  1. 魅力的な番組ってなにか。

  2. 富山らしさってなにか。

  3. 観光動画を見てみよう。

     

     魅力的な番組というのは、会社や学校などいろいろなプレゼンにも通ずるエッセンスでもあると思いますが、僕らがプロとして日夜どんなことを考えて番組を作っているのか、ということを少し紐解いてみようと思っています。ここに、例えば、ミュージッククリップやCMを撮っている人が来たら、僕が話すことと全然違うことを言うと思います。でも、ずっとテレビをやってきた中で思っていることというのはありますので、根幹の考え方についてお話をしようと思っています。後半の2つに関して、皆さんも思うところがあったらどんどん言ってください。まずは、富山らしさって何だろうかということを考えてもらえたら。1つ目の話の後に考えると、分かることが出てくると思うので。次に、観光動画を見てみよう。これは実際に富山や他の県の動画が上がっているのをYouTubeで流しつつ、あくまでも僕の私見を述べようと思っています。

     

     

    魅力的な番組って何か

     まず1つ目、魅力的な番組って何か。世界の果てまでイッテQが好きです」「DASHが最高です」「林先生の初耳が大好き」という意見をもらいました。好きということは、いいコンテンツということですね。いいコンテンツだから長く続いているし、みんなが見ているしということで、全然それはいいんです。で、どんな番組が見たい番組なのか、魅力的な番組なのかというのを考えていこうかなと思っていますが、その前に現状のテレビの背景というか、それを理解するために、ちょっと眠くなる話を喋ります。

     

    コンテンツ

     僕らは放送局の人間ではなく、制作会社の人間です。ので、これから番組のことをコンテンツと呼ばせてください。『コンテンツ』、映画、テレビ番組というのはすぐ浮かぶと思いますが、それ以外にSNSの発達により、だいぶん多様化してきています。富山の祭りやキレイな雪景色を写真に撮り、フェイスブックにあげました。そしたらそれも映像コンテンツなんですよね。動いている動いていないは別として。というわけで、今は山ほどコンテンツが上がっています。特にYouTubeは、出来のいい悪いは別にして、数だけでいったらものすごい数のコンテンツがあります。コンテンツは今、誰でも作れるし、いっぱい数が出てきたということをご理解いただければいいかなというのが、まず1点です。コンテンツが、多様化しています。

     

    メディア

     次にメディア。本、書籍、新聞、ラジオ、テレビ、コンテンツを見るための媒体ですね。テレビ以外にも数が増えてきました。今は、スマホ、タブレット、パソコン、いろいろあり、これも増えてきています。ついでに言うと、チャンネル、僕らはプラットホームと呼んでいますが、テレビ局、ラジオ局、出版社にあたるものも、ものすごく数が増えています。テレビ局もデジタル化したので、地上波、BSCS、これも多チャンネル化。ニコニコ動画、YouTube、フェイスブックも最近生配信できるようになりましたし、ネットフリックス、アマゾンプライム等々、これだけいろいろなところからいろいろなものを流してくれる状況になっている。さっきの多様化に全部つながっていますが、そういう状況に今あるということはご理解いただけますかね。これは後で僕らの業界が苦しんでいることの言い訳にもなりますが。

     

    ドガピポ

     また宣伝です。今、うちの会社の有志数人で、自主制作で小さい活動を始めていますが、動画ピーポー、略して「ドガピポ」と検索すると出てきます。そこでやろうとしているのは、これだけ数多のプラットホームなどが出てきている中で、僕らの会社は、社名がテレビマンユニオンというだけあって、テレビ主体でやってきましたが、本当にテレビと向き合っているだけでいいのかなというのを考え始めまして、遅まきながらこんな活動をし始めました。

     ここで主に取り上げているのは、テレビではできないようなコンテンツ。例えば、三大宗教。キリスト教、イスラム教、仏教の宗教者の方たちが出てきて、日頃のお悩みに答えるという、ちょっとくだらないコンテンツをやっています。これが、なぜテレビでできないかというと、今まさにイスラム教に対してすごく風当たりが悪くなっている。その状況もちょっとおかしいなと思うところもあるので、イスラム教ってどんなものなのだろうと。特にカルト、オウム真理教の一件があったりして、だいぶん宗教に対して、皆さんの壁が高くなっているところもあるので、その宗教はどんなものなのだろうというところをもう少し噛み砕いて皆さんに教えてあげられたらいいなと思ってやり始めたので、まだ今三大宗教の相談所みたいなものはコンテンツとしては7本ぐらいしか上がっていませんが、お暇な時にでもぜひ。もし、グランドプラザのモニターに流すものがないときには、言っていただければ、格安で提供させていただきます。

     営業はその辺にしまして、とにかくメディアが増えている。プラットホームも増えている。コンテンツも質の善し悪しは別にして、ものすごく数が増えている。これだけ覚えておいてください。

     

    テレビが弱ってきている

     最近だとプラットホームが台頭してきて、テレビのシェアが落ちてきているという現状が出てきています。そうじゃなかったのは、196080年代ですね。「ひょうきん族」や「8時だよ、全員集合」など、テレビを夢中になって見ていたのが、その年代。そこから後どうなってきたかについて、自分の思いの丈だけを話しているのではないということを実証します。これは視聴率を取り始めた頃からのデータですが、紅白歌合戦、1962年は80.4%。1963年、東京オリンピックの前年ですかね、その時は81.4%。視聴率の取り方の問題はありますが、この当時どれだけの人がテレビに夢中になっていたか、同じものを見ていたかということは、この数字で分かっていただけるのではないかと。ちなみに参考までに、これは去年の紅白歌合戦です。時間が早いうちは35.1%、第240.2%、半分以下ですね。というぐらいテレビがだいぶんシェアを落としてきているということが伝わったかなと思います。

     

    長沖さん これは、総務省が、ソーシャルメディアの利用率と活用率について出したものです。テレビ以外のコンテンツ、YouTubeやニコニコ動画、インスタグラムなどのサービスでメディアを楽しんでいる人が多いんだなということが分かります。以上です。

     

    千葉さん テレビは実際に弱っているぞというのがありますが、その一方で歴代の視聴率、これすべてビデオリサーチですが、2010年です。ワールドカップの日本対パラグアイ戦の生中継、TBSですね、57.3%。弱っていると言いつつ、約60%とっていることもある。これは関東のデータです。

     何が言いたいかというと、テレビは弱っていますが、コンテンツが強いと、みんなが数多あるメディアの中からテレビを選択して、テレビを観たから、この数字が出てくるんですね。これが仮にインターネットでしか生中継しないとなったら、恐らくみんなテレビではなく、インターネットを見ます。コンテンツが強いから、そっち側にいっちゃう。

     

    キュレーション

     目先を変えて、2016年。邦画が成績が良かったと言われています。売上げもだいぶん上がっています。ここ最近人気があったという噂も含めて実績が上がっている映画3本。この映画3本とも見ていないという方います? 結構いるんですね。3本とも見なかった理由はどんな理由ですか?

     

    会場 映画で2時間も時間をとられるのが嫌なんですよ。

     

    千葉さん なるほど。今日の時間は大丈夫ですか?

     

    会場 大丈夫です。

     

    千葉さん 安心しました。他にもいらっしゃいましたよね。

     

    会場 洋画しか観ないので。

     

    千葉さん なるほど。どんなに人気があったとしても「洋画しか観ない」「時間をとられるのが嫌」「お金を払ってまで見に行くもんか」「そのうちテレビでやるだろう」など、いろいろ理由があると思いますが、自分の中でわざわざ時間を割いてそこに行かないぞと選択しているわけですよね。

     これを最近で言うと、キュレーション。学芸員さんのことですよね。いろいろな中からいいと思うものを取捨選択して展示会に持って行くということをやる方です。このキュレーションというのが、ここのところ大事になっていまして、ものすごい量のコンテンツがあって自分では分からないときに、最近ではネットのランキングサイトを見るようです。映画だったら評判がありますよね。興行収入何億円、ロングラン、○○までやっています!というので煽ったりしていますが、選択権はどんどん皆さんにかかってきているんですよ。作り手側が良かれと思ってやっていたことじゃなくて、皆さんがどんどん取捨選択していく。だいぶんそういう時代にかかってきています。だから、テレビじゃなくてよくなって、何をどこで見るか、数多ある中からチョイスということになってきています。

     

    知ってもらう努力

     一方で、僕らコンテンツを作っている人間にしてみれば、良いコンテンツを作るのは当たり前で、知ってもらう努力、PRが大変なんです。最近、アンジャッシュの渡部さんがものすごく上手にやられていますが、ああいう番宣がテレビでものすごく増えていると思いません? 何にしても知ってもらう努力をすごくやらなきゃいけなくなっているというのが、今のご時世でございます。

     見てもらわないと意味がない。それは僕らもそうですし、皆さん側もこれだけあふれていると、見ないで通り過ぎたものが多々あると思うんですよね。それでも自分が尊敬している人や気になっている人が「あの映画で感動しました」と言ったら、ちょっと観てみようかなと思う。そういうので、ようやくひっかかってくる。このひっかかるというのが、この後話をする観光動画の時に大事になってきますが、見てもらわないと意味がないからPRして人にどんどん知らせるということをやっていった方がいいですよということで、これちょっと覚えておいてください。

     余談ですが、僕たちみたいにコンテンツを作っている人間にとっては、ひっくり返して言うと、良いコンテンツさえ何とかして作れれば、その後皆さんにちゃんと届けることがやりやすくなってきた時代になりました。今までだったら放送局がスポンサーからお金をもらって放送局に番組を納めるという形で、僕らはその放送局に納品する。すると、その放送局で、しか流れないということが普通なんですね。日本だけの特殊な形ですが、例えばアメリカだったら「24」というコンテンツは制作者が作って放送局に売り込んでいるんですね。あれは確か深夜に1番最初にやったのが、日テレかな。その後、CXに行って、TBSが買って流すということができるようになっているんですよ。今僕らが作っている「ふしぎ発見」は、まだ僕らの方に権利があるのですが、日本テレビの「先輩ROCK YOU」や「未来創造堂」は基本的に日本テレビが全部権利を持っているので、僕らが勝手に他所の放送局に売りに行くことはできない。そういう状況があります。現状、これだけプラットホームが増えてきて、いろいろ状況が変わってきているので、だいぶんそれがやりやすくなってはきています。が、僕ら自身が資本を持っているわけではないので、スポンサーなどを集めて作らなければいけないという、制作会社ゆえの愚痴もありますが、そのような状況になってきています。

     

    良いコンテンツの作り方

     これからどんどん良いコンテンツを作るということに入っていこうと思います。良いコンテンツとは、面白い番組。面白いというのはお笑いのワハハだけじゃなくて、勉強になる方の知的好奇心の面白いもひっくるめてですが、惹きつけられるもの、魅入ってしまうもの、そういうものが面白いものではないかと僕らは思っています。それに向けてどういうふうにアプローチしてモノを作っていくかという、いよいよ「作り方」というところのお話をしていこうと思いますが、大きくまとめると4つあります。

     1つ、ちゃんと伝わるか。放送局の方だとこの次に、視聴率がとれるかが入りますが、コンテンツとして考えるためにこれは1回忘れます。ここからが肝になってきます。何を伝えるか、誰に向けて、何をいうか。その次に来るのが、どう伝えるのか。もう1つは、どう周知するか。PRですね。ここまでが僕が思っている限りで、良いコンテンツを作るためのエッセンスとして出てくる要素になると思います。普段コンテンツを作っていて1番意識しているのは、何を伝えるか、どう伝えるか。当然だろという話ですが、これについて諸々ご説明しようかなと思います。

     

    何を伝えるか、どう伝えるか

     これ(ちゃんと伝わるか)は、コンテンツ制作をしている僕らの心得みたいなものですね。どんな些細なことでも伝わらないことがあると、視聴者の人はそれが気になって置いていかれちゃうんですよね。特に僕たちがやっているテレビは、最近録画をしてみる方が増えてきていますが、一過性のものなので、後でもう1回見ることができないし、なるべく皆さんにどう分からせるかということで、いろいろな手練手管を使っています。

     昔のテレビと比較すると分かりやすいのですが、画面上に喋っている人の文字情報がテロップで出ていたり、サイドマークと言って右上や左上に、今は何の話をしているよというのが出ていたり、そういうのを必ず出してちゃんと伝わるようにする。ドキュメンタリーでは、そういう情報はだいぶん減りますが、見てくれている人がちゃんと話についてこられるようフォローするために、ナレーションが入ったり、バックボーンの解説が入ったりということを必ずやります。そうすることで、僕らが面白いと思って作っていた面白さがちゃんと伝わります。これは心得みたいなものなので具体例を挙げるのはなかなか難しいのですが、よくテレビの業界人が寝ずに仕事をしていることの根幹の8割はこれです。例えば、34人で作ったVTRを見て、伝わりにくいところを修正していくので、それをやっていると気付けば朝になっていることがあります。ただ、補足しておくと、(ちゃんと伝わるため、もっとよくするためにやり続けるので際限がない。でも、)僕らには締切があり、締切までに間に合わさないと番組に穴が空いてしまうので、締切に向けて必死になってやるのですが、まず間違いなくどの制作会社でも(よりよくするために)締切ギリギリまでせめぎ合います。

     

    何を伝えるか

     2つ目、何を伝えるか。1番は企画した人が、1番面白いと思っていること。それは、どんなことでもいいんですよ。例えば、お昼に総曲輪スパゲッティを食べました。そのスパゲッティがすごくおいしかったということでもいいんです。

     自分が1番面白いと思っていることが何なのか突き詰める作業が難しい問題なのですが、1番面白いと思っていることを伝えることが1番大事になります。とあるスポンサーから「このお水の美味しさを番組にしなさい」と言われたとします。例えば、「富山の水」を「水道水だけどパッケージにして売れるぐらい美味しいものなんですよ」ということを言ってみたり。たとえ自分が嫌いであっても、これの1番の魅力は何だろうということを徹底的に向き合って、自分だから人にこういうふうに伝えられるというところまで追い込みます。これが多分、他のお仕事の人とはちょっと違う、僕らが僕らなりに必ず突き詰めることということで、プロたる所以というんですかね。1番面白いことが、この水だったら、この水の売りは何なのかを(自分なりに)とにかく見極めます。

     

    会場 ちゃんと伝わったかはどうやって確認するんですか?

     

     ちゃんと伝わるかは、頭からケツまでずっと意識しますが、最終的にはオンエアーして、どういうリアクションが返ってくるか。オンエアー後に僕らが想像しない受け取られ方をする場合もあります。放送局に電話がかかってきて怒られる場合もありますが、こちらが意図していることと違うことを受け取ったとしても、この番組はこういう目的でこういうふうに作られたものですよということが理解されるかどうか。その理解されるかどうかに関しては、僕たちも放送局の人も全部チェックしていますし、基本的にはこの企画のこの面白さが必ず伝わっているのかは全員でいろいろな角度から。そのために放送作家がいたり、いろいろなポジションの人が一緒に見るようにして番組を作るということは意識しています。

     

    誰に向けて何を伝えるか

     さっきの「何を伝えるか」に項目が2つあったと思いますが、それにいく前に、何を伝えるかというのを一般のビジネス書を見ると、5W1H。いつ、どこで、誰が、ある理由から、何をした。何らかの方法で。これは確かに重要ですし、否定するつもりはありませんが、「誰に」というのが入っていないんですよ。これは観光動画でも何でもそうですが、誰に向けてそのVTR を投げるかというのはすごく大事ですよね。例えば、今1番テレビを観ているのが50代の主婦といわれていますが、その方たちに向けて、子どもに今これが人気ですという番組を投げることが正しいかどうか。子どもが勉強で見るような教育テレビみたいな内容のものを投げるのが正しいのか。そうではなく、社会の中核を担っている皆さんのような世代の方たちに対して、お笑いのワハハといっているだけの番組を届けることが合っているのかどうか。ワールドビジネスサテライトや報道ステーションのようなニュース番組みたいなものを投げた方がいいのかとか、誰に向けて何をというのはすごく意識して作業を進めています。

     新聞のテレビ欄を見ると、大体こんなふうに並んでいると思います。朝方の出勤前はこれから出かける人に向けて天気予報、その日にあったニュース、交通情報が主に番組になっています。日中になると、主婦や子育て世代に向けて生活情報や再放送のドラマ。夕方は、もう少しニュースが出てきて、格安セールなどお得な情報が入ってくる番組があって、ゴールデンタイムは家族向け。プライムタイムは、ニュース討論番組をやっている時間帯。深夜は若い世代がちょっと背伸びをしてみているような番組や、夜更かししているであろう人たちが見るような番組。

     これは、テレビが弱っているという話にもつながるのですが、どこの放送局もこれをやっているんですよね。全部同じことを。60数年テレビに歴史がありますが、見たい番組の統計を取って全部集めていったら、大体こういうふうな結果になったからこうなっているのですが、皆さんが生理的に見たいと思うタイムスケジュールがこれでもあるし、テレビ局がこうしているからそうなっているのかもしれないし、どっちが卵か雛か分かりませんが、マーケティングから出てきているのがこれです。

     唯一、これにのっとっていないのが、NHKEテレ。ラインナップを見てみると、かなりとんがった番組をやっています。カラスがどうしても水を飲みたくて、石を落っことして水を飲む。アンデルセンの童話にあったような話を実際のカラスで実験してみたり、大人が見ても楽しめる番組が結構ありますので。なぜ、Eテレの宣伝をしているのか分かりませんが、そういうところもあるので、(TV業界を)見捨てないでくださいと言いたかっただけなんですけど。

     例えば、「世界ふしぎ発見!」。あの番組の「誰に何を」でいうと、家族で一緒に歴史と遊ぶというコンセプトで作られています。家族で一緒に見られるコンテンツの内容で、歴史と遊ぶというのはミステリーハンターというレポーターの人たちが、歴史の遺跡に行ったり、民族の人たちのところに行ったりするのが1番分かりやすいのですが、そこで伝統的な暮らしをしている人たちの生活を体験する。その映像を見ながら共感するということで作っています。

     

    どう伝えるか この「何を」は、自分が面白いと思うこと。富山だと、ホタルイカがどれだけ美味しいかとか、勝駒の美味しさとか、何でもいいんです。自分が何を面白いのかを徹底して突き詰めます。1番スタンスとして近いのは、「ちょっと聞いてよ。○○さんがさぁ」。これが基本的にすごく大事なスタンスで、バスガイドさんもそうじゃないですか。「右手をご覧ください」が、「ちょっと聞いてよ」。何かを見せたい、聞かせたい、伝えたいというときに大事なのは、このモチベーションです。もう1つ大事なのは、熱量というか、声のトーンひとつでも美味しそうに聞こえる。その感じをテレビの中でメリハリを付けて作るということが、僕らがプロとしてお金をもらっている一因ではあります。

     

    「共感」が一番大事 ここで大事なのは、共感です。ミステリーハンターなどのレポーターの人たちが、分かりやすい例かもしれません。あの子たちが山を登って遺跡や絶景を見て、「ウワー、キレイ」という番組の作り方をしますが、苦労して登った山の上からマチュピチュのペルーの遺跡を見た瞬間に、ウワーッとなる。その感じが皆さんに届いて共感すると、皆さんも行ってみたいと思う。基本的に面白い、悲しい、嬉しい、腹が立つ、この感情でしか伝わりません。メッセージで難しい球を投げたとしても、人の心が動くかどうか、心に刺さるかどうか、だから共感がすごく大事になりますが、作り手の僕がその時に感じた腹立たしさや面白さが素直に皆さんに伝わると、僕ら的にはいいコンテンツができたかなというところにつながっていく。

     

    共感させるために…。(人を惹きつける努力/落差が命・過不足ない情報の整理)

     人を惹きつける努力というのは、手を替え品を替え、どういう見せ方をしたら面白いのか。ミステリーハンターの例だと、カメラマンが後ろから歩いて行って、ミステリーハンターの「ウワー」という声が聞こえてから、カットがキレイな絵に切り替わると、何を見て嬉しくなったのかが分かるし、タメを作ることで何が見えるんだろうと思わせているから、余計に皆さんが共感しやすくなる。そういうテクニック的なことを努力して作業しています。

     どういうカット割りで絵を作るか、どういうナレーションで話すか。今言いましたが、苦労した日本人の物語がテレビでだいぶんネタになるようになりましたが、そういう番組で最後に涙を誘いたいとなった場合、努力して苦しんで頑張っているというお話が、必ず涙のシーンの前に相当な時間あります。何をやってもうまくいかずに苦しむ、苦しむ、苦しむ。そしたら、ふと、ある時、そこら辺に転がっている部品をくっつけてみたら、できた!というところで喜ぶ。これカタルシスといいますが、そうすることで喜びの感情が共感できる。ドラマでも、恋人が目の前で死んでしまって涙するみたいな物語があったとすると、その涙に至る前には必ずその感情の逆側、喜びや嬉しさがあふれるシーンがいっぱいあって、そこから突然交通事故などになることで、失った人の哀しみが増幅され、伝わりやすくなるというような話の上げ下げだったり、タメだったり、オチだったり、落差が命というのは大体それです。よくお笑いでいうオチも同じですが、モノを落とすためには高さがないとダメですね。高さは何かというと、笑わせたい反対側に向かってミスリードしていくんです。必ず違う方向に話をとぼけて持って行って、ストンと落としてあげる。落差があるので、みんなワハハとなるというのが、お笑いの構造です。YouTubeで芸人さんを見てもらえれば大体分かると思いますが、大体ボケてる方がとぼけて脱線していって、そこから突然ツッコミが入ってワハハとなる。振り幅を意識して作っている。オチがなくて面白くないというのは、落とすまでのミスリードの間に何となく説明をしてしまうということなのですが、ドラマの脚本でもドキュメンタリーの構成でも基本的に全部そこのエッセンスは、僕ら相当計算してやっています。

     

    過不足のない情報整理

     これができていない場合は独りよがりになってしまう。見ている番組で、「何の話だっけ」と分からなくなるときは、大体これです。取材したディレクターは事細かに話を聞いているから、話を分かっているんですよね。それで、話を作る時に説明をすっ飛ばしたり、説明が舌足らずになってしまう。でも、自分では理解できているつもりで、見せてきますが、こちら側からすると手前の情報が欠けているから、何の情報か全く分からない。疑問が出てくると、どんなに面白い話でもつまらなくなってしまう。それがないように、ちゃんと伝わるか確認するということを徹底してやっています。

     

    より伝わるものにするために…取捨選択の作業

     ここから先、どう伝えるかというときに、テロップなど文字情報、ナレーション、音楽、映像などがありますが、さっき言った「絶景です」という絵がきたときに、そこにあえてテロップで「すごくきれい!」とテロップを入れた方がいいかどうか。そんなのなくても見れば伝わると思えば入れないし、ロケが失敗してタメが足りないときはわざと文字をのっけてインパクトをつけようとしたり、そういうことを企んだりします。

     音楽は、映画「ジョーズ」の音楽を思い浮かべてもらうといいのですが、ああいうので緊迫感を高めたり、時計の音や心臓の音もよくありますね。そういうので緊迫感を高めた方がいいのか、やらないでそのまま見せた方がもっと伝わるのか、音がしない方がいいのか、なんてことは特にドキュメンタリーの現場なんかではシビアに突き詰めます。ドラマでよくサウンドトラックと言われる、要は作曲してドラマ向けの音楽を作っているんですが、サウンドトラックを作るのかどうか。そうじゃない時は音効さんがいて、世の中に出ている音楽を選んでつけて、それに適した形にします。いろいろな選択肢がある中からどれをどういうふうに選んでいくのかということを僕らは突き詰めてやっています。ディレクターが(英語だとダイレクターになりますが)、ディレクションをするというのは方向付けなんです。いろいろな選択肢からチョイスしていく。ドラマにするか、ドキュメンタリーにするか、アニメにするか、そういうのもチョイスして作っていく。最後のスタッフィングは、誰にカメラマンをやってもらったらいいか、誰に出てもらったら面白いか、ドローンを使って撮った方がいいのか、ハンディカムを持って密着取材した方が面白いのか、そういうようなことまで考えています。ここまでの組合せが全部キレイに整ってくると、ようやく誰もが見たいという可能性を秘めたコンテンツが生まれる。

     そのコンテンツが、どう皆さんのもとにちゃんと届くか。ここまでやって初めて魅力的で面白いコンテンツが出来上がってくるという流れになります。

     

    富山らしさってなんだろうか

     大枠の2つ目、富山らしさってなんだろうか。さっき言いました、誰に向けて何を伝えるか、どれをどう伝えるか、この3つを絶えず意識しながら作ると、ほぼいいコンテンツが生まれてくる。今の時代は誰もがコンテンツ制作者だと言いましたが、一例をここで説明していきます。ここのエッセンスを踏まえて考えておくと、友達に「富山の○○がね」とお話をするときに、きっと役に立ってくれるんじゃないかということで、ようやく話のミソに入っていきます。

     

    例えば、ホタルイカをウリにして

     富山らしさということで、ホタルイカを選ばせていただきました。非常に美味しい。これをヨーロッパからの観光客に向けてPRしてみるという前提で考えたいと思います。ヨーロッパにしたのは、なぜかというと、1番お金を落としてくれる率が高いから。台湾やアジア系の人が多いけど、欧米系の人があまり来ていないということを知ったので、ヨーロッパの人たちに向けてPRしてみる。

     そんなPR動画を考えてみようというときに、僕らがやるのはブレスト。ホタルイカにまつわるいろいろなものを、とにかくたくさん出していきます。

     

    ブレスト・ホタルイカ

    ネットでしか調べていませんが、ホタルイカにまつわるアクティビティとして、この3つ。食べる、見る、捕まえる。

    これがなぜ、そもそも富山の名物なのか。兵庫でもホタルイカは捕れるけど、富山のは光る。光る群遊海面は富山でしか見られない。だから、特別天然記念物だと。

    ホタルイカのディテールはどこで調べられるかといったら、滑川の道の駅にホタルイカミュージアムがあるらしい。ここは生態のことが知れて、発光ショーもやっている。発光ショーに関しては1日で発光しなくなるので、都度都度漁をして発光ショーのためにやっているらしい。これは全部ネットの情報なので、どこまで本当か確認しておりません。

    生態を調べてみると、富山では昔、マツイカと呼んでいた。生では食べていなかった。寄生虫がいるかもしれない場合がある。見つけたのは東大の博士。東大の博士の名前が学名に残っているそうです。もともと深海に棲んでいて、養殖できなくて身投げをする。身投げというのは浜に上がってくることですよね。普通のイカだったらやらないことをやる珍しい変な生き物だということも分かってくる。

    これ以外に食べるということでいうと、食べ方は生、ボイル、沖漬け、黒作り、酢味噌和え、天ぷら、しゃぶしゃぶらしいです。

     それ以外にこんな情報があります。イスラム教徒は、実は食べられないんじゃないか。軟体動物は、彼ら宗教上の禁忌ということで、食べられない可能性があるそうです。品種によって食べられる、食べられないがあるらしいので、本当のところはイスラム教の団体に聞かなければ分かりませんが、どうも食べられないらしい。余談ですが、濡れた犬は、彼らは触れない。この理由は分かりませんが、ダメなんですって。乾いていると触っていいそうです。イスラム教徒の情報は、ハラールというらしい。最近、イスラム教の団体がここの台所はイスラム教徒向けの料理を作っていいよというハラール認証というものがありまして、そういう情報を入れ込むと、イスラム教徒の方たちが富山に来られたときに安心して食べられるから、とってもお得ですという情報です。

     まだ調べればいっぱい出てくると思いますが、説明の便宜上ということで、この辺にして。さっきの富山らしさ。富山じゃないと見られない、味わえない、体験できないということが大事になると、僕は観光動画に関しては思っていますが、見て「あぁ、面白かった」で終わるとあまり意味ないですよね。富山のことを知って、富山じゃないとできない体験だから、富山に行ってみよう、富山でホタルイカを食べてみようと思わせなきゃいけない。となると、このVTRの中に富山でしかできない体験やコトを詰めた方が、富山に来る可能性が高いですよね。富山だからできること、というのをすごく意識してほしいなと思っています。この情報を全部踏まえて、富山じゃないと見られない、味わえない、体験できないをポイントだとしてVTRを作るとしたら、どんなVTRにすると面白そうだなと思います?

     1番王道ストレートは、これだと思います。ヨーロッパから来るであろう旅行客に、実際にホタルイカ漁を体験してもらって、発光ショーなり発光する様子を生で見てもらう。それは全部富山でしかできないこと。それをやりつつ、その時にその人がするリアクションを見せつつ、ホタルイカを見た時の感想、食べた感想をその旅人が語る。1番シンプルな形は、それじゃないかなと思います。すると、その人の体験がすごく素敵に見えさえすれば、共感して行ってみようと思ってもらえる要素ができますよね。この体験型の旅人のドキュメントのいいところは、共感しやすいんですよ。誰かが何かをやっているということは、その人に乗っかって見えやすいんですね。見やすい、共感しやすいという利点がひとつ。富山じゃないとできないことが羅列しているというのは、さっき申し上げたとおりです。

     その次に考えるのは、旅人は誰がいいだろう。同じヨーロッパ系の人が理想的。見た人と同じようなバックグラウンドを持っている人の方が、見た人は共感しやすい。言葉に関しては、日本語が分かってくれると、富山の人たちと日本語で会話することができるので、本当はそれが望ましい。無理だったとしたら、世界各国に幅が広いと思われる英語を話せないと困るなと。両方あると最高です。皆さんがご存知の方たちの中で考えると、例えばハーフのタレントさん。滝川クリステルさんは、フランス系ですね。トリンドル玲奈さんはスイスだったかな。リリコさんは北欧。春香クリスティーンさん、そんな方たちが旅人としてやってくれると、すごく見やすくなる。ただ、僕の個人的な意見ですが、そういった人たちは日本で有名人なだけであって、海外の人にとっては無名です。利点として日本のことを知っているがゆえにサービスしてくれるところ、僕らに海外の人たちが気になるところなどアドバイスをくれる可能性がありますが、いっそのこと日本に留学しに来ている留学生とか、素人の人を旅人にして日本語の勉強をしていて、日本のことを知りたいというモチベーションを持っている人に旅をさせた方が、僕らが気付かない発見ができるかもしれない。富山の大学にどれほど留学生がいらっしゃるのか存じ上げませんが、そういった留学生に声をかけるのもひとつの手なんじゃないかなと思います。あとは、あごあしまくらといって、顎は食べ物、足は交通手段、枕は宿泊。この情報を盛り込んであげる。そうすると、一人の人が富山に着いて、富山でどう旅をして、どこでご飯を食べて、どういうふうに移動して、どこで寝ればいいか、1つのモデルプランが出来上がるんですよ。すると、追体験しやすくなるという利点があります。

     さっきも言いましたが、映像の手法に関しては、このスタイルの中に盛り込むこともできます。ホタルイカの漁のところは、ミュージッククリップみたいに音楽を流して、かっこいい映像をパンパンと入れるような編集をしてあげるだけで漁の見え方が変わってくるし、ドキュメンタリーとして追っかけて船で酔って大変ということを入れた方が面白くなるかもしれない。それはメリハリだと思いますが、どう見せるかということについては、こういうパッケージにして体験させてあげると、すごく共感しやすくなる気がするんですよ。ちゃんと伝わっているかなというときに実際に僕らがやるのは、ヨーロッパ系の外国人になったつもりで見る。これを見たら、富山に来たくなりますかね? 

     

    会場 富山の人が多いのもあって。

     

    千葉さん ピンと来ない?

     

    会場 私、石川県民なので、初めてホタルイカを見た時はビックリしました。外の人からすると、見られないものが見られるというのはいいのかなって。県外の人いらっしゃいますかね。

     

    千葉さん そういう意見に賛成ですか?

     

    会場 ホタルイカを単純に食べるだけだと面白味は感じにくいのですが、ホタルイカを捕っている人の想いとか、普段感じていることとか、そういう話が聞けると面白いのかなと感じます。

     

    千葉さん ちゃんとそういうディテールを言わなきゃいけなかったのですが、1番最初に挙げたアクティビティとして考えられるというので、食べるなど3つぐらい書きましたが、あれは取材できる、動いた様子が撮れる要素として、大体僕らは考えるんですよ。どこへ行って何をすると何が撮れるということを列挙していくんですね。今、要素だけ並べたので分かりづらかったと思いますが、並べたようにホタルイカ漁体験、生態を知る発光ショーの体験となっていますが、ホタルイカ漁体験をドキュメントとして漁師さんとのふれあいももちろん、盛り込めると思います。その塩梅はディレクターさんによると思います。富山の人だからピンと来ないというのが言葉として出てきましたが、富山の良さについて僕らが見極める一端でもあると思いますが、富山の良さについて富山の皆さんが必死になって見いださないと、富山の良さが見えてこない気がするんですね。これは最後に話そうと思っていたのですが()

    富山の人が、富山のために、富山のことをPRする方が、僕が偉そうに横からプレゼンするよりも絶対に熱いんですよ、熱量が。稚拙で絵の撮り方が下手かもしれないし、もっと良くできる要素はいっぱいあるかもしれないけど、見たら熱だけは伝わってくる。富山に来てくださいという思いだけは伝わってくる。そういう強さは僕らは多分、生めません。仕事であるがゆえに。皆さんが富山に来るヨーロッパ系の外人に向かって「おいしいでしょ、これ」と勧める熱量がどこまであるかに懸かってくると思うので。これに関して僕らはお手伝いはできますが、主体にはなりきれない。番組としてやるとなったら、商売もかかっていますし、必死になりますが、1番の根幹はホタルイカへの愛があふれる人、漁師をチョイスしたい。そのチョイスは、僕が何人かの漁師さんに会って選ぶのもひとつの手ですが、皆さんの中で誰かを紹介してくれる方が絶対に外れがないと思います。テレビ的に美味しいかどうかは、こっちが演出で付ければいいだけの話であって、本当はそのモノに対して熱を持っているかどうかだと思います。それがあると間違いなく、見た人が「この人に会いたい」と思うかもしれないし、「その人が捕ったホタルイカを食べたい」と思うかもしれないし、全部見る側の気持ちにどう刺さるかしかないので、そこに関わってくるようなエッセンスになってくると思います。

     

    共感させる

     1番に言いたかったエッセンスとしては、共感させるということ。見た人が、「面白かった」で終わらないで、あそこに行ってみたいと思わせるために、写真にして「すごいでしょ」とやってしまったら、「すごいね」にしかならないので、行ってみたいという気持ちにさせる工夫や仕組み、そこへの導き方をどういうふうに教えてあげるか、そこが観光動画に関わってくる1番大きな要素なんじゃないかなと思っております。

     余談ですが、さっきのイスラム教徒の話は、マレーシアの放送局で流す日本を紹介する番組を総務省の下部団体「BEAJ」が旗振り役となり、音事協という演歌歌手の人などが集まっている団体がその仕事をとって、うちの会社と一緒に作りました。その時にやったのが、日本でデビューしたマレーシア人のアイズディーンくんという男の子が、津軽海峡冬景色がどうして生まれたかを、実際の津軽海峡冬景色を見ながら旅をし、それを歌っている歌手の人ともお話をする。彼自身も歌手なので、歌に込める思いみたいなものを現場で体験して、その当時、青函連絡船を運転していた船長さんと会ってお話をすることで、日本にはそういう文化があったこと、そういう歴史があったことが、マレーシアの人に想像してもらえたら面白いなと思って作ったんですよ。意外にそれが好評で、全部で8本作りましたが、マレーシアにある30何チャンネルのうち、公共放送の1チャンネル以外の民放ではずっと2位で駆け抜けて、ぜひもう1回見たいという声も聞きました。

    その時に言われたのは、日本のことを知りたくても、日本にロケに行くのはお金がかかるからやりづらい。日本の情報を知りたくても、何の情報もくれない。例えば、新譜を出しましたと言ったら、韓国のアーティストは無償できてくれて、マレーシア人の前で歌ってくれるぞと。日本人のアーティストは誰も来ないじゃないか。それで日本人のアーティストのCDを買えと言われても買えるわけがないでしょ、聴いたこともないのに、といわれたんですよ。共感できない訳です。

     もう1つ、「うさぎ追いし かの山 こぶな釣りし かの川」の作詞者の方が長野にいらっしゃって、その童謡をアイズディーンくんに聴かせたら非常に気に入っていたので、長野に連れて行って、岡本知高さんというオペラ歌手の方にその場で歌ってもらったら、感激しちゃって。そもそも、自然と共に生きてきたという日本の文化は、アジアの中では当たり前で、マレーシアにもあることなんですよね。それで共感できたりする。

     何が言いたいかというと、日本人がどういう暮らしをしているかということを誰も発信していない。届けていないんですよ、向こうに。それはすごくもったいないことだなと思って。

    観光動画の話にも通じるところでいうと、富山の人は富山の良さを自分たちで見いだして、「ほら、ここだよ」と言うところまで向き合うというか、徹底して自分たちを追い込むということを、どこかしらで1回やると、もっともっと良くなっていく気がしているんですね。今が足りないというような言い方になってしまって申し訳ないのですが。

    コンパクトシティで街を歩いていていろいろなところにいろいろなものがすぐあるし、歩けば美味しいものにも出会えるし、勝駒とか富山でないと飲めないお酒があったりするし、すごくいいエッセンスが揃っている気がしているんですよ。ただ、商店街に行ったら人は少ないと思うし、そもそも富山にそういうものがあるよということをどれほど外の人が知っているかといったら、そうではないのかもしれないなと。

    僕はたまたまメディア芸術祭に顔を突っ込んだので、知るチャンスを得ましたが、そうじゃないと富山のことはあまり知らないと思うんです。さっき昼ご飯を食べながら、長沖くんと話していましたが、例えば、観光動画を作りました、ネットにあげました。それでOKなんでしょうか。そこに富山のことがあるよ、それを見れば富山のことが分かるよとみんなで言わなければいけないと思うし、海外向けのものを作ったとしたら、海外の人が目にするような成田空港のトランジットのロビーに富山の動画が流れているということになった方が、「これは何だ、富山に行ってみるか」と調べてくれる人が出てくるかもしれない。

    さっきのPRに通じますが、誰に向けて何を言うか、どういうふうにこっちを向いてもらうか、そこを見直すと、もっと活気が変わってくるのかなということを感じた次第でございます。長くなったので終わろうと思います。言いたい放題言いました、すみません。

     

    長沖さん 今、千葉さんから聞いた話をもとに、実際に富山県と富山市と県外の自治体が作っているPR動画をYouTubeで出していきたいと思います。皆さんで見た後に、会場の方から感想をいただきます。最初は、富山県が作りました観光動画です。

     

    ~動画を見ながら、様々な意見などを言い合う時間となりました。~

     

    千葉さん 質問などありましたら、そこら辺フラフラしていますので、声をかけてください。目的には、認知度アップのためなど、いろいろな種類があると思うんです。ここに来てほしいというのであれば、さっき言った共感して行ってみたい、やってみたいと思わせるところまでやってあげる方がいいと思うし、片手オチになってしまったら意味がない。何よりもそういう動画があるということを、みんなが使っていくかということをやらないと、せっかくいろいろなものがあっても宝の持ち腐れです。さっきも言いましたが、ネットには山ほど動画がのっかっているので、埋もれちゃったら全く意味がないと思うので、それをどう活用できるかが、皆さんがこれから先に作っていくときに大事になってくると思います。特にグランドプラザのモニターも、日本橋とやまももっと活用できると思います。絶えず頑張ってやっていくことに意味があると思いますので、長々と偉そうなことを言いましたが、もしそういう動画を作ってくれというオーダーがあったら、ぜひ。 

     例えば、予算はあるに越したことはありませんが、なければないで富山県の人たちを見渡せば、映像や写真を撮るのが好きという人が絶対いるわけじゃないですか。そういう人たちの素材を集めて、うまくまとめろという宿題をクリエーターに出すのも作り方だと思いますし、持てるものを活用してうまくやっていくということも手だと思います。何にしてもやってみないことには結果がついてこないので、失敗してもいいから、お金かけなくてもいいから、やれることをやっていくことで、また何か違うことがあるんじゃないかと思います。偉そうにすみませんでした。ありがとうございました。


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