レポート

まちづくりセミナー2014

まちづくりセミナー2014 第三回講演録 講師 四元正弘氏

2015/04/10 

■マーケティング発想で、まちづくりを考える

 

 四元でございます。私、2014年の春まで電通におりまして、ずっとマーケティング分野のことをやっていました。消費者調査から始まって消費者の分析、あとはクライアントの商品開発、コミュニケーションの戦略を考えることもやってきました。年末に今年のヒット商品を振り返る的なレポートを電通から出すのですが、それも僕が10年ぐらい担当していました。

 

 今日は「マーケティング発想でまちづくりを考える」というテーマでお話をさせていただきますが、基本的にマーケティングというのはお客さんあっての世界ですので、この場合のまちづくりというのは観光などを前提として地域を考えるということになります。住民の方にとってのまちづくりではないということを最初にお断りさせていただきます。

 

 

マーケティングとは何で、何のためにするのでしょう。

 

 マーケティングの本には数字が多く出てきますが、僕の話には基本的に数字は出てきません。例えば、Aグループ、Bグループ、たかだか5%しか違わないのに、Aグループはこうだと言い切ってしまうことをマーケティングではよくやりますが、僕はそんなのナンセンスだと思っています。それに、マーケティングというものを細かく見ていくと、どんどん矮小化してしまうところがあるので、僕はあえて数字を使わずにマーケティングを語っていきたいなと思っています。

 

 

マーケティングの定義①

 

 マーケティングをひと言でいうのはなかなか難しいので、そのエッセンスをマーケティングの巨匠の定義で幾つかおさらいをしていきたいと思います。

 マーケティングという言葉が出来たのは、比較的新しいんですね。1960年にアメリカ・マーケティング協会が立ち上がった時のマーケティングの定義は、「生産者から消費者への商品の流れを図るとともに、付随するビジネス活動を行うこと」。つまり、生産者から消費者まで幅広く商品の流れを考えることがマーケティングだよという感じですね。そのマーケティング協会の重鎮だったハンセン先生が自ら定義したのが、「消費者のニーズをビジネスに組み入れるプロセスである」ということです。ニーズというのは非常に大切だよということを言っているわけです。

 広いですよね。特に生産者から消費者への流れというと、ものすごく広くなってしまう。こうやって色々なところにマーケティングらしさが出てくるというふうにご理解いただければと思います。

 

 

■マーケティングの定義②

 

 マーケティングの世界にはコトラーという大先生がいらっしゃいます。コトラー先生のマーケティングの定義は「市場全体を幾つかの特徴的グループに分けるように俯瞰をする」。例えば、観光客や観光ビジネスを考えても、シニアの夫婦もいれば、家族連れもいれば、団体旅行や修学旅行もいるというふうに色々なふうに切ってみることができます。今みたいにターゲットで切ることもあれば、山なのか、海なのか、体験型なのか、色々なグループの切り口で分けるように俯瞰をしてみるということ。彼はそのことをセグメンテーションといっています。セグメントに分けるという意味ですね。

 そういうふうに俯瞰をしたら、次に「自分はどこを狙うか決める」と言っています。それがターゲティングですね。どこを狙うかを決めても、そこには往々にしてライバルがいます。なので、競合との差別化を図るために、自社製品の強みを検討する。彼は差別化のことを、独自のポジションを作っていかなければいけないという意味で、「ポジショニング」という言葉を使っています。

 全体を俯瞰、どこを狙うか、そして差別化、この3つの頭文字を取って「STP」と呼んでいますね。「STP理論」とよく言われるのはこのことです。

 

 

マーケティングの定義③

 

 「4P」、これもよくマーケティングの定義としてよく使われるものですね。製品Product、価格Price、流通Place、プロモーションPromotion、この4つのPを効果的に組み合わせることだと言っています。

 この4Pと先ほどのコトラー先生のSTP、全部で7項目。この7項目をきれいに一つひとつ埋めていけば、マーケティング戦略の一丁前のものができます。ですから、人に説明する時には、STPと4Pをすべてきれいに書けば、それらしく見えます。ただ、それらしく見えるということと、それが最良の策かどうかというのは全然違うことですよね。つまり、1つの答えだけがあるわけではない。答えは幾つもあります。その中で何が1番いい答えなのか考えていくことが非常に重要ですし、STP4Pで埋めただけでは「仏造って魂入れず」みたいなところがあって、少し物足りないなと僕は思っていますね。

 

マーケティングの定義④

 

では、そもそもマーケティングとは何なのか。マーケティングの本質とは何なのか。僕は、これをドラッカーさんの言葉で皆さんにお伝えしたいなと思います。

 ドラッカーさんというのは、数年前になりますが、「もしドラ」と言って、「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーを読んだら」ですごく有名になった人です。ドラッカーさんは、経営学の神様という位置づけで、ドラッカーさんを大好きな経営者がすごく多いんですよ。例えば、アメリカだとGEのウエルチ元会長、国内だとユニクロの柳井社長。柳井さんは新入社員に、入社までに読んでこいと言ってドラッカーの本を配るらしいんですよね。それぐらい経営者に好かれるドラッカーさんが、こんなことを言っています。 

 「企業が成長していくためには2つの要素が必要だ。逆に言うと、その2つの要素をしっかりやっていれば、企業はしっかり成長するものだ」と。そのうちの1つは、イノベーションです。常に新しい商品を出していく。画期的な商品を出していく。新しいお客さんを見つけていく。このイノベーションと並んでもう1つが、マーケティングです。ですから、経営学の神様はマーケティングを意外なほど重視している人なのですが、彼のマーケティングの定義がちょっと不思議。「売るための行為が不要になるように、自然と売れるようにすること」と言っています。売るための行為には色々ありますよね。例えば、一番代表的なのは値下げです。また、営業マンのケツを叩く。営業マンを増やす。広告をバンバン流す。これも売るための行為です。でも、「売るための行為が不要になるように、自然と売れるようにすること」と言うんですね。恐らく、自然と売れるというのは、消費者が思わず買いたくなるように消費者の心を仕向けておけということだと思いますね。

 

 

クイズ

 

 「そんなことができれば世話ないよと」思う方がいるかもしれませんが、そこでクイズです。多くの消費者が思わず買いたくなった瞬間というのが数十年前に実際に起きました。事実で振り返ってみたいと思います。プレミアムビールを題材としたクイズですね。

 プレミアムビールというジャンルは、1971年にヱビスビールが復活してから、ずっとあります。「麦芽100%、いい水を使って厳選されたホップを使って、職人が丁寧に作りました。高品質です。でもちょっとだけ値段も高いです」が特徴ですが、長らく売れるビールではありませんでした。それが、2005年の1223日から流れた広告のひと言をきっかけに、2006年以降大ブレイク。特定のブランドの広告なのですが、これがどんどん売れ始め、プレミアムビール全体の市場も伸びていったわけですよね。

 ブレイクする前のプレミアムビールの訴求ポイントは、「最高の品質のビールです」と、高品質を謳っていました。ところが2005年の年末に流れた広告は違います。「最高の○○」、漢字二文字。なんだと思いますか?

 

会場 贅沢。

 

いいですね。正解ではないですが、85点。

 

会場 時間?

 

いいですね。90点。

 

会場 日常。

 

う〜ん、75点ぐらいかな。

 

答えは、「週末」です。最高に贅沢な週末の時間ということですね。このたったひと言のキーワードで多くの消費者がプレミアムビールを思わず買いたくなったということだと思います。具体的に言うと、プレミアムモルツです。品質志向の人はモンドセレクション金賞受賞という広告で売れたと思っていますが、それは2004年、2005年の広告です。確かに少しは反応したのですが、大して売れなかった。それが最高の週末になってから劇的に売れ始めたんです。つまり、モンドセレクション受賞や高品質で売っていた頃は、「プレミアムビールは高いからいいよ」と思っていた人たちが、思わず買いたくなったということですよね。だから、すぐに反応が出てきたわけです。

 

 

「良い商品」と「売れる商品」は別物

 

 良い商品と売れる商品は、全くの別物だと思っています。消費者は品質や価格だけを買っているのではなく、その商品が演出する「楽しい時間」や「幸せな気持ち」も併せて買っています。今は物余りですし、どこで買っても、そこそこ良いものです。なので、現代では、後者の方、つまり「楽しい時間」や「幸せな気持ち」の方が買う理由として大きいのではないでしょうか。この買い手の心理を理解して、それに応えることがマーケティングの王道だと思っています。そこそこの品質のものができれば、いかに「楽しい時間」や「幸せな気持ち」も併せて買ってもらえるかを考えた方がいいですよね。

 例えば、「47クラブ」という地方新聞社が集まっているお取り寄せサイトがあります。地方のグルメをお取り寄せするサイトなのですが、そこで断トツに売れているスイーツが面白いんですよ。「多分、世界一濃いプリン」という売り文句ですね。群馬の卵焼き屋さんが作っているので、ともかく濃いです。なので、美味しいという人もいるけれど、もういいよという人もいるんですよね。だけど、売れるんです。例えば、食べログ的に点数を付ければ、あまり高い点数は付かないと思うけど、売れているのはキャッチコピーに惹かれて買う人が多いからなんですね。なかには、明らかに他のものとは違う濃さにビックリしてファンになって、何回も買うという人がいるのだろうと思います。ですから、良い商品と売れる商品は、そもそも違うんです。良いから売れるというのは、企業側の勝手なプライドの押しつけなのかなと思ったりもします。

 

 

マーケティングの定義⑤

 

 アメリカのオグルビー&メイザーというセンスの良い広告をいっぱい作っていた会社の本の有名な一説です。「ブランド・ロイヤリティこそ、マーケティングの究極のゴールである」。つまり、マーケティングとはブランドになることを目指して初めていい商品になるということですね。ブランドにならないと意味がないということです。僕は「ゴール」という言葉も意味深だと思っているんですよ。例えば、マラソンなどのレースには、必ずゴールがありますよね。市民ランナーだったら、いつかゴールを切ればいいけれど、プロのランナーは1位か2位に入らないと食っていけません。マーケティングも一緒です。プロとしてやっていくのなら、できればそのジャンルで1番か2番の早さでブランドにならなければいけない。3番目、4番目ではブランドになったとしても、強いブランドにはなれないと思います。

 さて、ブランドといえば、ルイヴィトンなど色々ありますが、ブランドというものをシンプルに定義した言葉をご紹介したいと思います。アメリカのアーカーさんは、「ブランドとは、生活者の心の中にできた識別のための印である」と言っています。これにはポイントが2つあります。1つは、生活者の中に出来なきゃだめだよということ。この場合の生活者を消費者、買い手、市場と言い換えてもいいです。企業側が勝手にブランドだと言っていても意味がありませんよということ。あともう1つ、識別。「他のものとは違う、特別だ」と思ってもらわなければいけませんよということですね。これを消費者の立場で言い換えると、こうなるのではないでしょうか。「消費者に、この商品は私にとって特別だ と感じてもらえる商品になること」。私のとって特別という感覚のことを、「自分ごと化」とよく言います。これは他人事の反対語としての造語でして、これを言い始めたのは多分博報堂さんだと思いますが、マーケティングの世界では幅広く使われている言葉です。

 今までマーケティングの定義を縷々してきましたが、1番肝心なのは、自分ごと化だと思っているんですよ。春に、北陸新幹線が来るでしょ。行き先を考えた時に、「富山は私にとって特別な地域だ」と思ってもらえれば、その消費者にとって富山は自分ごと化が進んだということですよね。比較して選ばれるのではなく、「ここは特別だ、比較の対象にもならない」と思ってもらうことがマーケティングにとっては非常に重要です。なぜかというと、比較されると、消費者は大体安い方、新しい方が好きなので、いつも流れてしまうんです。だから、比較の対象にはしないで、何とか自分ごとにしてもらう。これが、マーケティングで非常に重要なんですね。

 例えば、大手通販フェリシモさんの意外な大ヒット商品、500色の色鉛筆。普通はそんなに色々な色で絵を描かないし、書いたとしても500色をまんべんなく使う人っていませんよね。ですから、500色の実用的な意味は、かなり乏しいと思います。でも、売れているんですよ。では、買った人は、なぜ買ったのでしょう。買った人にとって、500色の色鉛筆はどんな意味があったのでしょう。僕はいつもそんなふうに考えるんですよね。単純に色鉛筆の色がほしかったというのではなく、500色というのが買った人にとって自分ごとの対象になったんでしょうね。自分ごとになった経緯は分かりませんし、人それぞれだとは思いますが、500色が何の象徴なのか、そこに私はどういう願いを込めるのか、1回考えてみるとマーケティングとしてのスキルがアップすると思います。

 

 

強者の戦略vs弱者の戦略

 

 「強者の戦略vs弱者の戦略」というものがあります。弱者には、弱者に適した戦い方があり、必ず負けるというものではありません。ただ、残念ながらそれ以外に弱者は勝てません。

 では、何が弱者か、何が強者かといったら、総体的な問題です。例えば、ある地域の一番店は、ある地域の中の強者です。でも、そのお店が他の地域で新しいお店をやると、最初は知名度がないから弱者になります。というふうに絶対的な弱者や強者というのはなくて、あくまで総体的なものです。

 北陸新幹線の開業で「金沢のついでに寄ってくれればいいな」という人が富山にはよくいますが、完全に弱者発想ですよね。現実はそうかもしれません。知名度も人気も金沢の方が高いと思います。そうやって強者が金沢、弱者が富山と考えてみた時に、じゃあ富山は弱者としてどうやって戦ったらいいのだろうかというお話をしてみたいと思います。

 戦闘シミュレーションモデルとして有名なランチェスターの法則というのがあります。簡単に言うと、勝つ目算というのは、兵員数の優位差×武器性能の優位差。ですから、量と質ということだけです。ここから言えることは、「同等の武器なら兵員の多い方が勝つ」、もしくは「兵員数に劣る場合は相手より強い武器が無ければ勝てない」という、実に身も蓋もない話です。誰にでも分かると話なのですが、ビジネス理論としてもよく活用されているんですね。

 ランチェスター理論での基本的な戦略としては、弱者の戦略は先行する、差別化する。それに対して強者の戦略は、後だしジャンケンみたいなものです。これは1970年代のソニーと松下を説明に出すと、非常に納得できると言われます。ソニーは弱者です。シェアも少ない。圧倒的に強者は松下ですね。そこで、ソニーはトランジスタを初めて出した。ウォークマンを初めて出した、トリニトロンも初めて出した。とにかく差別化して早く出す。それに対して、松下は一時期「真似下」といわれるぐらい、良いものをパクるという戦略でしたね。

 顧客戦略は、弱者の場合は、理想的顧客に絞り込まなきゃいけない。強者の場合は、広く浅く、多角的に対応していけばいい。で、色々な運用ですよね、例えば、リソースの運用だと、弱者は一点に集中しなければいけない。体力がありませんから、あちこちに出来ない。それに対して強者の場合は、俯瞰的に横展開ということですね。

 

 

■弱者のマーケティング戦略

 

 弱者の採るべきマーケティング戦略は、「差別化」「一点集中」「顧客の絞り込み」です。ライバルには無い自分だけの価値を見極めて、その価値を最も評価してくれる顧客像に絞り込んで、彼らに理解、共感してもらうことに集中するということですね。これが弱者がブランドになる、唯一の道です。これ以外をやったら、弱者は永久に勝てません。でも、これをすれば弱者が強者より早くブランドになることも可能だと思っています。

 逆に、弱者が絶対してはいけないマーケティング戦略。「ライバルも考えつくこと」、「誰でも考えつくこと」を自分もしてしまうこと。一点集中せず、戦略的に矛盾した活動をバラバラにしてしまうこと。これは、やるだけ無駄。色々なキャンペーンも、実はそうなんですよ。やったらそれなりに満足はしますが、それは単なる自己満足ですね。ブランド化なんて絶対無理です。例えば、スローガン一つ考えるにしろ、ポスターを作るにしろ、金沢が考えつくことをやった時点で負けは確定なんです。自分たちだけが出来ること、金沢には出来ないこと、これは何なのかということですよね。

 重要な第一歩は「自分だけの価値」というのを発見する、確認するということですよね。大半の観光地は「グルメ」です。日本は海に囲まれていますから、特に魚介系が多いですよね。あと、自然景観、人情を自慢します。でも、どこもこれを言っているということは、裏返せば、これらを打ち出すだけでは地域の差別化は不十分だということです。例えば、「富山は新鮮なお魚があります」というでしょ。皆さん、それは富山の自慢だと思っている。でも、僕は逆に聞きたいです。新鮮でないまずい魚を出す地域がどこにありますか。そういうふうに同じぐらいすごいところは世の中にいっぱいあるんですよ。ですから、「金沢はアピールできない、富山しかアピールできない食」にまで掘り下げなければダメだと思います。しかも、マーケティングというのは基本的に消費者に伝わらないとダメですから、シンプルでなきゃダメですよね。

 こういったマーケティングを考える時のお手本は、アップルの‘97年のブランド戦略”think different“ですね。これはその当時強大だったIBMやマイクロソフトに対して、スティーブ・ジョブズを追放したアップルはIBMを真似るようなあれもこれもの戦略をやり始めたんですよ。そしたら、ものの見事にアップルは倒産寸前になりました。当たり前です。弱者が強者の戦略をやろうとしたわけですから。それで潰れそうなところにスティーブ・ジョブズが戻ってきてやったブランド戦略が、”think different“。「IBMやマイクロソフトではないことをアップルは考えているんですよ、消費者の皆さんもIBMやマイクロソフトとは違う考え方をコンピュータにしてみてください」ということで、”think different“です。シンプルに差別化が一番難しいので、突破口が必要だと思いますが、その時の一つの参考として”think different“のテレビ広告のナレーションを見せます。「世界を変える。IBMやマイクロソフトが支配するPCの世界から、自分たちが変えていくんだ。どちらかというと、PCはその当時あまり面白いものとは思われていなかった。仕事用ですよね。事務や設計の効率を上げる道具と思われていた。そうじゃない。それとは違うコンピュータの楽しみ方があるんだ。自分たちはそれを提示する。皆さんも応援してください。コンピュータも変わっていきますよ」。非常に強いメッセージですよね。シンプルにブランド戦略をしていく時のお手本として、僕は今でもこの広告が大好きですね。

 

 

突破口のヒント

 

 突破口が必要なのですが、そのヒントとして消費者を深く理解・共感して初めて発見できる消費者インサイトが重要です。インサイトというのは、洞察力、中身という意味ですが、そのお話をしていきたいと思います。

 では、クイズです。「ホームセンターで今、ドリルの刃が売れました。マーケティングの大権威であるコトラー大先生は自著の中で、読者に問いかけます。今、ドリルの刃が売れたのだけど、その人は本当は何を買ったのでしょうか?」。一休さんのとんちみたいなものですが、コトラー先生の有名な本の中の一説です。さて、どう思います?

 

会場 ワクワクを買ったんだと思います。

 

 いいですね。僕も本当はそう思っていますが、コトラー先生の答えはちょっと違っていて、「壁の穴」と言っています。コトラーさんは、ニーズというのは何かが欠乏している状態のことを言っているんですね。この場合は、壁には穴が空いていないわけですから、壁の穴が欠乏していると。その結果、特定の商品が、ドリルの刃だったわけです。そのコトラーさんの本の中のセリフをそのまま読みますと、「販売者やドリルの刃のメーカーは、顧客はドリルの刃に対してニーズを持っていると思うかもしれないが、顧客の本当のニーズは「壁の穴」である。」と言っているんですね。

 僕は電通の新入社員の人たちに研修をしている時に、これを「どうだ、面白いだろ」と言っていたのですが、研修の中のひとりがあなたとほとんど同じ答えを言ったんですよ。確かにコトラーさんの言ったのとは違うけど、実は本当はそっちの方が正解じゃないかなと思いました。壁の穴という答えをよくよく考えてみると、納得できないんですよ。というのは、好んで壁に穴を開ける人はいないですよね。子供が壁に穴を空けたら大人が怒るじゃないですか。困るものなんですよ。だから彼はニーズだと言って壁の穴だと言っただけど、本当は違うんじゃないかな。壁に穴はほしかったんでしょう。でも、その人は、そもそも、どうして壁に穴を開けたかったのでしょうか? そこまで考えていくことが、マーケティングでは非常に重要だなと、研修の時や今日のような答えに接して僕は改めて感じたわけですね。

 

 何が、壁に穴を開けさせるのか? ニーズにはさらに、その芯や源のようなものがあって、ニーズの背景にある、その人がもともと求めている理想、もしくは行動原理。この人は棚が造りたかったのかもしれませんね。じゃあ、なぜ棚を作りたいのか。それは住まいをより快適にするため。ひとり暮らしだったら、そんな答えでしょう。素敵な時間を自宅で送りたいから。もしくは家族がいれば、家族を愛しているから。もし、子供部屋に本棚を作るつもりならば、それは子供の健やかな成長を願ってなのかもしれませんね。

 コトラー先生の話を改めて整理すると、買った物はドリルの刃です。企業というのは往々にして、そこしか見ていない。だけど、コトラー先生は、「その下には必ずニーズがあるんです。ニーズを見なきゃいけませんよ」。それで「壁の穴」といいました。でも、なぜ壁の穴がほしかったのか。子供部屋の本棚がほしかった。じゃあ、なぜ本棚を作りたかったのか。子供の明るい未来がほしいから。そういうふうに氷山の一角の見えている部分から、どんどん下に下に掘り下げていくと、消費者インサイトが見えてくるのではないかなと思います。なので、「なんでなんだろう」ということを繰り返すことが非常に重要だなと思いますね。

 

 

■消費者インサイトの考え方

 

 僕が消費者インサイトを考えていく時に、異なるアプローチで考えるので、3つ話をしたいと思います。

 まず、1つ。ヒトの気分に働きかけて思わず買いたくさせる、6つの有名な心理的な法則というのがあります。これを知っておくと 消費者インサイトのことが分かったような気になるので、6つのことをお話しさせていただきたいと思います。

 

 

■返報性の法則

 

 返報性の法則というのがあります。返報というのは、恩に報いるという感じなのですが、人間は「他者から何かを与えられたら、自分も同様に与えるように努める」生き物であるということなんですね。ですから、マーケティング的に言い換えると、企業・売り手からただでモノをもらったり、譲歩されたと感じたら恩に感じ、購入することでその恩に報いたくなるということです。皆さんが試食で何か食べるでしょ。すると、何か買わなきゃいけないかなと思うのは、まさしく返報性の法則が働いたわけですね。顧客に新商品のサンプル品を無料で配布する、特別に優良顧客向けにお金のかかった無料イベントを開催するなど、実際のマーケティング施策でもよく取り入れられています。バリエーションとして、最初に非常識なほど高い要求をし、拒否されたら譲歩して、相手からも譲歩を引き出し、結局、YESと言わせる高等テクニックもあります。例えば、実際に心理学の実験であるのですが、シンプルに「5千円を寄付してください」の依頼に対する承諾率は1割以下です。でも、「5万円を寄付してください」というと少し違ってきます。「えっ、それはちょっと高すぎます」といわれるでしょ。「ならば、せめて5千円だけでもお願いします」というと、半分以上の人が応えるという実験結果なんです。結局、5千円を寄付しているのは一緒なんです。最初に5万円という厳しい条件を出すと、そこから譲歩する。相手も譲歩したのだから、自分も譲歩しないといけないなと思わせて、5千円を払ってしまうということですね。

 

 さて、これもクイズ。某企業は全国を複数エリアに分けて営業しています。あるとき、新製品のサンプルを各エリアに送ったのですが、手違いで一つの地域だけ届きません。困ったエリアマネージャーは、サンプル品の代わりにあるものを配布したところ、他エリアの数倍の売り上げを達成できたそうです。さて、そのエリアでは、何を配ったでしょうか? 自分だったら何を配りますか?

 

会場 商品。

 

 そう。配るものは商品しかないですよね。答えは「新製品そのもの」。販促費は大幅に膨らみましたが、それを補って余りある売り上げと熱烈なファンの獲得に成功したんです。つまり普通だったら、サンプル品。サンプル品をもらえれば多少は嬉しいですよね。ただ、新製品をもらうと、「こんなに気前よくもらっていいの」と恩を感じます。すると、その製品を好きになり、恩を恩で返したくなる。それ以来、その企業では注力製品は新商品を配布する作戦に変更して急成長したんです。これはアメリカの皆さんもご存知の会社の実例でございます。

 先ほど、最初に高い条件を出して、そこから条件を引き下げると、相手も譲歩すると言いました。これは広告でよく使う手法なのです。代表的なのは、1日野菜300gをこれ1本で。最初にこれだけの野菜を食べなきゃいけませんよと非常に高い条件を出します。すると、消費者は拒否をします。それに対して、これ1本と、敷居を下げるんです。実際にそういう商品が売れてしまうということなんですね。今の法則は心理学の法則です。引っかからないと思っていても、実際には多くの人が引っかかっているのが事実ですね。

 

 

コミットメントと一貫性の法則

 

 人間は「自分の言葉、態度、行為を一貫したものにしたい、あるいは他人からそう見られたい」生き物です。コミットメントというのは非常に幅広い言葉ですが、言葉に出す、態度に出す、行為に出す、すべてコミットメント。ですから、マーケティング的に鍵となるのは、最初のコミットメント(意思や立場の表明、関わりや行動)を引き出すことになる。1YESといってしまうと、その後にNOと言いにくくなる。人間の心理、一貫性ですね。

 最初はごく浅いコミットメントから始めて、やがては商品・企業のファンになるという深いコミットメントに育てるやり方が一般的です。最初は資料・サンプル請求という浅いコミットメントです。ドモホルンリンクルさんもよく無料でやっているでしょ。無料だったらいいやと思いますよね。でも、そこでもうコミットメントが始まっているんです。無料なので恩を売られた感もあると思いますが、資料請求をした時点でコミットメントが始まる。アンケートやキャンペーンに申し込んだりするのも、それでもうコミットメントが始まっているわけです。その延長線上にファンになるということも充分にあるわけですね。ただし、「強制されたのではなく、自分からそうしたかったのだ」という思い込みが重要です。コミットメントの行為そのものが楽しい、創造的、ワクワク感などを感じられる必要があります。そして、最も深いコミットメントが、自分ごと化です。僕はそれを物語という形で発想すると、1番深いコミットメントとしての自分ごと化を促進できると思いますが、その辺りは最後にまたお話をしたいと思います。

 

 

■好意の法則

 

 人間は「好意を感じる対象に肯定的態度をとる」生き物である。理学の法則は身も蓋もないことばかりなんです。

 好意を感じる要因として、「身体的に魅力がある」「自分とよく類似している」「親近感を持てる」が特に強力ですね。ですから、「同世代の親近感のある美男美女」や「親友・仲良し」が代表的です。また、「同じゴールを目指す」というチーム感覚も好意を引き出すのに有効だと言われています。

 本当に身も蓋もない話ですが、ある人・モノが素敵な特徴を一つでも持っていると、評価全体が大きく影響を受けることを「ハロー効果」と言います。ハローというのは後光という意味です。例えば、ここに2人の写真を出します。片方は誰が見てもハンサム、もう片方は普通。そうすると面白いのは、ハンサムな人を「どういう性格の人だと思いますか?」と聞くと、大体は「性格がいい」と答えられるんですよ。ルックスしか情報を与えていないのですが、「人柄がいい」「何か優しそう」とかね。学歴も「高い」「大学院に行っている」とか、家柄も 「お金持ちだと思う」とか、その人の評価そのものが随分高くなるんですね。それが、ハロー効果です。逆にマイナスハロー効果というのもありますよね。悪役の人がそうですよね。一見、怖そうな人が優しいとギャップが面白いのですが、そういうふうに怖い顔だと性格も怖いと思われてしまう。それもハロー効果なんですね。

 タレントの好感度がCM起用に最重要視されるのは、ハロー法則を狙ってのことです。また、カリスマ経営者もハロー効果を製品にもたらします。 S.ジョブスとAppleが良い例でしょう。あと、先ほど同じチーム感覚がいいといいましたが、環境問題、地域経済の活性化、震災復興、過疎問題など、現在の社会的課題を消費者と一緒に解決しようとする企業姿勢も、チーム感覚を通じての好意形成に重要なポイントとなります。その意味で、CSR活動は慈善というよりも、立派なマーケティング戦略なんですね。例えば、木を植えるにしても、海外でやるよりも地元の公園でやる方がいいんです。消費者が参加できますから。なるべく消費者が参加できるイベントとして行うのも、チーム感覚を作っていくという意味で好意形成には非常に有効ですね。

 

 

希少性の法則

 

 人間は「希少性(得難い、失いかけている、という感覚)を感じると、より価値あるものとみなす」生き物です。希少性のキーワードとしては初・独占・限定・特別・終了などが代表的です。また、何かを失いつつあるという感覚は、それを以前よりも欲するようにさせる強い影響力を持ちます。

 ですから、「○○初」は、それだけで高い希少性を実現します。実現は難しくてもトライする価値は大いにありますが、消費者から見た「初」であることが重要です。ビジネスマンなら時間、中高年なら健康や挑戦心、新米ママなら時間など、顧客ターゲットが失っている、失いつつあるモノ・コトは、希少性の法則を利用する基本な情報です。一般的に、希少性が高いほど高価だと思いがちなんですね。「高い商品ほど価値が高い」と思う傾向があります。これを「威光価格の効果」と言います。1万円と5千円のコンサートチケットを同時に貰って開催日が同じ場合、「5千円の方が面白い」と説得されても大半の人は1万円の方に行くという有名な実験があります。

 

 

権威性の法則

 

 人間は「権威()の要求に対して、自ら考えずに機械的・自動的に従いやすい」生き物です。権威の象徴としては、肩書き・服装、装飾品、専門性が有効。さらに、私心が感じられない権威者を盲信しやすいということです。つまり、商売っ気を感じさせない専門家が最強のセールスマン。例えば、「今日は、いい魚が入っていないよ。今日はうちで買わない方がいい」という魚屋さんは、まさしく私心が感じられない専門家ですよね。そうすると、「この人はいい人だ。次もここで買おう」ということになるんですね。そういうトークは、人の機微をよく知っている人が使うやり方かなと思います。

 これも面白い実験があるんですよ。人間が肩書きを何通りか使い分けた場合、肩書きが高いほど、その人の身長を高く見積もるという実験です。例えば、授業前に、「○○の講師です」といって授業をやる。次に「助教授の○○さんです」と言って同じ授業をし、「教授の○○さんです」といって同じ授業をし、「世界的大権威の教授○○さんです」といって同じ授業をします。その後で、生徒に先生の身長を聞くと、全部同じ人なので同じ身長なのですが、肩書きが大きい方が身長を高く見積もるんですね。また、同じ大きさのコインなのに、表記金額が高いほど、コインの寸法を大きく見積もるという実験結果もあります。もちろん錯覚なのですが、正確に言うと、「目の錯覚」ではなく「脳の錯覚」なのですね。

 マーケティング的にも権威性を巧みに活用することで、商品や企業の存在感を大きくさせることができます。古典的ですが、○○ご用達がまさしく好例でしょう。

 

 

社会的証明と同調性の法則

 

 人間は不確かな場合、自分と似た人が多数やることは正しいはずだと信じてやります。その結果、周囲に同調するということです。一般的な商品なら普通の人々、高級品なら富裕層が好んで使っていることを示すのがポイントですね。95%の人は無意識に他人のやり方を真似するといわれていますが、この現象を同調性といいます。「みんなが使っている。だから安心」「良いもののはず」「流行っている。私も欲しい」が同調性の基本ですね。マーケティング的には、トレンドを観察して取り入れていく。あるいは、人気のランキング化を作っていく、くちコミを増やしていくなどがよく使われます。くちコミは社会的証明の典型ですから、その活性化に注力するのがバイラル・マーケティング。Viralというのは、「ウィルス」の英語読みです。ウイルスのように伝染してどんどん広がっていくということを、英語読みでバイラル・マーケティングといっています。

 

 

ヒット商品から逆読みする現在の消費トレンド、厳選8種

 

 世の中で流行っていることに乗ることも非常に重要なポイントです。電通時代、こういうことばかり言っていましたが、辞めてからも相変わらずこんなことばかりやっています。ただ、省エネ、省力、省コストなどの「省」と、 最高、最安、最速などの「最」は、いつの時代もヒットの定番なんです。当たり前すぎてここではあえて触れません。

 

 

ヒットの切り口「GAMIFICATION」。

 

 これは、ゲーム感覚で楽しみたい、ということですね。他ユーザーと競い合うなどのゲーム性を取り入れることで、プロセスを“遊べる”ようにして過程も楽しめるような商品・サービスです。遊びとなると、フランスのロジェカイヨワという哲学者が、『遊びと人間』という本の中で、「人間の遊びには4つの基本的な要素がある」と言っています。

 簡単にご紹介すると、1つは競争。駆けっこやレースなど。2つ目は、偶然。くじやルーレット、じゃんけんなど。3つ目は、模倣。モノマネ、歌マネ、演劇、ママゴトなど。4つ目は、眩暈。ブランコ、ジェットコースター、絶叫マシーンなど。これらは一つずつ独立していますが、幾つかの要素を持っているものもあります。例えば、麻雀。これは間違いなく、競争もあれば、偶然もありますからね。

 「GAMIFICATION」の事例として、よく出てくるのが、ホンダのエコドライブランキング。これはホンダのサーバーに携帯電話経由でデータをアップロードすると、今月の一番燃費のいい人のランキングが出てくるというものです。ランキングを競わせることで遊ばせるという一種のGAMIFICATION。また、Forsquare。どこどこのお店にいるよというチェックインの回数を競い合うSNS。あと、化粧品売り場でお肌のチェックをするじゃないですか。すると、各県事にデータを集めて、美肌県ランキングを作成する。これも競争ですね。

 

 

■ヒットの切り口「SELF-REWARD RITUAL

 

 これは、「自分へのご褒美」です。自分へのご褒美を非日常的シーンで盛り上げたいという感じですね。実際に多種多様なプチ贅沢商品が出てきています。三越のお中元は、「ご自宅仕様好適品」と書いてありますが、自分に贈る商品をお中元商戦の中に入れています。これはやはり、自分へのご褒美ですよね。先ほどの「最高の週末」も自分へのご褒美ですが、もう一つ広告で面白いのが、「ピノ」というアイスクリームですが、バーでアイスを食べているんです。あり得ない組み合わせですが、バーというのは基本的に一日頑張った人が最後に行くようなところ。だから、一日頑張った自分へのご褒美として高級アイスCMをしている。これ、ちょっと高いのですが、売上げはいいですね。大ヒット商品の一つと言っていいのではないでしょうかね。

 

 

■ヒットの切り口「TEAM SOCIAL

 

 みんなで社会・環境にいいことをしましょう、世の中を変えていきましょうという感じですね。これも有名なキャンペーンがあって、1リットル、10リットル。「あなたがボルビックを1リットル買うと、アフリカで水に困っている人に井戸を掘ってあげますよ」。あなたの1リットルが、アフリカの10リットルに変わりますという感じですね。また、これに近いもので、table for too。あなたが食べれば、貧しくて食べられないところに、ちゃんと食べ物を届けますよというのもあります。あと、ふるさと納税。農家や地場の企業への応援にもなっています。自分とご縁のあったところに一種の地域貢献を私も一緒にしたいという感じでしょうかね。ここのNPO法人もそうだと思いますが、それも一緒に盛り上げていくという仲間感覚があるんじゃないかなと思います。

 

 

■ヒットの切り口「CATHARSIS TEARS

  

 カタルシスとは、心理学的に非常に面白い現象なんですね。心の中に溜まっていた澱のような感情が解放され、気持ちが浄化されるんです。要は、自身を投影できる悲劇的物語に陶酔して涙することで、心の中に鬱積していたネガティブな気持ちが浄化されるというんですね。一生懸命生きる主人公に自分を重ねる。そういうことによって涙を流す、感動をする。それがカタルシスとなって自分の心の浄化となっているという。確かに最近、そういうドラマやヒット商品が多いなと思います。

 あと、廃墟ブームは、打ち捨てられて、朽ち果てていく中で、なんとか踏ん張っている姿に哀愁を感じて自分を重ねてしまう。実は大半の先進国で廃墟ブームがあるんですね。高齢化が進むと、なおさらブームになるんじゃないかなと思いますね。あと、プロジェクトX挑戦者たちも、主人公の苦悩に焦点をあてた物語に仕上げたもので、これもカタルシスの涙というものがあるのではないでしょうか。人気の高いドキュメンタリー番組です。

 

 

■ヒットの切り口「DOWN to US

  

 かつては“敷居が高い”“手が届かない”もの・コトが、今は身近なところに降りてきたという感覚のヒット商品ですね。例えば、AKB48は、アイドルと言いながら、会いに行ける、握手できる。自分たちの投票によってプロデュースできる。アイドルというと、僕なんか未だに天地真理ですが、天地真理はパーフェクトですよ。おならもおしっこもしないと思っていました。当然ながら、手は付けられません。でも、今は身近になっているのがアイドルらしい。あと、牛丼チェーンの中で、ひとり気を吐いている「吉野家」は、うな丼を作ったり、すき焼き鍋膳セットを出したり、今まで高かったものを低価格で提供しています。あと、敷居の高かった浴衣や和服も簡単に着られるようにしているのも、DOWN to USという感じじゃないかなと思っています。

 

 

■ヒットの切り口「SENSUAL HEALING  

 

 SENSUALとは、身体的・肉感的な、触り心地という感じですが、そういうもので癒されたいというもののヒット商品が多いなと思います。例えば、i-podi-touchi-pad。僕はそれを初めて見た時、恐らく人はこれを機械だとは思わないだろうなと思ったんですね。なぜかというと、i-podとウォークマンの一番の違いは操作感だと思いますが、機械はボタンを押すんですよ。逆になでるものといえば、猫などのペットや子供でしょう。なでるというのは愛情表現で本来は愛情を持っているからなでるのですが、人間の頭というのは原因と結果をすぐ混同してしまうので、なでているから愛情を持つ、特別な愛を持っているというふうに変わっていく。すると、今までの機械のボタンを押すという行為からなでるというのを全面的に取り入れたi-podは愛される対象になるだろうなと思ったら、だんだんそうなっていきましたね。あと、無印良品のビーズクッションもすごくいいらしいですし、ユニクロのエアリズムも触り心地で売っていますね。

 

 

■ヒットの切り口「ACCEPTANCE QUEST

 

 認めてほしい、そんな感じです。SNSや家デコも認めてほしい。デフレの頃があったので、飲みに行くとお金がかってしまうから、友だちを家に呼んでパーティをしましょうというのが非常に増えたのですが、家に呼ぶとどうしても家電を見られるわけです。「センスがいいね」と言われたいので、非常にセンスのいい家電が増えている気もしますし、抵抗感が希薄化してどんどん美容整形が認められている感じがしますが、これも認められたいという気持ちの一つの表れかなと思います。

 

 

■ヒットの切り口「ATTRACTIVE IRREGULAR 」

 

 ”魅力的な ちぐはぐ”な商品が今、非常に多いですね。「いかにも」ではつまらないんですね。例えば、フランス料理と立ち食い、黒人と演歌。黒人ならブルースを歌わせればいいじゃないかと一昔前ならプロデューサーが思うかもしれません。ですが、あえて演歌を持ってくる。黒人なのに松田聖子を持ってくる。ラー油なのに、食べるを持ってくる。ハンバーガーとおにぎりを組ませる。後、モスとミスドを組み合わせてみる。あと、ゆるキャラなのに、不気味。世の中にゆるキャラはいっぱいありますが、可愛いままではあんまりヒットしないんですよね。むしろ、ゆるキャラなのに、目が座っているくまもんとかね。夕張のも、子供が泣いちゃうほど怖いらしいのですが、くまもん系は面白いですよね。あと、ゆるキャラなのに毒舌、ゆるキャラなのに動き回る。これはやっぱり、上手に予定調和的じゃないものを魅力的に感じる人が多いんじゃないかなと思います。

 

 

■物語マーケティング

 

 消費者インサイトを洞察するための思考法として、僕が非常に重視しているのが、物語マーケティングのやり方です。

 先ほどの確認ですが、「自分ごと化の対象にさせる」ことが、マーケティングの最終的なゴールです。「この商品は私にとって特別だ」と感じてもらえることですね。だけど、実際にビジネスとして形にするには問題が出てきます。どうすれば、そう感じてもらえるかということですよね。理想論ばかりを言ってもしょうがありません。簡単なことを言うと、もてたい。これは理想です。けれど、もてるための方法を知らなければ実現しませんよね。同じです。自分ごと化は、マーケティングの理想です。だけど、どうすればいいかということを知っていかないと単なる夢だけで終わってしまう。

 その時、答えは「物語性」にあると思っています。例えば、同じ歴史上の出来事でも、教科書や解説書では無味乾燥でつまらないのに、歴史小説になると面白いのは何故でしょう。それは、登場人物の目を通じて、その出来事が自分の目の前で起きたかのように感情移入できるからだと私は思います。これはまさしく歴史上の出来事を自分ごと化できたということですよね。例えば、本能寺の変。教科書には事件が起きた年や場所が書かれていますが、小説だと主人公は大体織田信長でしょうかね。すると、読んでいるうちに、自分の目の前で炎が立っているように想像できる。もしかしたら、人の喧噪も擬似的に耳に響いてくる。匂いもするかもしれない。それは本能寺の変を自分ごと化できたということですよね。消費者が自分に引き寄せて感じてもらえる自分ごと化のためには、消費者が自身を投影できて引き込まれる物語性が非常に重要です。物語でマーケティングを考えることは、自分ごと化を進めるのに手っ取り早い良い方法だなと思っています。

 

 

■魅せる物語

 

 私からの最後の提案なのですが、商品が名脇役の「魅せる物語」を考える癖をつけて、消費者インサイトの洞察力を鍛えていきましょう。

 物語マーケティングといっても、4つの要素のスムーズなストーリー展開があれば、物語というのは出来てしまいます。起承転結で言うと、まず起の部分では、消費者が自分を投影できる主人公が設定されます。そのうえで、承の部分では、消費者を悩ます不満・課題や不快感が提示されます。そして、転。味方として、商品が不満・課題を解決してくれます。ここで解決しますから物語としてはここで終わってもいいのですが、最後に結として、気持ちを豊かにする感動的エンディングがあると、消費者はいい物語だなとより自分を投影できるようになっていくんじゃないかなと思います。そうすると、転の部分までは消費者の不満を解消しますという企業の視点です。だけど、もう一歩、感動的なエンディングというところまで踏み込むと、より消費者インサイトに踏み込んだマーケティングになるというのが僕の考え方です。

 実際、いい事例をお示ししたいと思います。例えば、肥満を防ぐトクホのお茶。世の中にこういう商品がいっぱいありますよね。この場合の物語としては、まず主人公の設定は、脂っこい料理が好きなメタボぎみの中年男性。次に「承」の不満や課題では、「食事改善も疎かで、運動も面倒で続かない。このままでは、将来のメタボが心配だぁ」。そこで、味方として商品が現れて、不満・課題を解決する。「メタボを防ぐトクホのお茶、これなら無理なく続けられる。メタボから逃れられるかもしれない」。多くの商品はここで終わります。脂肪が燃焼する、体重が減る。でもある特定のブランドだけは「結」の部分まで踏み込んでいるんですね。「脂っこい好物を心置きなく食べられるようになり、食事が、ひいては人生が楽しくなります。人生って楽しむためにあるんでしょ」。それが、サントリー黒烏龍茶です。ヘルシアが先発で、サントリー黒烏龍茶は後発です。後発なのに、あっという間にヘルシアの3倍売りました。ヘルシアと黒烏龍茶、どっちがいいかなんて人は考えません。似たようなものだし、そもそも効果をあまり考えていないと思うんですよ。だけど、多くの消費者は黒烏龍茶をとってしまった。なぜかというと、黒烏龍茶がきちんとした物語を提示できたからだと僕は思っています。

 先ほどのプレミアムビールも物語で考えてみると、起の部分は、主人公は仕事を頑張っている普通のサラリーマン。承の不満や課題になってくると、「仕事はハードで、人間関係も大変だし。充実感もそれなりにあるけど、しんどいなぁ。誰か、俺の頑張りをわかってくれないかな」。そこに味方として、プレミアムビールが現れるわけですね。ちょっと贅沢なプレミアムビールで、「自分へのご褒美」を。これでもいいと思いますが、もっと感動的エンディングにするために、区切りの週末くらいは自分で自分を褒めてもいいよね。「よくやったよ。次の一週間もまた頼むぞ。じゃカンパーイ、俺自身!」みたいな感じですかね。物語は映画を見せるような感じでしょうか。シーンを想定していかなきゃいけませんね。そこで出てくる言葉が、「最高の週末を」。最高の時間でも最高の贅沢でもいいと思いますが、100点じゃないと思う。100点は、「週末を」。この言葉をひねくり出すのが、広告やマーケティングに携わっている人の一種のセンスなんですね。

 あと、ミニバン。セディナが長らくミニバンで一番売れていました。去年はボクシーがハイブリッドを出して、売上げナンバー1がボクシーに移ったそうですが、それでもずっと長く売れてきました。第1号のセディナは商業車を改造したものなので、そんなにいい車じゃないんですよ。悪い車とはいいませんが、特別いい商品ではなかった。だけど、最初からミニバンでは売上げがよかったんです。大体車の売上げナンバー1はトヨタが持っていくのですが、日産が唯一持っていた売上げナンバー1です。

 ミニバンの物語を考えてみたいと思います。まず、主人公は子供がまだ小さいファミリー世帯。子供の「健全な成長」が願い。承の不満や課題は、「日常生活は子供も親も何かと忙しく、ちょっと不健全。たまの休みには、家族で自然の中でリフレッシュしたいな」。その味方としてミニバンが現れるわけですね。「経済性に優れ、収納のたっぷりのミニバンならば、自然を求めて、家族旅行を気楽にちょくちょく楽しめる」。これでいいのですが、感動的なエンディング。「勉強も大切だが、頭でっかちにはなってほしくない。子供は自然の中でいろいろな挑戦をして、健全にたくましく育ってほしい」。ミニバンは燃費がいいから、家族で出かけられるというのは、ここでいう不満の解決なのですが、その結果として子供の健やかな成長というエンディングをもつことで、よりいい物語になると思っています。まさしく、セディナの広告はそれですよ。セディナはほとんど車の宣伝をしません。水族館に行って亀にタワシをかけたり、子供に色々なことを挑戦させて怖い思いをさせたりします。「モノより思い出」というのはセディナの第1号の有名なコピーです。その時からセディナは、「車はモノじゃないですよ、思い出を作ってほしいモノなんですよ」なんですね。そして、「こども みらい」。これが今のセディナの広告です。もうひとつセディナの前、まだミニバンという言葉が確立していなかった頃に大ヒットしたのが、ホンダのステップワゴン。そのコピーが「こどもといっしょにどこいこう。」です。車のことは言いません。だから、感動的なエンディングは、商品を見た後、それを言葉としてどう表現していこうかという発想だったのではないでしょうかね。

 カツラの「魅せる物語」。これは実際に某カツラメーカーさんと考えたもので、結論から言うと非常に面白いと言われましたが、広告にはなりませんでした。でも、こんなに面白いものがあったんですよ。主人公は、薄毛に悩む男性です。自分の容姿に自信を持てないし、性格も内向的になりがちという設定です。不満や課題は、好きな女性がいるけど、「薄毛で振られる」と思い込んで告白できない。自分に自信を持って、堂々と告白したい。そこで味方としてカツラが現れる。思い切ってカツラを購入する。自然体で、取れない高機能である。自信もついて告白できた。果たして、その結果は。これ、どんなエンディングだといい物語だなと思います?

 

会場 若々しくなる。

 

はい、後ろの方。

 

会場 分かりません。

 

自分だったらこうじゃないかという方います? カツラの広告は、とれないとか、ばれないとかでしょ。

 

会場 カツラをとっても幸せになれる。

 

 自信がないからカツラをつける。僕もその通りなんです。で、カツラを付けて彼女が出来た。でも、「俺、実はカツラなんだ」と告白したら、彼女が言うんですよ。「私、そんなこと最初から知っていたわよ。別にあなたの髪に惚れて好きになったわけじゃない」と。僕は最後はカツラを外すのだろうと思っているんです。本当に自分に自信ができた人は、カツラを必要としません。カツラを考えると、「その日まで私に手伝わせてください。あなたが人生に本当に自信が出来たら、どうか私を捨ててください。それまで私は一生懸命あなたのために頑張ります」。そしたらカツラメーカーの人が喜んじゃって、「そうだよね」って。でも、そういう時って盛り上がりますが、企画にするとつまらなかったりするので通らなかったという残念な思い出がありますね。

 

 転で終わるのと、結があるのとは、大違い。転というのは、不満・課題を解決する。一応合格だけど、当たり前すぎてつまらないマーケティングです。最高クラスの高品質でない限り、消費者からは魅力的に見えない。そこで、やはり感動的なエンディングをきちんと打ち出す。これが、消費者の気持ちを動かす一流のマーケティングだと思います。商品のデザインやストーリーを背景に、消費者の“自分らしい生き方”に無くてはならない存在になっていく。やはり、自分ごと化というのは、こういう形で進んでいくんじゃないかなと思います。

 

 

富山の魅せる物語

 

 最後になりますが、「富山の魅せる物語」が非常に重要だと思うんですね。これは物語自身が魅力的であると同時に、富山でしか語れない物語であることも非常に重要です。主人公は、富山に非日常を求めてくる都会生活者。東京の人と考えてもいいわけです。都会ならではの不満などを抱えてくる時に、富山ならではの商品や資源などがあると思います。チンドン、風の盆、電車、富山市民、食など色々あるかもしれません。そしてそういうものが不満を解消するだけでなく、最後に感動的なエンディングが見つかれば、非常にしめたもので、さらには今日お話しした心理的なものやヒットトレンドみたいなものも合わせて消費者インサイトを一つ見つけていく。最初に弱者の戦略といいましたが、最高の物語を考えて最高のメッセージを一つだけでいいんです。それを徹底するわけです。絞り込んだ消費者インサイト、絞り込んだ表現、絞り込んだマーケティング。そこで改めて、では富山という街はどういう街なのか。富山という街はどう魅力を作ってどう発信していくのか。それは決して金沢には言えない、富山にしか言えない、そういったものは何なのかを物語発想で考えると結構できるのでじゃと僕は思っています。

 私の話はこれにて終わりということで、どうもご清聴ありがとうございました。

 

■質問タイム■

 

 吉原と申します。本日はありがとうございました。最後の方で魅せる物語を作っていくというお話がありまして、プレミアムビールの最高の週末をというフレーズを思いつくのが広告会社のセンスだと仰っていましたが、そのセンスを磨く方法というのはあるのでしょうか?

 

 感激屋になることだと思いますよ。この現実の社会には、学校と違って何通りも答えがあるでしょ。その答えの何が一番いいか。マーケティングの立場からいうと、感動できることです。だから、感激屋であることが非常に重要だと思いますね。自分が一番感動したものや一番感激したものは、多分みんなも感激するだろうから、それを出していくということじゃないですかね。

 

 

 一つ悩める僕に救いの手をいただきたいのですが、ドリルの話がありましたよね。ドリルの刃を考えなきゃいけないのが消費者インサイトとして、ドリルの刃は何のためにあったのかというと壁に穴を空けるため。壁に穴を空けるのは、実は子供の健やかな成長を願っていたからというところに落ちた時に、僕がドリルの刃のメーカーだったとして、でも子供の健やかな成長を願ってだったら、実は壁に穴を空けなくてもいいんじゃないかという答えがひらめてしまったんです。そこにジレンマを感じるというか。結局、富山のいいところを考えようと思った時に、そういうジレンマに陥ってしまう自分がいたりして、それって富山じゃなくてもいいんじゃないかという結論がまたきてしまい、それでまた物語が作れなくなってしまうみたいなことって往々にしてあると思うのですが、どうやったらそこを脱してもう1回富山に戻ってこられるのか、何かヒントがあれば教えてもらいたいなと思っています。

 

 よくメーカーの人は、「消費者のことが分からないから調査をします」と、消費者を一つ外に見てしまっているところがあると思うのですが、僕はすごくそれがおかしいと思っていて。例えば、会社員のお父さんだって家に帰れば普通のパパだし、デパートに行けば普通の消費者だし。消費者が分からないと言って、アンケート調査したり、ヒアリング調査したりするでしょ。でも、アンケート調査なんか誰も正直に答えてくれない。そんな信頼度の低い調査をするよりも、自分に聞く方がいいんじゃないかなと僕は思っているんですよ。観光でも何でもいいのですが、自分の中で対象に1回なりきってみて、そのうえで考える。自分の気持ちの内面を考えてみるということが重要なんじゃないかなと思うんですよね。答えになっているか分かりませんが、自分を見つめるということは僕はマーケティングでは非常に重要だと思っています。36524時間、タダですから。

 

 

 街のお店や商店、これから起業する人が、マーケティングやブランディングの発想をうまく使って事業をやっていく時に、どういうふうにやっていけばいいというのはありますか?

 

 僕は最終的に形にならないことには全然意味がないと思っているので、お店だったら広告を作ってごらん。例えば自分のお店だったら、売りたいものの広告を作ってごらん。本屋さんなら本屋さん、八百屋さんなら八百屋さん。消費者は、街の商店、あるいは郊外のイオンやヨーカ堂、どっちを選んでもいいわけですが、うちで買ってほしいと思ったら、僕は広告を作るのが一番いいと思う。大した広告じゃなくていいです。ほしい言葉と絵があれば充分です。だけど、作ってみると、イオンやヨーカ堂は言えないけど、自分のお店だけが言えることって何だろうと考えて形にしながら、またコンセプトに戻っていったりするんです。最後は絞れてくると思うので、コンセプトのような抽象的なものではなく、具体的なものをゴールにしてやっていくと、結構いいものが出来るんじゃないかなと思いますね。

 ポスターをバーンとね。例えば、その時に下手でもいいから絵を描いて、広告の文句もちゃんと書いておく。それを見て、ちゃんと言いたいことは言えている。もっと言えることはないか。本当にこんなことでいいんだっけ。もっと大切なものってあるんじゃないの。というふうに現実を見ながら考えていくということだと思います。

 

 

 例えば、市場調査の話がきた時に、全くないような市場を見つけ出す。アンケートをする時に結局は既存のものから消費者を発想してしまうので、全くないものをそこから見つけ出すにはどうすればいいかということとが1点です。また、マーケティングの根幹にはビジネスシステムと収益モデルの合体型があるのですが、その収益モデルというのはそこにどう噛み合わせていけばいいのかというのがご質問です。

 

 プロっぽい質問ですね。まず、全く新しいものという話でしたが、結論からいうと全く新しいものなんて、世の中にありません。イノベーションという言葉を初めて経済用語として使った人は、シューペーターという人ですね。シューペーターはイノベーションの本質を新結合だといっているんですよ。英語でいうとニューコンビネーション。だから、ゼロから発想するのではなくて、今あるものの組み合わせで新しいものを作っていくべきだと言っています。ですから、質問の趣旨が今までにないものをゼロから作るのではなくて、今あるものの組み合わせでも、黒人と演歌みたいに今まで誰も結びつけられなかったものを結びつけることで新しいものが生まれてくるんだろうと思いますし、そっちの方がずっと楽だと思います。例えば、i-podも、中身的には大したことのないローテクです。だけど、そこになでる操作という、今まで機械が持っていなかった操作を組み合わせたわけです。それが僕はすごいと思う。なるべく考えつかないもの、全然違うもの。さっきも言いましたが、なでるというのはペットや人間とかでしょ。機械と人間、機械とペット、全然違う。そういう発想なんじゃないかなと思います。やや脱線気味に実話を言いますと、皆さんもご存知のある大会社が、ずっと介護用ロボットを目指してロボットを作っていたんですよ。商品にする時は、誤動作したら大変でしょ。でも、変なことしたら止まってしまうんですよ。それをゼロにするのは難しかった。でも、経営陣から、「散々お金使っているんだから商品化しろよ。商品化しないと、来年お前の研究所ないぞ」といわれて研究者が悩みに悩んで、介護用じゃないあるロボットを出したんです。けど、フリーズはとうとう最後まで治らなかった。プログラムにはやはり限界があるんです。それは世界的に大ヒットしました。実話です。何のロボットか分かります? ○○型ロボット。

 

会場 ペット型?

 

 そう、ペット型ロボット、AIBOです。介護用ロボットはフリーズすると欠陥です。ところが、ペット型ロボットはフリーズしても困るわけじゃないし、そこがむしろ可愛い動作に見えるんですね。多分、偶然なんでしょう。今まで人の役に立つのがロボットというその技術と、全然人の役に立たないペットを組み合わせてみた。それが発想力なんだろうと思います。誰もが考えつく組み合わせは、そういう意味では面白くないんです。だから、全然違うものをとにかく組み合わせていく。なぞかけみたいに、自分に無茶ぶりをしてみる。それでイメージしていく。それが新しいイノベーションを起こすヒントになるんじゃないかなと思います。

 それともう一つ、収益ですが、収益性というのはそのプランを潰すために出てくるものです。イノベーションに収益なんてことはありません。収益性なんて見えるわけがない。偉い人から収益という言葉が出てきたら、もうその仕事には意味がないということなんじゃないんでしょうかね。

 

 

 今日はありがとうございました。よく物語が大事だといいますが、非常に分かりやすくご説明いただきました。私は1年弱ぐらい富山にいて、富山はすごくいいところだなと思っていますが、皆さん「金沢、金沢」と仰るので、富山のいいところはどこだろうと考えて、海と山は素晴らしい。富山のキャッチコピーとして、「富山で休もう」というのがあるのですが、以前JRが使っていた「そうだ、京都へ行こう」をもじって、「そうだ、富山で休もう」がいいなと思っているのですが、先生は「結」をどう考えられるか教えていただきたいです。

 

 それはちょっと難しい。今日は、パス!()。なんか変ないい方だけど、Bっぽいんだよね。Aじゃないと思うんだよね。休もうというのもありだと思いますよ。人間、一生懸命やるのがAだとすると、だらけてるのがBじゃない。休もうというよりも、もっとダメになっちゃうみたいなさ。もっともっとBっぽくしてもいいんじゃないかな。もっと自堕落な感じ。朝からお酒を飲んでもいいような感じ。もっとBっぽいイメージに特化した方がもっといいんじゃないかなと思います。

 

 

 単純に富山の強み、富山の弱みを先生が挙げるとしたら何かというのを聞きたいのと、先生はいつも明るく楽しい方だと僕は思っているのですが、本当に落ち込んだ時に助けられた言葉があれば教えていただきたいなと。

 

 僕は入善にいたことがあるんですよ。親が離婚しては母方が入善だったので、入善に引き取られて数年間住んでいましたが、ともかく寂しいよね。冬の日本海は寂しい。あれが逆にしみじみとしたいい味という気もするので、寂しい感じも富山っぽくていいかなと思う。ほっといてくれるような包容力みたいなものがさ。あと、好きな言葉はいっぱいありすぎてよく分からない。僕、漫画が好きなんですよ。で、しょっちゅう泣いちゃうのね。今は「弱虫ペダル」。通称、弱ペ。素晴らしい言葉のオンパレードですよ。1回読んでみてください。

 

 

 先生のお立場からソーシャル・ビジネスされるとしましたら、どういったふうにということと、もう1点は今後発展していくかどうか。色々な見方がありますが、そういうところの思いを端的に仰っていただけたら幸いです。

 

 ソーシャル・ビジネスはすごい可能性があるというか、大いに発展するものだと思っていますよ。生活者は今、人と関わりたいですよね。だから、SNSなどがあるわけですが、そういう人との関わり、そして人から褒めてほしいとか、人のことを褒めてあげたいとか。フェイスブックが画期的だといわれているのは、「いいね!」なんですよね。つまり、人に対してちゃんと「いいね!」をすることができて、人を褒めることができるし、そういうことをソーシャル・ビジネスとしてもお互いに褒め合う、認め合うということをちゃんとやっていけば、より良くなっていくと思います。あと、未来の話は、僕基本的に考えたことがないです。今いいことをすれば、明日結果でが出るだけの話で、今日をともかくベストを尽くすということに尽きるんじゃないんでしょうかね。

 

 

 富山と金沢で富山が弱者という話がありましたが、もっと富山が自信を持つというか、自信を持てるようなアドバイスをいただけたらと思います。

 

 富山の広告をみんなで作るみたいな運動があっても面白いのかなと思いますけどね。僕、うんちくが好きなので脱線しますけど、英語でストラテジアって戦略と訳しますでしょ。あれはもともとラテン語だったそうですが、ストラテジアという、ある心の状態を言う言葉だったらしいんです。それは何かというと、負けそうだけど、このまんまじゃ終わらないぞ、このやろ〜みたいな、その心の状態がストラテジアという意味で、それが戦略になってきている。戦略というのは、負け戦を絶対に勝とうと思っている執着心なんですよね。負け戦ですから、相手と同じ戦い方をしていたら、もっと負けちゃうでしょ。負け戦に勝つには唯ひとつ、集中して、たった一つの闘いしかしない。戦略は、最初の言葉は方略という日本語があったのですが、方法を略すと書くんですよ。だから、あれもありますこれもありますというのは強者の戦略なんです。ストラテジアというのはまさしく弱者なんです。負けちゃうから、やることをどんどん略していって、方略。それが軍隊用語になった時に、戦略という言葉になった。意味は同じ、戦いを少しでも略して減らしていく。ともかく絞り込む。それが重要だと思います。

 

 

 先ほど漫画お好きだといわれていたので、富山の漫画でおわら風の盆を舞台にした「月影ベイベ」というのがあるんです。すごく面白いので、よかったら読んでみてください。

 

 いいですね。はい。漫画は、友情、努力、勝利ですよね。

 

 あっ、少女漫画なので。

 

 ないの? オチなしみたいなやつ?

 

 そんなことないです。

 

 またあとで教えてください。

 

 

 隣の商店街で商店をしている者なのですが、「マーケティング発想でまちづくりを考える」なのでお聞きしたいのですが、商店街というのはコンセプトも発想も購買力も違うお店が集まって一つの街を形成しています。そうした時に街が一体となって何か一つのことをやろうというのが少なくなってきて、一つのキャッチコピー的なものがあればいいのかなと考えた時に、それを作る時はどんな発想というか、どういったところから作っていったらいいのかと思うんです。

 

 今のご質問は、そんなに切羽詰まっていないからだと思うんですよね。人間、切羽詰まれば、否が応でもまとまりますから、スローガン一つでまとまるのではなくて、切羽詰まった状況が人を動かしていくと思うので、それまで待つというか。逆にいうと、商店街が一体になってやらなきゃいけない状況になっていないことの幸せさみたいなものを噛みしめた方がいいような気もしますけどね。

 

 それは僕が鈍感なだけなんです。

 

 そうなんですか。今日の話で一つ皆様に理解してほしいのは、スローガンって一つの結論の形ですが、それが出てくる前にインサイトなど色々なことを考えて、一番いい言葉が出てくるということなので、商店街に限らず色々な方法論があると思いますけど。例えば、商店街と一番遠い存在になっている地域の資源と組み合わせてみたらどうだろうかとか色々な発想法の中で、いいなと思うものをまず見つけて、それを口説くために言葉にしていくと思うんですよ。広告にしろ何にしろ、消費者に対するラブレターなんですよ。ラブレターは好きじゃない人に書かないでしょ。ラブレターを書くためには、好きな相手を見つけなきゃいけない。広告も一緒で、何か売りたいもの、アピールしたいものがあって言葉が出てくるわけですから、ここの商店街ならではのアピールしたいものって何なんだろうか。まず、それをみんなで考えて、それを共有化して、思いを一つにしていくことが非常に重要なんじゃないかなと思いますね。

 

 「ほんまでっかTV」にいつもパネリストとして出ておられて。

 

 いつもじゃないよ。年に2回ぐらいかな。

 

 先週オンエアーでしたが、そういったマスメディアにも出られている先生なので、この後懇親会もありますので、また皆様色々なお話を聞いていただけたらなと思います。今日はありがとうございました。

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