レポート

まちづくりセミナー2010

まちづくりセミナー第四回講演録 講師:谷口綾子氏

2011/05/29 

モビリティ・マネジメントの展開~まちづくりと公共交通

講師:谷口綾子氏 (筑波大学大学院システム情報工学研究科講師)

著書:「モビリティ・マネジメント入門(共著:学芸出版社)」など。
専門は、交通計画、態度・行動変容研究を応用した公共交通利用促進、交通・環境教育、防災リスクコミュニケーション、子育てバリアフリー等。

 

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◆モビリティ・マネジメントの展開:街づくりと公共交通の両促進に関する話

モビリティ・マネジメントという言葉を聞いたことがない方はどのくらいいらっしゃいますか?
富山はセントラムや自転車のレンタサイクルなど素晴らしいハードがある。
そのハードをもっと活かすためにどうしたらいいのかというのがモビリティ・マネジメントだと思います。

 

◆講演の前提として

車をやめようということではなくて、車の使用を控えて、徒歩、自転車、公共交通をもっと使ってもらいたい。
これを体系的に考えるのが「モビリティ・マネジメント」です。

 

 

題材

1.モビリティ・マネジメントの背景となる「社会的ジレンマ」
2.社会的ジレンマの解決策である「心理的方略」と「構造的方略」について
3.モビリティ・マネジメントの要素紹介(パーツ別にて)
4.モビリティ・マネジメントの事例紹介

車のある生活はとても楽しくて、かっこよくて、快適で、便利。これは疑いようもない事実。
ただし、車に起因するいろいろな社会問題も顕在化しています。

 

◆個人の問題ではなく、社会問題として考えた際に考えられる問題(例)

・公共交通の利用者離れ(過疎化にも繋がる)
・道路渋滞
・地球環境問題
・高齢者の医療の問題、居住地、商業地の郊外化
・中心市街地の衰退

 

◆個人の問題

・道路渋滞
・健康問題(メタボ)
・車の維持費
・死亡事故リスク(怪我をするリスク)
・地域愛着、子ども心

このような車の問題を定義すると、「社会的ジレンマ」という社会状況に該当する。

 

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1.モビリティ・マネジメントの背景となる「社会的ジレンマ」


◆社会的ジレンマ

『短期的、利己的にメリットのある行動を取ると、社会的・長期的なメリットは低下してしまう状況』
つまり、
今、自分の得になる行動をすると、みんなの将来のメリットが下がってしまう状況。

・交通渋滞などは典型的な社会的ジレンマ。
「短期的」=今自分がいい行動をするか、みんなの将来を考えた行動を取るか、
それで葛藤する状況のことを社会的ジレンマと言う。
・個人的な例としては、ダイエット。ジレンマとの戦い。
・社会的な例だと、自動車渋滞とか人工爆発の問題。スケールを大きくすると環境問題に。

 

 

2.社会的ジレンマの解決策である「心理的方略」と「構造的方略」について


◆社会的ジレンマの解決策

いろいろな学者(経済学者、心理学者、社会学者)が研究していて、理論的なものや実践的なものがある。
結局は、節度ある行動こそが、求められる合理的行動でしょうということになっている。

車はとても便利なものだけども、車全部をなくしてしまうというのはかなり極端な話。
車を節度を持って使うということが大切。
その節度を組み合わせて、それを目指すのが「モビリティ・マネジメント」という交通政策になる。

本来はどちらかというと行政用語、あるいは学術用語とまでは言わないけれども交通行政の用語。
「かしこい車の使い方の問題を考える」という言い方などを地域ではしている。

 

◆社会的ジレンマの解決策:交通渋滞の場合だと・・・

道路は正しく作る、道路課金をする、税金を高くする、
車の使用に罰金を設けるなど、さまざまな方法がある。
あるいは、車を控えよう、アイドリングストップをしよう!といった啓発キャンペーンを行ったり。
また、教育コミュニケーションというものもあり、
学校などで教えたりといった、なんらかのコミュニケーションをしたりする方法もある。

 

◆社会的ジレンマの解決策は大きく分けて2つ

・「構造的方略(ストラクショラル・ストラテジー)」
施設や法的規制などで社会的ジレンマの解消を図る方法。
社会の環境の構造を変えるという意味で、「構造的方略」と言っている。
いわゆる、法的規定などに入れられることもあるが、
ここでは人が変わるというよりは社会の環境を変えて、
それに合うようにゆるやかに人を誘導するという意味で用いている。

・「心理的方略(サイコロジカル・ストラテジー)」
啓発キャンペーンや教育コミュニケーションの方を言う。
社会の環境とかは変わらないが、自分の、人の、心が変わるということで「心理的方略」と言っている。

 

◆「構造的方略」と「心理的方略」は車輪の両輪

上手く組み合わせて用いることが絶対。
しかし、こと、交通の分野においては「心理的方略」というのは、あまり重視されていない。
ハードの方が分かりやすいので、それでなんとかなるだろうということがずっと続けられている。

 

◆「構造的方略」だけで社会的ジレンマを解決できるのか?

(例)交通渋滞
道路、バイパスを作る、あるいは公共交通をものすごく便利にする、
それはやったとして莫大な費用がかかる。
また、道路、バイパスばかり作ると近所の住民が大反対する。
自動車税の増税や道路課金制度の導入などは、車使用者から猛反対を受ける。
また、導入した人は次の選挙で敗北するなど。

こういうものは必要だと分かっていても反対されるから実現しない。

コスト、空間的な提案をする、また、公共事業をみんなが受け入れるか、
その観点から、独裁国家でない限り、
「構造的方略」のみで完全な社会的ジレンマを解消することは無理である。

 

◆「心理的方略」だけで社会的ジレンマを解決できるのか?

生まれたときから徹底的にコミュニケーション、
教育キャンペーンをずっとやっていったとしても、
人間なので、必ず逸脱者が出る。反対してしまう、法律をおかしてしまう人はいる。
その非協力的な人が、協力的な人のおかげですいている道路を快適に走行可能という状況になってしまう。
これは、フリーライダーの問題で、社会的に許容されない。

ものすごく物事を単純化すると・・・

「構造的方略」として素晴らしい道路を作る。
道路を作って、富山のようにLRTを作ったり、自転車の施設を入れたりといった素晴らしい施設をつくる。
かつ、必要なときは車を使って、必要でないときは車を使わないといった教育を徹底的にやる。
かつ、フリーライダーをなくすために、
車ばかり使っている人をなんらかの方法で罰するなどの法律をつくるなど、
いろいろ組み合わせることによって、社会的ジレンマを解決できるということが分かっている。

 

・心理的方略は、これまでほとんど議論的バックボーンなしに、都市や交通の分野に用いられてきた。

「違法駐輪やめましょう」といった看板。あんなのを見ても誰も違法駐輪をやめない。

なぜかというと、「違法駐輪やめましょう」と言っているあなたは何者なのか、
そして、その言っている人は私に向かって言っているのか誰に向かって言っているのかが分からない。
また、やめましょうと言っておいて、
じゃあどうすればいいの?どこに止めればいいの?ということを何も言っていない。
こういうコミュニケーションは失敗します。
コミュニケーションの送り手と受け手がきちんと分かっている、
また、どうなってほしいかということをきちんと言わないといけない。
これをきちんと取り入れているのが、「モビリティ・マネジメント」。

 

◆「モビリティ・マネジメント」の定義(京大・藤井先生の著書より)

『一人一人のモビリティ(移動)が社会にも個人にも望ましい方向(※)に
自発的に変化することを促す、コミュニケーションを中心とした交通施策。』

※すなわち、過度な自動車利用から公共交通・自転車等を適切に利用する方向

ポイント

社会にも個人にも望ましい方向に、これは社会的ジレンマを解決する方向にということ。
それからお金や法律に規制されるのではなく、自発的に自分から進んで変化するということ。

 

◆MMの技術用途は一言にいえない。

地域の実情に合わせてカスタムメイドをして使用するのがいい

(例)
・自転車やウォーキングの情報提供
・どうしてそんなに車を使ってはいけないのかということが書かれた動機付け冊子
・具体的に直接アドバイスする方法
・行動プラン(紙の上で実際にシュミレーションをしてもらう)
・フィードバック法
・ニューズレター

 

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3.モビリティ・マネジメントの要素紹介(パーツ別にて)


◆プログラムではなくパーツパーツとしての事例を紹介

◆問い:
車が大好きな人だとして、公共交通は(東京のようにものすごく便利だとは言えないまでも)
一定程度、整備されているとして、どんなことを言われたら車を控えようと思うと思いますか?

 

①CO2のデータ:エコ活動を1年間続けた時にどのくらいのCO2が減るかというグラフ

・冷暖房を1度調節する。それを1年間続けると32kg減る。
・照明を合計1時間ほど頑張って消す。それをやって2kg。
・1日10分車を控えると、588kg減る。車はすごいCO2を排出する。

※環境に興味のある方、環境NPOの方などに効果あり?

・1日5分アイドリングストップをすると55kg。大したことはない。
今の車はアイドリングではあまり燃費を噴射しない。
1トン2トンあるものを動かすことがエネルギーをくう。
自動車会社が頑張って燃費のいい車を作っていますが、
総エネルギー(燃やしたエネルギー)のうち、
10%~20%しかエネルギーに使えない、あとは熱とかで逃げてしまう。

 

②肥満者割合と運動量の関係

・縦軸が運動量(歩数)、横軸が肥満者の割合(%)のグラフ
・大都市:神奈川、東京、兵庫、大阪、愛知などは肥満している人の割合が25%程度。
それで歩数は多い。日本の肥満はBMIが25以上でみる。
・地方都市:岩手、北海道、茨城、徳島、高地、大分などの地域は肥満の割合が明らかに多く、歩数も少ない。
これは間違いなく車依存であると思われる。

公共交通を使っていると、電車の乗り替えなどでかなり歩くので、
そういうところでも歩数が違ってくると思われる。

 

③国ごとの肥満度と都市内の徒歩、自転車、公共交通の利用率を表したグラフ

・オレンジが肥満率、青いのがそれ以外。
国ごと(アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、
ドイツ、スウェーデン、オーストラリア、オランダ、日本)で比較。
・アメリカは、都市内なのに9割くらいの車使用率で、肥満率が30%を越えている

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④車のコスト

・1日あたり1000ccの車を持つだけで1800~2000円くらいかかる(藤井先生の試算:東京)
・筑波大の学生の試算だと、1000ccの車で1300~1400円、軽自動車で900円くらいかかる。
・排気量が大きいとさらにコストはかかる。

※学生などはコストに敏感に反応してやめようと思うかも?

 

⑤車の事故率

1年1万キロで50年間使うとすると・・・
・300人に1人が事故死、250人に1人が死亡事故の加害者というデータがある。

自分が死ぬのはまだしも、誰かを引き殺してしまうかもしれない。
普通に暮らしていて、誰かを殺してしまう可能性があるのは車くらい。本当に危ない。

・地震と飛行機事故と交通事故、どれが一番怖いか?(小学校5年生くらいの授業にて度々実施)
だいたいは地震と飛行機事故。
実際には、地震で過去10年間に亡くなった方は115人(阪神淡路大震災が入らない)
※事務局注 本セミナーは東日本大震災発生前に開催されました

過去50年だと6886人(関東大震災が入らない)。
自動車で亡くなった方、過去10年に70135人、過去50年だと52万2966人というすごい数。

※この統計は、24時間以内の死亡者。
日本の交通事故の統計は24時間以内の死亡者を死者数と言っている。
ヨーロッパや他の諸外国などは30日以内の死亡者を死者数としているため、実際にはもっと多い数になる。

地震や飛行機事故よりも1000倍、10000倍くらい車の方が死亡率が高い。
そういうことに、車は便利だからなかなか気付けない、気付きたくないという現状がある。

 

⑥地域愛着について

・芭蕉の句:「よく見れば薺花さく垣根かな」
ゆったり歩いていていると気づけるもの。
自転車でも車でも気付かない、こういった季節の移り変わり、
においの違い、草花、近所の人との挨拶、話す機会も車だと減ってくる。

・鈴木はるなさん(山口大学・助教授)の研究
車ばかり使って生活していた人に車を強制的に、2万円程支払い使用をやめてもらう。
すると、地域の風土との接触量が増えたという研究結果がある。

・別の研究で風土(地元の公園、地元のお店など)との交流が増えると
地域愛着が強くなるという因果関係が分かっている。
これを合わせると、車ばかり使っていると地域愛着が薄れていくという状況になっていくことが予想される。
車で行きやすいお店の大部分は大企業で、どこでも同じ商品が買える。
どこの地域でも一緒のものになってしまう。
そういうものばかり触れていると、地域愛着は薄れていく。

 

⑦傲慢性

・東工大の学生500人に傲慢性を測るアンケートを実施(藤井先生の研究室の学生の卒論より)

アンケートと一緒に、その人が小さいころにどんな生活をしているのか聞いた。

(例)
・家では家族みんなで一緒に食べていましたか?
・ご飯を食べているときはテレビはついていましたか?
・地域のお祭りにはいつも参加していましたか?
・家族で出かけるときはいつも車でしたか? など

→傲慢性と子どものころの生活習慣の相関を取ると、
傲慢性に影響を及ぼしている変数は自動車移動だけだった。
子どものころに車ばかり使う県に育った人間は大人になると
傲慢になるというものが統計的に示唆された。
これは東工大のデータなので、日本全国どこでも当てはまるかは分からないが、
こういう結果が得られた。

※子どもをいる母親などには有効では?

 

⑧子ども

・子どもの肥満の問題
過去30年に学童の肥満は3,4倍になっている。
9~15歳の肥満傾向の割合は10%、1割くらいは肥満傾向にあるそう。
ちなみに、9~15歳の男の子は人生の中で最もやせている時期と
言われているのに、肥満傾向は増えている。

食生活だとか室内遊びの運動化などいろいろな原因があるとは思うが、
子どもの肥満の防止には食事療法よりもたくさん食べてたくさん動く方がいいとされている。

・5歳児の1日の歩行量の推移を、1987,1993,1997年で比べたグラフ
1987年には1万2000歩ぐらいだったのが、
わずか6年後には8000歩になって、10年後にはさらに激減している。
これは、モータリゼーションの増加。
室内遊びの増加もあるとは思いますが、
車に乗せられていることが原因だと思われる。

・幼児の死亡原因の第1位は死亡事故だが、交通事故で死ぬ子どもの数は年々減少。
それは、子どもの数が減っているよりももっと急激に減っている傾向がある。
なぜ、子どもの交通事故の死者数が減っているかというと、
交通事故の場合、車 対 歩行者が多く、
子どもが歩いていて車が来てひかれて死ぬということが多いが、
最近の子どもは皆、車に乗せられて移動してるため、
車内で怪我している子どもの数は激増している。

※子どもの日常的な運動のために、徒歩で移動することが有効でしょうということが分かる。

何を言われたら車を控えようとすると思いますか?
人それぞれ。
人によって全然違う。

「モビリティ・マネジメント」を実施するときには、
まずターゲットを明確に想定するということが必要。
ターゲットを決めるのは基本中の基本(マーケティングの分野と同様)
それによってきく動機付けは変わってくる。

(例)
通勤通学の人、高齢者、主婦、高校生など
主婦の方だと先ほどの「子ども」関係が響いたり、
高校生だと「独立」ということが響くかもしれない。

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◆モビリティ・マネジメントの実施例

①動機付け冊子
なぜ車を控えなければならないかを理解してもらうのに効果的、かつ、重要。

(例)茨城県:高校生の通学時の公共交通の利用促進の動機付け冊子
・茨城県の高校生は毎年3万人。3月20日頃の高校説明会にて全員に配布。
そこには保護者も来るので、保護者と高校生の両方に読んでもらえるように作っているパンフレット。

・高校へは環境に優しいバスや電車で。環境に優しいことを示したグラフ。
公共的な空間に接するというのは社会性を身に付けるために貴重な機会で体験ですという事例。
バスや電車の時間に合わせて自分の生活をすると規則正しい生活を送れるという事例。
バイクや自転車で通学するよりもずっと安全で、事故率も低い。
茨城県の公共交通の利用者は年々減少しており、
気付いたら(公共交通が)なくなっているということが起こらないよう、
普段から公共交通を使ってほしいという呼びかけ。

(例)筑波大学:キャンパスバスの乗り放題定期券の動機付けの冊子
・筑波駅から筑波大学(循環)へのバス定期券の利用促進
・1年間4200円(学生)で乗り放題。破格の値段。
・こんな使い方ができます、申込はこんなに簡単ですといった紹介
・具体的な申込書や時刻表など(白紙で切り取れる時刻表が付属。自分で時刻表を書き込める)

(例)茨城県:「かしてつバス」の動機付け冊子
・鹿島鉄道の鉄道が利用者が減少から平成19年に廃線。
その跡地をバスの専用道化するというプロジェクト
(筑波大の石田はるこ先生氏によるもの)。
去年の8月30日に開通。
・専用道なので、バスだが遅れる心配がない
(プラスマイナス2分以内に来る割合を提示)。
・環境問題、バスでダイエット、子育てにもバスで安全、
住民用にさまざまな状況の事例を漫画で紹介。
住民用、沿線の高校生用のもの(さくらちゃんの通学編・サッカー部の青春編・あきらくんの通学編)があり。
沿線企業にもMMを実施。
企業で通勤する人をターゲットにしたものもある。
(らくらく通勤編、メタボ編、子どもとの触れ合い面)

 

◆動機付け冊子は、可能な限り、ターゲットごとで細かくやるのが一番いい。

・筑波大のものは大学生という均一な集団だったので作りやすかった。
・全市民対象というものはつくるのは難しくなると思われる。

なので、構造を変えてほしい人の属性、
何に興味があるかとかも明確にイメージした上で動機付け冊子を作り、
それを通して車を控えなければいけないというのを勧めるのが重要。

②公共交通の情報提供

なんで車を控えなきゃいけないかを分かってもらった後に、
実際にどうやって公共交通を使ったらいいかの説明書的なものが必要。
家電を買ったときのマニュアルや説明書のようなもので、とても重要である。
使い方の部分(時刻表、路線図など)をきちんと整備しておかないと公共交通を使ってもらえない。

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一人一人カスタマイズした公共交通情報(オーストラリアの有名な事例)

・専用フォルダにバスの無料チケットと生活情報と路線図がすべて入っている地図。
・一人ずつカスタマイズされたバスの時刻表。
・表面に自宅から会社の時刻表と下にバス停の地図。裏面には会社から自宅の時刻表と地図。
・一人一人に専用にカスタマイズしてつくっている。これを何万世帯分もやっている。
・一人7000~8000円をかけてやっているプロジェクト。かなり大成功したということで知られる。

 

パリのバスマップ

・ツーリスト用と住民用と身体障害者・バリアフリーのものが載ったものを分けている。
・皆が使いやすいものはなかなか難しい。ターゲットを絞らないと的を得たものにならないかも。

 

アテネの観光客用バスマップ

・事例

福井のバス列車マップ

・NPOの方が制作。私のバスマップはこの真似をして作っているものが多い。素晴らしい地図。
・地図だけでなく時刻表も結構重要。
・ヨーロッパに行くと、全部の路線の時刻表を自由に取れるコーナーが必ずあるが、日本ではあまりない。
時刻表をその路線ごとの停留所で取れることも重要だと思う。

 

◆バスの乗り方を丁寧に説明する。

車ばかり乗っている人は、実はバスの乗り方はあまり分からない。
前から乗るのか、後ろから乗るのか。
最初にお金を払うのか、後でお金を払うのか、
とかそういったものが分からないので、
乗りたくないな、難しいなと思って乗らなくなってしまう。
そういった行動へのプラン。

車控えなきゃいけないんだという動機付け冊子を持ってもらって、
具体的にこうすればいいんだなっていう公共交通情報が分かったとして、
車からバスに変わってもらえるかというと決してそんなことはなく。
バスに乗ろうと思って、本当にバスに乗ってもらえる人は1割か2割というふうに言われている。
その割合を上げるための仕掛けが「行動プラン」というもの。

 

③行動プラン

具体的、アンケートの紙の上で、
バス・電車利用をシュミレーションしてもらうというもの

(例)
帯広のデマンドバスの利用促進のチラシ

・「近隣のバスを使ってみませんか?どこからでもどこへでもお電話一本でほどんど待たずにすぐ行けますよ。まずはお電話下さい」というもの。
・このチラシと一緒にアンケートを配り、お試し券(無料のチケット)も一緒に配る。
アンケートには、「このお試し券を使う機会はあると思いますか?」
→「ある・あるかもしれない・ありえない」で、
「ある・あるかもしれない」と答えた人には、「いつ・どこからどこまでですか?」と具体的に考えてもらう。
お試し券を利用するのに、「いつ、どこから予約の電話をしますか?」という
デマンドバスの一番大きなハードルであるバスの予約のやり方をイメージしてもらう。
これをやることで、実際にシュミレーションができ、ハードルが下がる。

路線図をなぞってもらうものもある。

小学校生用
・一番大変なものですが、小学生にとっては楽しい作業。
・車を使う予定を書いてもらい、それを変えられるかどうかを考えてもらう。
その上で変えられるとしたらどういうふうに変えるかを書いてもらい、
そこに交通機関シールを貼ってもらうという作業。
その後、分からなかったことやもっと調べてみたいことを書いてもらう。

「動機付け冊子」ときちんとした「公共交通情報」と「行動プラン」が
モビリティ・マネジメントの有力なもの(メジャー)である。

④それ以外の手法

◆ニューズレター

興味をもってもらい、なんかいいなぁというポジティブなイメージを形成してもらうために有効

(例)龍ヶ崎市(茨城県)
運転手の顔写真と生声の入ったインタビューやコミュニティーバスの誕生秘話、
苦労話などを誕生秘話ということで連載。セントラムでもあると思われる。

◆バスに対してもらった意見や要望に丁寧に答える。一つ一つを郵送で返信することも実施。

◆運転手の接客態度や運転技術の向上

運転手の態度が悪くて公共交通に乗らないという人は結構いるのでは?
1回でも嫌な思いをしたら、もう乗りたくないということがあるのではないでないか。
バスの総合満足度にドライバーの接客とか運転操作が結構重要。
乗客属性や混雑度よりもドライバー要員(接客とか運転操作の要員)が
一番総合満足度にきいていたという調査結果も得られた。
なので、バスの運転手やLRTの運転手の教育はすごく重要だと思う。

 

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◆イメージ戦略

・自治体の職員は不得手な分野だと思うのが、富山市はこれ(デザイン)がとても素晴らしい。

・「車は 人の心を動かすためにある。これまでも。これからも。」
※日産スカイライン広告コピー

車会社は1960年代から今までずっとイメージ戦略を徹底的にやってきた。
だから、車っていいなぁってかっこよくてっていうイメージがある。
車1代あたり10万円くらいが広告費だと言われていた。

車は確かにかっこいい。ただ、過度に依存してしまうとカッコ悪いと思いたい。
富山の公共交通は本当にかっこいいと思う。
こんなところに住んでいる方は本当にうらやましい。

公共交通を日常的に使うライフスタイルはとてもかっこいい。
そういう意味でもイメージ戦略は重要。

 

◆東京メトロの広告(3,4年前の宮崎あおいさんを使用したもの)
東京メトロのダサイイメージを払拭。

 

◆筑波大のカーシェアリングの広告
キャッチコピーをコピーライターの方に考えてもらい、ロゴ・ポスターもデザイナーに依頼。

 

◆バス初心者のためのフレーズ集
車利用者はバスを利用したことがないので何を言ったらいいか分からない。
例えば、「こんにちは、これは○○に行く正しいバスですか?」といったフレーズが書いてある。それがしおりになっている。

 

◆かしてつバス
季節の移り変わりを感じる広告。
「ただの通学路は、いつか一生ものの記憶になる」というキャッチコピー。

公共交通を使うライフスタイルはかっこいいというイメージ戦略は、MMにおいて重要視されている。
奇抜な印象がデザインかというとそうではなくて、機能的かつ美的に優れたツールこそが大切。
なので、デザインやキャッチコピーが大切である。

 

◆実際に行動プランの作成(ブレイクタイム)

富山駅から富山大に3時に打ち合わせに行く際の行動プラン。

・使用するもの:「行動プラン表」と書かれたA4の白い紙、バスマップ
富山駅から富山大学までの移動例(携帯電話を使用して検索するのもOK)

まず富山駅と富山大を書き、間の経路を調べて埋めていく(交通手段、発着時間を書く)。

行動プランをつくってもらうことができれば、
心理的な抵抗を減らすことができる(という実験結果あり)。

 

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4.モビリティ・マネジメントの事例紹介


今までパーツパーツの話ばかりしてきたので、事例紹介。
公共交通の利用促進というよりは、意識向上、活性化を目的に行ったもの。

 

◆小学校のMMの事例

小学校でモビリティ・マネジメントを行う目的は大きく2つ。

一つは「こども」。子どものより深い内面に小さいときから働きかける。
もう1つは、公立学校は地域社会の縮図なので、子どもを通して保護者にも働きかけることを狙っている。
行動プランを子どもにやってもらい、それを子どもから保護者にも伝えてもらうことで、専門家が伝えるよりも変わる確立が高まる。

①TDM(トランスフォーテーション・デマンド・マネジメント /トラベル・デマンド・マネジメント)の一環として

学校計画として市の教育委員会と都市計画の部署が協同でやっているもの

車大きいでしょ、どれがいい?という問いかけをして、
車にどんなイメージを持つか聞いて、いいイメージを上げてもらう。
その次に、ほんとにそうなの?問題もあるよね?ということを考えてもらって、葛藤場面を設定する。
メリットデメリットをあえて極端な2つにしぼり、
「車は環境に悪いから、この世からなくすべき」というグループと
「環境なんて関係ない、車は便利だから今まで通り乗り続けるよ」というグループをつくって、
どっちでしょうということを、黒板の上に線を引いて、
名前マグネットをはってもらい、自分の考えを表明させる。
これはずっと同じではなく、自分の考えが変わったなぁと思ったら
タイミングを見て変えていいよといって変えてもらい、結構変わる傾向にある。
どっちか迷って、真ん中とかちょっとどっちらかよりに置く子どもが多い。

次に、動機付け冊子に書かれていたような内容を、クイズ形式で出題。
交通環境教育なので、教育に結びついたこともする(地球温暖化の仕組みなど)。
クイズを通して、問題はあるけどどうしようということで、かしこい車の使い方を教える。
その後、行動プランをやってもらうというのが、一連の授業の進め方。

②「交通すごろく」というゲームを用いた学校の事例

・必要物

すごろく板、人数分のコマ、自動車カードと電車カード(各1枚ずつ)、
出したカードを記入する用紙

・ルール:早くゴールすると勝ち(通常のすごろくと同様)

せーので、自動車か電車か好きな方を同時に出す。
電車カードは渋滞しないからいつでも3コマ進めるが、自動車カードは渋滞するので、
出した人の人数によって進める数が異なる。
出した人が1人だけだったら6コマ進め、2人だったら5コマ、
6,7人が出したら1コマぐらいしか進むことができず、電車よりも進めないというゲーム。

・心理的方略というところでつくられている。
・1回終わった際にルールを変更する。

電車カードは今まで3コマ進むことができたが、
公共交通が不便だったら2コマしか進めない(という場合をやる)。
これをやるとどうなるか・・・今まで、電車ばかり出していた子どもがみんな車を選び始める。
みんなが車を選んでしまうと、渋滞するので進めなくなる。
電車の子も進めないし、車の子も進めなくなる。
すると、場に出す数が1回目の1.5倍ぐらいになる。
これは社会的なデメリットが大きい、コストがかかっているという状況。
子ども達はなんでこんなに進めないんだろうとイライラしながら、何回も何回もやる状況が起こる。

・最後にルールを変更する。

日本はこれから高齢化社会で、
高齢者は電車しか使えません(車は使えない)というルールにする。

2名(誕生日が早い人など)を高齢者役にし、電車しか使えない子を固定する。
この3回目のゲームでは、自由にカードを出せる子どもが車のカードを出すようになり、
高齢者以外の子はものすごい早くゴールする。
でも、高齢者の子は2マスずつ地道に進んでいかなければならない。
場に出す回数は2回目よりもこちらの方が少なくなる。
なので、社会的なコストはこちらの方が少ない。
ですが、とても不公平な社会。実際、高齢者役になった子は本当に理不尽に思っているという状況が出てくる。

・このすごろくで起こった状況を説明。

早く着こうと思って車を使って、道路が渋滞して、遅くなっちゃった。
早く着こうとしたのに遅くなる。
これは「社会的ジレンマ」っていうんだよ、というキーワードをあえて伝え、想起しやすくする。
車を使うことは事故も増えるよね、環境問題にもなるよね、
電車・バスを使わないことにもなるからもっと不便になるよね、
そこに高齢者社会が起こってしまったら、電車・バスしか使えなくなるよね、
これって不公平だよね?ということを伝える。
このために車をちょっと控えて、使えるときは電車・バスを使いましょう。
すると、道路はすくので、車利用の人は早く着くでしょ?
電車・バスはもっと便利になるよね。ここで高齢者社会が起きても、
高齢者は便利な電車やバスを使えるよね?ということを説明する。

・時間に余裕があるときは子ども達に実際に話し合ってもらったり。
いろんな活用の仕方ができるゲーム。

 

◆中心市街地(地元の市街地)への買い物MMの事例

◇山口大学の鈴木はるなさんと京大の藤井先生の取り組み。

・買い物交通は個人の嗜好や週間に依存してしまっているので、
企業とか学校などには難しいが、目的地変更の可能性が高い。
また、買い物行動をする人は家計を担う人という特徴もある。

・買い物MMはただ単に交通政策ではない。
商業が過度に自動車に依存した地域だと、
動車を使わない高齢者の買い物機会が奪われる。
また、地域経済の観点からも、地域のいろいろな資本を地域外(大企業)に吸い取られてしまい、

収益が低下すると撤退してしまう可能性があり、
そこに住む人が買い物難民になってしまうという状況が日本全国で起こっている。
そういう意味で、地域のお店で、しかも自転車や徒歩でお買い物をするという方向に
機会を見直してみてほしいということをやっている。

・まずは情報提供。あなたの買い物行動がどういう結果を引き起こすか教える
(健康、環境、地域経済のことなどを動機付け冊子にて)。
そして、地域の生産品と店舗を紹介する(実は地元の近所にこんなお店があったんだということを調べ、制作する)。
その後、行動プランをやってもらう。実際に店舗に行けそうか、
道順を地図でなぞってもらい、行動をシュミレーションしてもらう。
結果、地域のお店を今よりももう少し利用してみてもいいと思う人が98%、25%が強く思うようになった。実
験前後の消費行動の結果から、パンフレットに掲載されている
店舗の利用頻度を推計した結果、週当たり0.79から1.72回に増えたという推定結果もある。
効果があったところは、実験後に5,6%の打ち上げが延びたお店もある。

 

◆車両流入規制の拡張(歩行者天国の拡張)のまちづくりの合意形成のために使った事例

◇まちづくりの合意形成のために、MM的な手法を援用した事例

・中心市街地に車がいると、安全面・経済的な側面だけでなく、
街のコミュニティ・景観も悪くなる。
自由が丘は自動車流入規制をもっと拡張したいと思っていて、
そのために商店街の合意形成をしなくてはいけなかった。
その手伝いをした研究
(自動車の持つ、心理的な悪影響の存在を検証し、それを商店主にフィードバックする。
それで自動車流入問題に気付いてもらえるかどうかを検証する)。

・自由が丘対象

・雰囲気、楽しさといった要素を抽出し、それが自動車の干渉の有無でどう違うかについて分析。
それを商店主に見せ、商店主がどう変わったかというのを計測する。

・仮説1 歩行者にとっては、車の影響がある場合より
ない場合の方が楽しくて雰囲気がよい。

・仮説2 その事実を商店主に提供すると商店主が車はあんまりよくないんだという方に、
車両流入規制(歩行者天国の推進)側にかたむくというもの。

・現状 車両入流規制は日曜日と祝日の3~6時のみ実施。

・研究
1.商店主調査

商店主(214の商店から)に
歩行者天国賛成ですか?
もっとやることに賛成ですか?
歩行者天国は週末だけやるのはどうですか?
歩行者天国で雰囲気がよくなると思いますか?
お客さん増えると思いますか?
売上増えると思いますか?
というアンケートを実施。

2.歩行者の調査

歩行者の意識調査をヒアリングしたものと、
歩行者の自動車干渉調査を実施(500人実施。
対象の歩行者がどういう風に車と接触したのを観察し、
場合分けして、チェックし、観察、記録。アンケートも行う)。

・結果
週末の歩行者天国の時間帯は統計的に意味のあるように、
歩きやすく、雰囲気がよく、楽しく、自動車が気にならなかったと答えた。
歩行者天国の時間帯とそれ以外の時間帯を比べた結果、
歩行者天国の時間帯の方が皆楽しいと言っていることが分かった。
それで、その結果をまとめ、チラシを作成し、商店主に見せた。
歩行者天国を延長してほしい人は92%もいました。

みんな歩行者天国の方が楽しいし、
雰囲気もいいし、歩きやすいということを言っていましたと伝える。
その後、商店主の実施事前と事後の意識の違いを調査。
結果、歩行者天国を今のままにした方がいいと答えた人は、事後には減り、
歩行者天国の時間を延長したらという人が増えた。
毎日やったらという人も少ないながら増えている。

歩行者天国の方が雰囲気がよくなると答えた人も増えてきて、
来客数も売り上げも増えるかもと思った人が増加した。

これは全部、歩行者天国拡張を指示する方向に統計的に意味のある変化がみられている。
商店主の合意形成をするために、
こういったMMの手法が一定程度役にたつということが分かった事例。

ちなみに、自由が丘では、この結果から歩行者天国が3~6時から12~6時に延長した。

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◆MMのいろんな事例に関わって強く感じること・・・

行動変容は簡単ではなく、頑張って考えてもなかなか変わってくれない現状がある。
でも、きちんとやれば不可能でもない。
ただし、MMだけ、心理的方略だけで、社会的ジレンマを解消するのは難しく、
限界があると思われる。そういう意味でも、心理的方略と構造的方略を適切に組み合わせることが一番望ましい。

その意味で、富山市の方がほんとに心からうらやましい。
こんな素晴らしいハードがある街は日本全国ない。
そういったところにこのMM的なことをもう少しやれば絶対利用者は増えるに決まっていると思う。

なので、一人一人の取り組みが重要というのは、
言うは易し行うは難しだが、ジレンマは個人の
一人一人の行動が変わらないということをきもに命じた上で、
今すぐできることから、実現できるタイミングを狙ってやっていくことが必要である。

(例)
・居住地:引越しするときに公共交通が便利な場所を選び、住む
・地産地消:環境負荷の高い、旬な食材でないものをできるだけ買わないとか地元のものを大切にする、
地元のお店に行くようにするなど。職人が大切に誇りをもってつくられたものを使うなど。

そういった日々のことからやっていくのが重要。

 

◆参考文献

入門として ・・・「モビリティ・マネジメント入門」
他にも ・・・「社会的ジレンマの処方箋」

 

◆質疑応答から

・MMを言う際に、環境だけだと今後限界がある(電気自動車など)。
環境だけではなく、健康にもよくない、中心市街地の活性化とか公共交通なくなる、
地産地消、車のいいところ、悪いところをできるだけ複合的に考えてもらうことを必要。

・「交通すごろく」は大人がやっても面白い

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